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「スペインサッカー ラ・リーガ」プロデューサーからのメッセージ。WOWOWとラ・リーガの20年間とこれから。

 はじめまして。WOWOWの瀧口 創と申します。

 私は、今年の4月まで約11年間にわたって、WOWOWのスポーツ番組のプロデューサーとしてサッカーを担当してきました。
 今回は、WOWOWでサッカーを楽しんでくださっているファンの皆さんに、御礼とお詫びの気持ちをお伝えしつつ、これまでの番組制作に関するエピソードや、これからのWOWOWサッカーについてメッセージを書かせていただきます。
 少し長い文章になりますが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

ラ・リーガ20年間の放送に幕を下ろす

 これまで20シーズンにわたって続けてきた「スペインサッカー ラ・リーガ」(以下、ラ・リーガ)と、毎週月曜夜にお届けしてきた「リーガダイジェスト!」が、今シーズンをもって終了することが決定しました。私自身、担当者としても本当に残念です。

 視聴者の皆さんとしても観たいリーグや試合を放送・配信するメディアが毎年のように変わる状況は、喜ばしいことではないと思います。年々、コンテンツ確保の厳しさが増す中でも、WOWOWはラ・リーガの放送を20年も続けることができ、「ラ・リーガはWOWOWで観られる」というイメージもだいぶ定着してきたと思います。それが今回崩れてしまったことは、番組の責任者としても本当に申し訳なく思っています。

スペインサッカーの隆盛が番組制作の原動力だった

 WOWOWがラ・リーガの放送を始めたのは2003-04シーズン、ちょうどバルセロナにロナウジーニョが、レアル・マドリードにベッカムが加入したシーズンでした。結果的にそれからの20年間というのは、バルサとレアルを中心にスペインのサッカーがどんどん盛り上がっていく一番いい時代でした。

ラ・リーガを牽引したメッシとクリスティアーノ・ロナウド

 中でも一番盛り上がったのは、やはり2010年前後でしょう。バルサの監督にグアルディオラが就任し、メッシ、イニエスタ、チャビといったメンバーでラ・リーガを席巻し、UEFAチャンピオンズリーグも制覇。その勢いに負けじとレアルもクリスティアーノ・ロナウドの加入などで存在感を強めていったり、アトレティコ・マドリードも台頭してきたり。その一方で、スペイン代表もワールドカップ優勝やEURO連覇などを成し遂げて、クラブでも代表でもスペインがサッカー界の中心的存在となっていきました。

 その時期のラ・リーガの放送をずっとWOWOWがやらせてもらえたことは、本当に幸運だったと思います。メッシやロナウドのような選手が、トップ・オブ・トップのスターに成長していき、名実ともに世界No.1プレーヤーの座をかけたライバル対決を繰り広げていく過程を、ずっとお届けすることができたわけですから。おかげで我々の中にも「ラ・リーガのサッカーは間違いなく面白い!」という確信が芽生え、それが結果的に20年もの長きにわたって中継を続けてこられた原動力にもなっていたと思います。

バルサの本拠地カンプ・ノウの実況席で、セッティング中の一場面

競技と選手への愛情、リスペクトが絶対に必要

 私自身は約11年間、ラ・リーガの番組制作に関わり、最終的には2018年からこの4月まで番組のチーフ・プロデューサーを務めていました。

 大学まで部活でサッカーをやってきて、大学時代はスペイン留学も経験していて、もともとサッカー好き、スペイン好き、そして、何よりスペインサッカーが大好きでした。ですから、WOWOWに入社して数年でラ・リーガの番組制作に携わることになった時は、うれしさよりも驚きのほうが大きかったです。まさに自分のど真ん中でしたから。

 日本時間では深夜から朝方にかけて行われる試合が多いので、スタッフはみんな週末に昼夜逆転の生活になるという肉体的な大変さもありましたが、これだけ好きなものに携わることができたわけですから、本当に幸せな11年間だったと思っています。

 WOWOWのサッカー中継も、学生時代から大好きでよく観ていました。ラ・リーガの試合そのものが面白いというのもあったのですが、WOWOWの番組は、中継の中でいろいろと新しい発見をもたらしてくれていたのです。試合分析だけではなく、選手やチームの知られざるストーリーとか、ホームタウンやファンの特徴とか、そういう試合のフィールド外の情報も丁寧に伝えることで、「ラ・リーガって面白いんだよ」ということを教えてくれていた印象です。

 ですから、自分がラ・リーガの番組を担当するようになってからも、そういうものは大事にしていきたいと意識していました。WOWOWは有料チャンネルですから、地上波のサッカー中継などとは異なる付加価値を意識していく必要があると思っています。単に欧州の試合が観られるだけでなく、そこにプラスアルファがないと、お客様には満足していただけないのではないかと。

 そのためには、リーグやクラブ、選手たちの情報に精通していること、そして何より根底にサッカーという競技そのものへの愛情や、すべての選手たちへのリスペクトが必要不可欠だと思っています。もちろん、それは表立って宣言してきたことではないのですが、そういう部分が観ている皆さんに少しでも伝わっていたのならうれしいです。

選手の姿を通じてチームに魅了された

 ラ・リーガに関わってきた中での思い出は、本当にたくさんあります。ラ・リーガはどうしてもバルサとレアルの存在感が図抜けていますが、それ以上に私の印象に強く残っているチームのひとつが、アトレティコ・マドリードです。

