恐怖の“実話”『ある人質 生還までの398日』と恐怖の“男の姿”『アオラレ』から垣間見る、誰もが手に入れるべき寛容な心
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恐怖の“実話”『ある人質 生還までの398日』と恐怖の“男の姿”『アオラレ』から垣間見る、誰もが手に入れるべき寛容な心

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 映画アドバイザーのミヤザキタケルさんが、オススメの作品を1本ご紹介するのと同時に、その映画に合う作品をもう1本ご紹介する連載「シネマ・マリアージュ」。つまり<これを観てから、これを観るとさらに楽しめる>というコンセプトのもと、組み合わせの良い2作品を皆様にお届けします! 今回は、過激派組織によって誘拐された男の実話を基にした『ある人質 生還までの398日』と、ラッセル・クロウがあおり運転を繰り返す恐怖の男を演じる『アオラレ』をマリアージュ。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

『ある人質 生還までの398日』('19)

phある人質 生還までの398日a

ISに拉致された若き写真家と、家族たちの苦悩を描いた実話

 過激派組織ISに誘拐され、398日にも及ぶ期間を死と隣り合わせの劣悪な環境で過ごした写真家ダニエル・リューの実話を、『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』('09)のニールス・アルデン・オプレヴが、アンダース・W・ベアテルセンと共同監督で映画化。怪我により体操選手の道を諦め、夢だった写真家へと転身したデンマーク人のダニエル(エスベン・スメド)。戦地の日常を撮影するべくシリアの非戦闘地域を訪れたところ、現地の情勢が変わりダニエルはイスラム過激派組織ISに誘拐されてしまう。家族は要求された巨額の身代金を用意するため奔走するのだが…。

 銃社会でもなく、テロの脅威にさらされる可能性も低いであろう日本で暮らす僕たちにとって、世界で起きている紛争はどこか他人事になってしまいがち。大抵の人は自分のことや家族、仕事、恋愛といった目の前の生活を考えるのに精一杯で、世界平和や戦争根絶のために行動を起こすには、何かしらのキッカケが必要になってくる。多くの人は他人事で済ませられるうちは、無理して関わろうとは思わない。ダニエルも彼の家族もまた、当初はそれに近しいマインドでいたように思う。だからこそ、他人事でいたつもりが強制的に自分事にさせられてしまう不安や恐怖、生じる理不尽の数々、他人事のままでいる人々に対しての苛立ちなど、ダニエルの誘拐を機に登場人物たちの心模様は目まぐるしくかき乱されていく。同時に、自らの意思で他人事を自分事へとスイッチさせていく難しさを僕たちは痛感させられる。

phある人質 生還までの398日b

4つの視点を通して見えてくるもの

 過激な行動を起こすテロ組織、テロ組織との交渉には応じないデンマーク政府、極限状態へ追い込まれていくダニエル、危険にさらされるダニエルを思う家族や恋人。劇中において描かれていく4つの視点。それぞれに自分の信じる正義があり、その正義が相いれないために分かり合えずにいる。誰かが歩み寄らない限り、状況は一向に変わっていかない。同様の理屈で、僕たちが生きるこの世の中もまた、いまだ争い事の呪縛から抜け出せずにいる。立場の違いがもたらす不和や、それぞれの思惑、その構造に関しては十分に理解が及ぶものの、そこからの打開策や平和へと至る道筋、相互理解を図るための術は見出せない。そういった僕たちが置かれている現実を、本作は強く自覚させてくれるだろう。

“実話”という重みが宿った奥深い人間ドラマが、人と人が分かり合えない現実と、その構造を突き付け、僕たちは何と向き合い、何と戦って生きていくべきなのかを模索するキッカケを与えてくれる。拘束され続けるダニエルが過ごす日々は観ていて心がすり減るのは必至であり、139分という長めの上映時間も相まってなかなかに堪えるものがあるが、その心の疲弊は、とても価値ある心の汗を流させてくれるに違いない。

