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長年アカデミー賞の行方を追い続ける“オスカーウォッチャー”Ms.メラニーが今年ならではの楽しみ方を解説

 アメリカ映画界の祭典、アカデミー賞。新型コロナウイルスの影響で例年よりも遅い4月26日(日本時間)に授賞式が行なわれる「第93回アカデミー賞授賞式」の見どころを、長くアカデミー賞を追い続け、「なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ『アカデミー賞』」の著者でもあるMs.メラニーさんが解説します。

文=Ms.メラニー @mel_a_nie_oscar

 2カ月遅れて、今年もオスカー・シーズンがやってきました。私は長年、オスカーの受賞結果を全部門で予想して競うことを趣味にしているのですが、異例続きの今年は、なかなかいつも通りにオスカーの行方を占うわけにはいかなさそうです。

 新型コロナウイルスの影響で、2020年のハリウッドは大打撃を受けました。世界一の感染者数、死亡者数を出す結果になってしまったアメリカでは、2020年3月16日からハリウッドそのものといえるロサンゼルスの映画館が営業を許可されず、閉鎖状態が1年間続きました。ようやく上映許可が下りたのは、ノミネーション発表日の3月15日です。

 この状況により、2020年に公開予定だったハリウッド大作は次々と公開延期を発表。昨年のアメリカでは、劇場で観られる新作映画がほとんど存在しなくなってしまったのです。例年アカデミー賞は1月1日から12月31日の間にロサンゼルスで1週間以上劇場公開された作品が対象となります。しかし、そのロサンゼルスの劇場が営業していない状況だったため、映画芸術科学アカデミーは今回に限り、劇場公開の条件についてさまざまな緩和措置を取りました。その中でも一番大きく影響したのが、デジタル配信を公開と認める、という措置でした。

 これにより、今回の候補作品には、配信各社の作品がずらりとノミネートされる結果になっています。コロナ禍で世界中の会員を一気に増やしたネットフリックスやアマゾン、アップル、ディズニープラスなど、各配信会社はノミネートの新記録を打ち立て、特にネットフリックスに至っては30を超えるノミネートとダントツの結果です。そのせいか、今回のノミネーション作品は、製作費の大きさを誇るような大作が影を潜め、作家性の強い、ドラマ系の作品が多く見られる結果となりました。

 劇場公開がない、という事実は、私たち消費者が単に映画を映画館で観ることができない、というだけでなく、オスカーの観点から見た時にもさまざまな影響があります。劇場公開時にはスタジオが大々的な宣伝活動をし、出演者も意欲的にパブリシティに取り組むので、私たちの目には自然にその情報が入り込み、人々の話題にも上るようになります。その作品がヒットして、興行収入が記録になったり、SNSでトレンドになったりすれば、ますます人々の記憶に残ることになり、こうして認知された作品は、他の作品よりも先に観る対象となります。また、それなりの成績を上げた作品は、「多くの観客が認めた作品」と認識され、批評家やアカデミー会員の心証に少なからず影響します。

 一方、配信で公開される場合には、多少の宣伝やパブリシティはあるものの、一般的露出や浸透度は劇場公開とは比べ物になりません。また、配信でお薦めされる作品は過去の閲覧履歴からアルゴリズムによって個々にカスタマイズされているため、視聴者が選ぶ作品にその人の好みがより大きく反映されることになります。つまり今回は、「誰もが観たヒット作」「みんなの評判が良かった作品」などの存在がない中、一般的な話題性や、数字として表れる観客の評価という頼りになる指標を欠いた状態で、アカデミー会員は作品を選び、ノミネートする必要があったのです。

 そんな中、オスカーの前哨戦と呼ばれる各批評家協会賞で頭角を現したのは、中国出身の女性監督クロエ・ジャオの作品『ノマドランド』(’20)でした。第77回ヴェネチア国際映画祭で最高賞である金獅子賞に輝いた作品で、名女優フランシス・マクドーマンドが主演です。オスカー作品賞を獲得するために必要と言われている5つの部門賞<作品、監督、主演(助演)、脚本(脚色)、編集>の全てに加え、撮影賞の6部門にノミネートされています。作品づくりに必要な要素全てで評価されているとみなされ、最多10部門ノミネートの『Mank/マンク』(’20)よりも有力な作品賞候補との下馬評です。

 とはいえ、『ノマドランド』が独走状態かと言えば決してそうではなく、「どの作品も突出して強くない」というのが今回のノミネーションの特徴です。過去の統計的には、最有力候補が最多ノミネーションで、2番手、3番手がそれに僅差で続く、というようなことが多いのですが、今回は前出の『Mank/マンク』の次は6ノミネートで6作品が並び、1作品だけ5ノミネートという、ほとんど差のない状況です(※)。ノミネーションの数で圧倒的な『Mank/マンク』は、脚本と編集のノミネーションを逃したことで、作品賞受賞の可能性が低いとみられています。

 俳優賞では特徴的な変化がありました。ノミネートされている20人のうち9人が有色人種という、アカデミー賞において今までは考えられなかった状況になったのです。特に主演男優賞は、アフリカ系1人、アジア系2人、白人2人と、白人が少数派になりました。これは、アカデミー協会が2010年代に精力的に進めてきた多様化促進が形になったもので、結果的に誰が受賞するのか、今からとても楽しみです。

 個人的に注目している作品は『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア(原題)』(’21)で、作品賞候補の中で最後に公開された本作からは、助演男優賞で2人がダブル・ノミネートされています。その片方、ダニエル・カルーヤはこの部門の最有力候補と言われていますが、他の賞レースでは顔を見せていなかったレイキース・スタンフィールドが、ギリギリで助演男優賞に名を連ねた事実からは、ダークホースになり得るこの作品の勢いと、会員からの支持を感じます。台風の目となって、各カテゴリーの受賞結果を左右する存在となれば、授賞式はさらに面白くなるでしょう。受賞予想の観点からいくと、どの部門においてもここまで難しい年は非常にまれで、その分授賞式までの情報収集が鍵になると思います。

 配信作品が多くなった今回のオスカー、私たちにとってのメリットは、何と言っても授賞式までに配信で楽しめる作品が沢山ある、ということに尽きるでしょう。『ミナリ』(’20)『ノマドランド』は現在公開中で、劇場で楽しめる数少ない作品賞候補作品なので、授賞式までに鑑賞して「推し」を決めておくと、その作品が受賞した時の喜びはひとしおです。多様化が一気に進み、見慣れない名前が並んだノミネーション。なんだか地味、と感じる方も多いのではないかと思う今回のオスカーですが、小粒ながら良作ぞろいです。個性的なラインナップになったと捉え、各作品を自宅でゆっくり楽しむというのは、いかがでしょうか。

 ※6ノミネートは『ファーザー』(’20)『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア(原題)』『ミナリ』『ノマドランド』『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』『シカゴ7裁判』。また、5ノミネートは『プロミシング・ヤング・ウーマン』(’20)。

Ms.メラニーさんプロフ

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クレジット 提供:Photoshot/アフロ

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