『哀愁しんでれら』『窮鼠はチーズの夢を見る』『エセルとアーネスト ふたりの物語』映画好きの皆さんの気になる作品は? 1月のWOWOW初放送映画 厳選3作品
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『哀愁しんでれら』『窮鼠はチーズの夢を見る』『エセルとアーネスト ふたりの物語』映画好きの皆さんの気になる作品は? 1月のWOWOW初放送映画 厳選3作品

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 映画アドバイザーのミヤザキタケルさんが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメ3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし! のはず…。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

 今月は、実際の事件にインスパイアされたサスペンス、漫画原作の恋愛もの、世界的絵本作家の両親の人生を描いたアニメと、それぞれタイプの異なる3本の作品を紹介します。

『哀愁しんでれら』('21)

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土屋太鳳が出演を3度断るも挑戦した衝撃作

 TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM 2016でグランプリを獲得したオリジナル脚本を、渡部亮平監督が自身の手で映画化。モンスターペアレンツにまつわる実在の事件に着想を得て生み出された物語で、主演の土屋太鳳は出演オファーを3度も断ったほど衝撃的な展開が待つサスペンスだ。児童相談所で働く小春(土屋太鳳)は、ある夜、怒涛の不幸に襲われすべてを失ってしまう。そこに現われたのは、8歳の娘ヒカリ(COCO)を男手ひとつで育てる開業医の大悟(田中圭)。王子様のような彼に小春は惹かれ、瞬く間に結婚へと至り、不幸のどん底から一転、幸せの絶頂へと達するが…。

 物語冒頭、小春は不運の連続に直面するが、良いこともあれば悪いこともあるのが人生で、その道理を証明するかのごとく大悟と結ばれ結婚する。途中までは、まるでおとぎ話のような恋物語を純粋に楽しむことができるでしょう。だが、お察しの通り、本作はそういった方向性の作品ではない。「めでたしめでたし」で締めくくられるような結末など訪れず、物語は次第にその本性を顕わにしていく。

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 できることなら誰だって正しくありたい。誰かを憎んだりすることなく、穏やかに生きていたい。理想通りの自分でいたい。けれど、現実はどうだろう。幼い頃に母親が家を出ていき、“親”の定義に関して「こうあるべき」という強迫観念を持つ小春は、結婚したことで良き妻・母であろうと努力の日々を送る。だが、初めての子育てが理想とかけ離れ、次第に彼女の首を絞めていく。無論、人は間違える。間違いから多くを学び、次へと活かし、その繰り返しの果てに成長する。しかし、ネットやSNS全盛のこの時代、道を踏み外したり炎上したなら、必ずしも再起の機会に巡り合えるとは限らない。第三者からの容赦のない攻撃に心が蝕まれれば、学びも成長も難しい。そんな状況下では、「こうあるべき」という理想はもはや重荷にしかなり得ない。

 我が子を愛するがゆえに、叱ることと怒ることをはき違える。盲目となって多くを見落としたり、大きく道を踏み外す。本作を目にしたら、誰しも一概にそれらを否定できやしないだろう。愛や幸福を追い求めるがゆえの行動なのだと理解できるから。とはいえ、小春たちは一体どうするべきだったのか、どこで選択を間違えたのか、僕には分からなかった。何より、劇中で描かれている問題の数々は、僕たちが生きるこの現実社会に存在し、明確な解決策や救済策も設けられていない。風刺映画といえば大袈裟かもしれないが、「こうあるべき」といった呪縛から解き放たれることが難しい今の時代を見事に反映させた本作は、あなたの目と心にどのように映るでしょうか。

『窮鼠はチーズの夢を見る』('20)

サブ2

人を好きになることの喜びと痛み

 水城せとなの人気コミックを、『GO』('01)、『劇場』('20)の行定勲監督が映画化。学生時代から受け身の恋愛ばかりを繰り返してきた大伴恭一(大倉忠義)は、ある日、大学の後輩の今ヶ瀬渉(成田凌)と7年ぶりに再会する。「昔からずっと好きだった」と同性の渉からの突然の告白に恭一は戸惑うが、ただひたすらにまっすぐな彼に、少しずつ心を開いていき…。

 TVやネットで得た知識で満たされていれば、何となく分かったつもりになれてしまい、そういった分かったつもりの“無関心”が世の中にはびこってしまう。結果、未だジェンダー平等も成り立たず、LGBTQなどに関する問題も解決せず、相互理解もままならない。ただ、日常的にこの手の話題が上がるようになってきた今、これまで他人事と決め込んできた人も無関心のままではいられないところにきているように思う。だが、そうした問題にどう向き合って良いのか分からずタイミングを見失い、結局、先延ばしにしてしまっている人もいるかもしれない。もしそんな人がいるなら、同性愛者が抱える苦悩の一端や、異性愛者も同性愛者も変わらぬ普遍的な恋心を目の当たりにできる本作を、僕はオススメしたい。映画を通して、ネットなどでの知識や情報だけでは実感し難いかもしれない、人間の感情に触れていただきたい。