『アオラレ』('20)

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その男、怒らせたら危険。あおり運転の極限を描くスリラー映画

グラディエーター』('00)や『ビューティフル・マインド』('01)などのアカデミー賞受賞俳優ラッセル・クロウが、狂気的なあおり運転ドライバーに扮したスリラー映画。寝坊で仕事に遅刻しながらも、15歳の息子を学校へ送り届けるべく混雑する道路で車を運転していた離婚協議中のレイチェル(カレン・ピストリアス)。信号が青になっても前の車が動き出さず、クラクションを鳴らしても動じないため追い越すが、「運転マナーがなっていない」と謝罪を求め追いかけてきた相手運転手クーパー(ラッセル・クロウ)と口論になり、事態は思わぬ方向へと進んでいく…。

「あおり運転」。近年、多くの人がその言葉を耳にしたことがあると思うし、日頃、車を運転する人ならば直面する可能性が付きまとう社会問題のひとつ。アメリカ社会においては「ロードレイジ」と呼ばれており、大事故や(銃社会ゆえに)殺人事件にまで発展する深刻な社会問題となっている。あおり運転との遭遇も、些細なことで他人ともめてしまうことも、誰にでも起こり得る。相手が極限にヤバい奴であった場合、一体どうなってしまうのか。失うものが何もない相手を敵に回す恐怖、明日は我が身かもしれない恐怖、デジタル機器に依存しているがゆえに陥る恐怖、ラッセル・クロウの怪演が魅せる恐怖、ありとあらゆる恐怖の連続が、あなたに息つく暇を与えない。

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誰もが手にするべき心の寛容さ

 なぜ、『ある人質 生還までの398日』と『アオラレ』をセットで目にしてほしいのか。それは、戦争やテロの根本的問題は答えを見出すことが困難であり、一朝一夕でどうにかできるものでもないため、頭を悩ませるだけで終わってしまう可能性もあるが(その時間もまた大切であるのだが)、本作で目にするような日常の延長線上にある対人トラブルにおいては、僕たち一人ひとりの心構え次第でどうにかできることもあるからだ。すなわち、寛容な心のあり方が、物事を変えていく第一歩になり得るということ。そして、その積み重ねがやがては『ある人質 生還までの398日』で目にするような、世界的な問題にさえも影響を及ぼしていくのではないか。2作を通してそれらを感じ取ってほしいのです。

 常に心穏やかでいられるに越したことはないが、イレギュラーな出来事に見舞われれば心も荒む。どうしたって心の揺らぎは生じてしまう。そんな時にこそ、人は人と分かり合えなくなってしまう。レイチェルの場合、寝坊や渋滞、離婚協議中で余裕がなく、寛容さを失わせるイレギュラー要素が重なっており、クーパーもまた、多くを抱え爆発寸前の状況に陥っていた。2人の巡り合わせはもはや不運としか言いようがないかもしれない。どちらか一方が心の寛容さを持ち合わせていたら、異なる末路を歩んでいたように思う。本作では泥沼の攻防戦が繰り広げられ、自分もいざこのような出来事に見舞われた際にはどうにもできない可能性が高い。だが、2作を通して目にする道理や、心の寛容さがもたらし得る可能性の数々は、僕たちが生きていくこの社会にとって必要不可欠なもの。きっとあなたの心に数多の戒めをもたらしてくれることでしょう。

 描き方は大いに異なれど、分かり合えず不測の事態へと陥っていくいびつな人間模様を描いた両作。より良い未来や人間関係を築いていくために必要な道筋を示してくれる、ある意味、反面教師となる作品です。ぜひセットでお楽しみください。

ミヤザキさんプロフ20210917~

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クレジット
『ある人質 生還までの398日』:(C)TOOLBOX FILM / FILM I VAST / CINENIC FILM / HUMMELFILM 2019
『アオラレ』:(C)2020 SOLSTICE STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

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