人生はこじらせの連続! 『勝手にふるえてろ』『私をくいとめて』わかりみ深過ぎ、綿矢りさ×大九明子が織り成す世界
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人生はこじらせの連続! 『勝手にふるえてろ』『私をくいとめて』わかりみ深過ぎ、綿矢りさ×大九明子が織り成す世界

 映画アドバイザーのミヤザキタケルさんが、オススメの作品を1本ご紹介するのと同時に、その映画に合う作品をもう1本ご紹介する連載「シネマ・マリアージュ」。つまり<これを観てから、これを観るとさらに楽しめる>というコンセプトのもと、組み合わせの良い2作品を皆さまにお届けします! 今回は、ともに芥川賞作家、綿矢りさの小説を原作とした作品であり、大九明子が監督を務める『勝手にふるえてろ』と『私をくいとめて』をマリアージュ。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

『勝手にふるえてろ』('17)

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脳内の彼氏と現実の彼氏、二人の間でこじれていく恋愛模様

 恋愛経験のない24歳のOLヨシカ(松岡茉優)は、中学時代の同級生イチ(北村匠海)に10年間片想いしており、脳内でイチとの恋を楽しむ日々を送っていた。そんなある日、会社の同僚であるニ(渡辺大知)に告白され舞い上がるも乗り気になれず、ヨシカは同窓会を企画してイチとの再会を画策するが…。

 本来であれば風邪をひいた際などに用いられるはずが、いつの頃からか別の意味合いを持ち始め、今となってはそちらの方がメインで使われつつある言葉「こじらせる」。24年間恋人なし、10年片想いしている相手を脳内に召還したり、視野の端で好きな人を見つめる「視野見しやみ」を編み出したり、アンモナイトを購入してみたりetc…、その言動の端々からこじらせ臭がプンプンしてくる主人公ヨシカ。初めのうちはきっと、彼女のこじらせっぷりを面白おかしく見ていられるが、物語が進むにつれ、次第にその様相は大きく変化を迎えていく。

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「こじらせ」の“原因”と“理由”。そして…

 そもそも、「こじらせている」とはどういった状態を指すのだろう。辞書によって表記はさまざまだが、“問題を長引かせている”という意味である。風邪の場合、薬を飲むなり病院へ行くなり、対処法は明確。しかし、こと恋愛や人生においては、少々話がややこしくなってくる。特定の事柄において、強いこだわりや理想を持っている、もしくは、ひどく自信が欠けている。それらが「こじらせている」状態を生み出すと思うのだが、あくまでも“原因”であって“理由”ではない。「こじらせている」状態が続いてしまう最たる“理由”とは、“原因”を他者に打ち明けたり分かち合えなかったりすることにあると思う。ヨシカのケースで考えれば、10年間イチを想い続けてきた強いこだわり、イチという理想、24年間イチへの片想い以外の恋愛経験がないという自信のなさを抱えており、それらを分かち合える相手がいない。自身と異なる価値観に触れてこそ、良くも悪くも人は変化していくものだが、他者と関わりを持とうとしない彼女にそういった変化は訪れない。つまりは、「こじらせている」状態から抜け出すことができやしない。

 けれど、ニに告白されたことを機に変化の兆しが表れ始め、他者と本気で接しなければならない状況に追い込まれていくからこそ、芽生えるものがある。分かり合えもすれば衝突もするのが人付き合いで、その繰り返しの中でこそ、人は学びを得たり成長したりしていくもの。こだわりや理想を手放すキッカケを得られたり、自信のなさを払拭ふっしょくできるとすれば、それはやはり他者との関係の中でこそ生じるのだ。イチとニの間で大きく揺れ動き、不本意なからも他者と関わっていく道を歩み始めるヨシカの姿は、多くの気付きを与えてくれると思います。

『私をくいとめて』('20)

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おひとりさま必見! わかりみが深過ぎるアラサーのリアル

 何年も恋人がおらず、おひとりさまライフを満喫する黒田みつ子(のん)、31歳。彼女の脳内には相談役A(中村倫也)がおり、みつ子が迷った時にはいつも的確なアドバイスをくれる。ある日、年下の営業マン、多田くん(林遣都)に恋をしたみつ子は、ためらいながらも日頃のやりとりから両想いであると信じ、Aの力を借りて一歩踏み出そうとするのだが…。

