マガジンのカバー画像

映画のはなし シネピック

180
新しい映画と出会える。映画をより深く楽しめる。そんなコンテンツをお届けしていきます。担い手は、映画ライターSYOさんなど個性豊かな面々。それぞれの感性が作り出す映画愛は必見です!… もっと読む
運営しているクリエイター

2020年12月の記事一覧

「ああ、生きててよかった」と思わせてくれる「みんなの寅さん」の魅力

文=佐藤利明 @toshiakis  2019年、「男はつらいよ」シリーズ第1作から50周年を記念して待望の第50作『男はつらいよ お帰り 寅さん』が公開された。  「わたくし、生まれも育ちも東京葛飾柴又です。帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎。人呼んでフーテンの寅と発します」。歯切れの良い、車寅次郎(渥美清)の鮮やかな口上がスクリーンに初登場したのは1969年。アポロ11号が月面着陸、人類が初めて月世界に立った1カ月後の8月27日、寅さんはおよそ20年ぶりに東京・葛

タイカ・ワイティティが送った少年へのエール 『ジョジョ・ラビット』の音楽

文=長谷川町蔵 @machizo3000  第二次世界大戦下のドイツの田舎町。少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイヴィス)はこれからナチス傘下の青少年団体ヒトラーユーゲントの夏合宿に出かけるところだ。 「僕にはムリかも」 躊躇する彼に、ナチス・ドイツ総統アドルフ・ヒトラーその人がぬっと励ます(もちろん彼はジョジョの空想の産物だ)。 「大丈夫。お前のナチスへの忠誠心はピカイチだ!」  意を決したジョジョが玄関から飛び出すと、耳慣れたロックチューンが流れ出す。ザ・ビートル

スピードワゴン・小沢さんが「この連載で最も感情移入したキャラクター」と語る大物が登場! 心を撃ち抜かれたセリフとは?

取材・文=八木賢太郎 @yagi_ken ──今回は『男はつらいよ』ということで。小沢さん、あまり寅さん好きのイメージなかったんですが。 小沢一敬(以下、小沢)「そう? たしかに、若い頃はそんなに観てなかったのよ。先輩に勧められて1本観たぐらいで。なんかさ、自分が若かったせいもあって、温かいホーム・コメディだな、っていう感じでしか捉えられてなかったんだ。ところが、これは自分が歳を重ねたせいだと思うけど、今はもう、寅さんが大好き(笑)」 ──大好きっていうレベルなんですね

『ブロークバック・マウンテン』から『恋人たち』『his』まで――映画におけるLGBTQ+の今

文=よしひろまさみち @hannysroom  LGBTQ+をテーマにした映画は、世界的にみて2010年代から急増しているようにみえる。だが、これは劇中の彼らをステレオタイプにはめず、マジョリティであるストレート(便宜上この言葉を使いますが、正しくはヘテロセクシュアル)のキャラクターと同じように扱うようになった、という方が正しい。  というのも、アン・リー監督作『ブロークバック・マウンテン』(’05)よりも前に作られたLGBTQ+の映画といえば、主にゲイがコメディ・リリー

聴診器でなければ拾い上げられない声のこと。1本の映画から考える

文=安田菜津紀 @NatsukiYasuda  今回取り上げるのは、是枝裕和監督の『誰も知らない』('04)。  この映画のもとになったのは、実際に起きた子どもの置き去り事件です。映画の冒頭に是枝裕和監督は「登場人物の心理描写はすべてフィクションです」という言葉を添えていますが、SDGsの「目標1:貧困をなくそう」「目標3:すべての人に健康と福祉を」「目標4:質の高い教育をみんなに」の切り口で観ると、現実社会の中で子どもたちのSOSを阻むものが浮き彫りになります。 (S