2013-14シーズンのアトレティコ躍進の原動力となったジエゴ・コスタ

 私が番組に携わって2年目の2013-14シーズンに、初めて番組の企画提案が通ってサッカーのドキュメンタリー番組を手掛けることになりました。私が番組で追いかけたのが当時アトレティコに所属していたジエゴ・コスタ選手です。ちょうど彼が2014年のワールドカップに向けて、ブラジルとスペインどちらの代表を選ぶかが話題になっていた頃で。そうしたら、なんとそのシーズンにシメオネ監督率いるアトレティコが快進撃を見せ、18季ぶりとなる奇跡的な優勝を成し遂げてしまうのです。取材の中でチームの雰囲気などもよく知っていましたから、あの時は本当に感動しましたし、アトレティコが大好きになってしまいました。

18年ぶりの優勝を目前に盛り上がるアトレティコのサポーター

 そういう事例が11年間の中にはいくつもあります。とある選手を追って取材をしていると、おのずとそのチームに食い込んでいくことになります。すると、どんどん愛着が沸いてひいきのチームになってしまいました。「あくまでも公平な立場でいなければ」と思いつつも(笑)。そうやってのめり込んでいくのがまさにラ・リーガの魅力、サッカーの魅力だと思います。

コアなファンの満足度を上げることに力を注ぐ

 この20年間では、サッカー中継を取り巻く環境も驚くほど変化を遂げてきたと思います。ラ・リーガの番組がスタートした2003年頃は、まだ有料で観るサッカー中継といえばWOWOWかCSという感じでしたが、今ではさまざまな配信サービスも始まり、選択肢が格段に増えました。それでもWOWOWでサッカーを楽しんでくださっているお客様が思った以上にたくさんいらっしゃって。この数年は、そのことを本当にありがたく感じながら番組づくりをしていました。

 また、良い意味で見る目が厳しいお客様、サッカー番組に対する要求が高いお客様が増えた。そんな印象を、ここ数年で感じています。皆さん、海外サッカーがものすごく好きで、選手やチームの情報量が多い方や、戦術に詳しい方の存在を実感するようになりました。2020-21シーズンの後半にWOWOWがUEFAチャンピオンズリーグ(以下CL)とヨーロッパリーグ(以下EL)の放送と配信を始めてからは、特にそれが顕著です。

 以前は海外サッカーに興味のない方たちにもラ・リーガの面白さを伝えること、つまり間口を広げるような発想を持っていたのですが、今は間口を広げることだけでなく、コアな人たちの満足度を上げていかなければならないと考えています。そういう方たちに「お、分かってるね、WOWOW」と感じていただけることで、改めてWOWOWへの評価も上がると考えています。

放送を通じて日本サッカーの発展に貢献したい

 ラ・リーガの放送は終わってしまいますが、来シーズンもCLとELは引き続きWOWOWで中継させていただきます。20年間ラ・リーガの番組で続けてきた丁寧な番組作りをCLとELの放送でも活かしていくことが、まずは今の我々にできることだと思っています。

 私は、ヨーロッパの最高峰のサッカーをお届けしていくことは、ある意味、日本サッカー界の発展にも少しだけ貢献できているのではないか、と思っています。本人に直接聞いたわけではないですが、おそらく乾貴士選手や久保建英選手は、WOWOWでバルサやレアルの試合をご覧になっていたはずで、そこでラ・リーガへの憧れを抱き、「いつかはプレーしたい」という夢・目標を持たれたのではないでしょうか。20年もラ・リーガの試合を放送し続けたということは、実はそういう“種まき”を続けてきたことでもあったのではないかと。

 ですから、これからCLやELの中継に関わっていく若いスタッフたちにも、そういう思いは持っていてほしいです。元々のコンテンツの力もすごく強いですが、その面白さや魅力を小さな子どもたちにもちゃんと伝えて、彼らの中から将来の日本サッカーを背負っていくような選手が生まれてくれることを願っています。

 ラ・リーガでもプレミアリーグでもセリエAでも、その放映権を獲って中継するということは、それぞれが“種まき”の役割を担っていることでもあると思います。他社さんたちも、ライバルではありつつ同じくサッカーを盛り上げていく同志として同じ思いでやっていけたらいいなと思っています。

20年間の感謝の気持ちとこれからのWOWOWサッカーについて

 最後に、長らくWOWOWでラ・リーガやリーガダイジェスト!を観てくださった方々には、心から御礼を申し上げます。私自身が、これだけ楽しみながら番組を作ってこられたのも、何より視聴者の方々の存在があったからこそだと思っています。

 ラ・リーガの放送は終わってしまいますが、WOWOWのサッカー番組がなくなるわけではありませんし、今回お話ししたようなWOWOWが大事にしてきたことは、引き続きCLとELの中継の中でも表現していきます。

 サッカー中継を取り巻く環境は年々厳しくなってきていますが、これからもWOWOWは頑張ってサッカーを扱い続けたいし、続けてほしいと願っています。やっぱり、サッカーは世界一のスポーツですし、その世界一のスポーツを放送しなきゃWOWOWじゃないでしょ!と思っていますので。
 これからもWOWOWでサッカーを楽しんでいただけるよう頑張っていきます。

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クレジット:久保建英 写真/アフロ、ベンゼマ 写真/ロイター/アフロ、レヴァンドフスキ、ペドリ、グリーズマン、ヴィニシウス、メッシ、クリスティアーノ・ロナウド、ジエゴ・コスタ Getty Images

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