サブ6

 ストレートでマジョリティ側にいる人にとって、同性愛を考えることはあまりないかもしれない。しかし、同じように同性と関係を持つことを考えていなかった恭一の存在が、さまざまな思考を巡らせる機会となるだろう。また、マイノリティ側にいる人にとっても、今ヶ瀬の不器用で不安に押しつぶされそうな心持ちに感じるものがあると思う。恋愛において生じる駆け引きやすれ違い、誰もが抱く嫉妬や独占欲、相手への気持ちが冷めたり重く感じたり、後悔したりetc…。劇中で描かれる2人の恋模様には、恋愛におけるさまざまな感情が渦巻いている。状況に流されながらも徐々に変化していく恭一の姿、恭一と結ばれてもなお不安に蝕まれていく今ヶ瀬の姿、どちらからも多くの気付きを得るに違いない。

 人が人を好きになる気持ちは理屈じゃない。本当の意味で他者を理解していくために必要な糸口の数々が、この作品には宿っている。何も臆することなく、本作に飛び込んでみてください。

『エセルとアーネスト ふたりの物語』('16)

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世界的絵本作家の両親を描く、普遍的な家族の物語

スノーマン」「風が吹くとき」などの著者として知られるイギリスの絵本作家レイモンド・ブリッグズが自身の両親を描いた同名絵本を、ブリッグズから信頼を置かれるロジャー・メインウッド監督が9年の歳月をかけてアニメ映画化。戦前・戦中・戦後と激動の40年を懸命に生きたごく普通の夫婦、エセル(声:ブレンダ・ブレシン)とアーネスト(声:ジム・ブロードベント)の人生を映し出す。エンディング曲は、ブリッグズの大ファンであるポール・マッカートニーが担当。

 イギリスで最も愛される作家の一人であるレイモンド・ブリッグズ。1978年に発表され彼の代表作となった「スノーマン」は、1982年にアニメ化され、今なおクリスマスのたびに放送され続けているという。2018年には出版40周年を迎え記念コインが発行されるなど、イギリス人にとってはメジャーな存在だ。仮にあなたが彼の存在を知らなくても、「スノーマン」の絵はきっと目にしたことがあると思う。その程度の知識で本作を楽しめるかと不安を覚えた方、安心してください。本作には何の予備知識も必要ありません。

phエセルとアーネスト ふたりの物語b

 歴史上の偉人を描いているわけでもなし、ブリッグズが作家として大成していくまでを描いているわけでもなし、人並みに恋をして結婚し、人並みに欲も抱き、人並みに幸福を追い求める。目にするのは、1920~60年代を生きたごく普通の夫婦の姿。つまり、生まれた時代や国が異なる以外、僕たちと何ら変わらぬ存在なのだ。だからこそ、安心してエセルとアーネストの心に寄り添うことができる。また、忠実に再現されたブリッグズ特有の親しみやすい絵柄も相まって、自分自身や両親の姿を彼らに投影しながら観ることもできるだろう。

 ただ、僕たちとは生まれた時代が異なるがゆえに、大きくウェイトを占めている要素がひとつある。戦争だ。エセルとアーネストを身近な存在に感じられるからこそ、戦争の影に襲われる彼らの不安や恐怖がヒシヒシと伝わってくる。そういった要素もはらみつつ、人間である限り避けては通れぬ道や、人によっては既に通り過ぎた日々を、僕らは劇中の家族たちが過ごす時間を通して垣間見る。かつて祖父と祖母が、そして父と母もそうしてきたように、僕たちもまた親を見送る時がやってくる。家族のつながりや連なりを強く感じ、観ればきっと、自分の家族に思いを馳せる温かな時間を得られると思います。

 描き方は三者三様ながらも、僕たちが生きるこの現実に目を向けさせてくれる3作品と共に、1月も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。

ミヤザキさんプロフ20210917~

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クレジット
『哀愁しんでれら』:(C)2021『哀愁しんでれら』製作委員会
『窮鼠はチーズの夢を見る』:(C)水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会
『エセルとアーネスト ふたりの物語』:(C) Ethel & Ernest Productions Limited, Melusine Productions S.A., The British Film Institute and Ffilm Cymru Wales CBC 2016

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