 脳内にイチを召還する『勝手にふるえてろ』のヨシカとは異なり、脳内に相談役Aが存在するみつ子。二重人格というわけではなく、Aはみつ子で、みつ子はA(ネタバレではないのでご安心を)。僕たちが一人でいる時間にそうしているように、自問自答を繰り返し、思考を巡らせているだけのこと。あなたにも、気持ちが高ぶっている時でも頭の片隅には俯瞰ふかんで物事を見据えている感覚の心当たりがあると思うが、それこそがAである。その感覚をまるで別人格のように描き、実際に対話までさせる点が、本作におけるファンタジーであり、「おひとりさま」の設定をより強固なものにしていて、なおかつ、みつ子という人物を描く上での絶対的な魅力の一つとなっている。

人生はこじらせの連続

 かつて誰もが思っていたことだろう。30代はもう立派な大人だと。無論、大人であることは確かだが、思い描いていた理想の30代には程遠く、根本的な在り方は、10代や20代の頃とさほど変わらないという人も多いのではないだろうか。つまり、ヨシカのように20代でこじらせることもあれば、みつ子のように30代でこじらせることもある。直面する出来事は都度異なるが、いくつになろうと人生はこじらせの連続であり、他者と関わることでしか得ることのできないものがあふれている。『勝手にふるえてろ』に続き本作を目にしたのなら、より一層その道理が響いてくることだろう。

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「おひとりさま」。そんな言葉を用いることができているうちは、意外とまだ平気なのだと思う。一人焼き肉や一人旅など、「一人でこんなことができちゃう私(俺)、すごいでしょ」くらいに思っているものだ。30歳も過ぎればそれなりに人生経験もあるため、自分が傷つかずに済むための境界線をある程度把握できる。上手に自分をごまかし、嫌なことから逃げ出すのも造作はない。みつ子にとってのAのような存在が、アシストだってしてくれる。しかし他者の存在が入ってくると、そううまくはいかない。生き方も考え方も異なる他者と深く関われば、傷つかずに済むためのすべが通じず、境界線に土足で踏み込まれることもあるだろう。他者と生きていく以上、傷つく可能性は絶対に付きまとう。とはいえ、他者と関わらなければ得られない喜びがあるのも事実。

 傷つくリスクは減るが、上限のある喜びしか得られない人生と、傷つくリスクは増すが、極上の喜びを得られるかもしれない人生。どちらを選ぶかは人それぞれだし、そこに正解や不正解もありはしない。だが、おひとりさまのみつ子はおそらく前者の生き方を選んでいた。それは、人と関わることに恐怖を抱いてしまっているが故の選択。確信を持って前者を選べているのなら良いが、そうではないからこそ、みつ子は葛藤する。人との関わりに恐怖を抱きながらも、多田くんとの恋を諦め切れずにいる。

 誰かと一緒に居過ぎれば一人になりたくなるものだし、それでもやっぱり他者とのつながりが恋しくなってしまう瞬間も訪れる。それに気づいてしまっている場合には、答えは一つしかないのだと思う。ちょうど良いあんばいの、心地よい関係性を模索する。それは自分の中のもう一人の自分とではなく、目の前の他者と見いだしていくもの。衝突は不可避だし、分かり合えない瞬間も訪れる。相手に合わせ過ぎても苦しいし、相手に無理に合わせてもらっても苦しくなる。時には別れへと至ることもあるだろう。誰もが容易にたどり着ける境地ではないが、心が折れそうな時には、互いに支え合って乗り切る。それこそが人生を共にするということなのではないだろうか。みつ子がたどる道筋を通して、自身の人生や他者とのつながりを見つめ直す時間に巡り合えると思います。

 何かしらでこじらせている方や、変化を求めている方にはぜひとも観て楽しんでいただきたい2作品。ヨシカとみつ子が行き着く先を、ぜひセットでご覧ください。

ミヤザキさんプロフ20210917~

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クレジット
『勝手にふるえてろ』:(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会
『私をくいとめて』:(C)2020『私をくいとめて』製作委員会

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