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大人の友情で、欠点が輝く!  #山崎ナオコーラによる線のない映画評

 作家の山崎ナオコーラさんが綴る、映画をテーマにした連載エッセイ。今回は、フランスの国民的人気作家ジャン=ジャック・サンペのベストセラーを映画化した人情喜劇 『今さら言えない小さな秘密』('18)について書き下ろしてもらいました。

文=山崎ナオコーラ @naocolayamazaki

 ジャン=ジャック・サンペの原作絵本もすばらしい『今さら言えない小さな秘密』。「自転車に乗れない自転車屋」の物語だ。

 乗れないからこそ、交流が生まれる。

 友情が輝く。

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 私は中学生の頃、同じサンペによる絵本『マルセランとルネ』を図書館で偶然手にして、ものすごく感動したことがある。すぐに顔が赤くなる子と、くしゃみがずっと止まらない子。そんな2人の間に湧く友情が、大人になるまで続いていく。欠点だと思い込んでいた自分の特徴が、誰かとの関係においては素敵なものに変わる。そういう絵本だった。

 『今さら言えない小さな秘密』にもまた、不出来な人間同士の間に湧き上がる友情が描かれていた。

 映画は、脚本の構成がかなりうまいので、原作よりも広い層に受け入れられるだろう。誰もが抱えているような、小さな秘密や擦れ違い、ひょんなことから芽生える友情。小さな村での小さな出来事なのに、ダイナミックに画面に映る。

 自転車に乗れない自転車店のラウル・タビュラン(ブノワ・ポールヴールド)は、「自転車に乗れない」ということを誰にも打ち明けずに大人になる。
南仏プロヴァンスのやけに美しい自然を背景に、補助輪付きで自転車に乗ったり、自転車を手で引きながら取りすました顔をする子ども時代のラウルはかなりかわいい。大人になってから無謀にも坂道を走り抜けようとするときの山並みも素晴らしく、雄大な自然と「自転車に乗れない」というばかばかしい秘密のコントラストに、思わず笑ってしまう。

 「いやいや、『自転車に乗れない』なんて、大して恥ずかしいことでもないだろうに。なんでさっさと打ち明けないんだろ?」と日本に住む私は思ってしまうが、「ツール・ド・フランス」のある国ではものすごく大きな欠点なのかもしれない。ラウルの住む村でも、村人たちは自転車レースに熱狂しており、自転車選手はスターだ。自転車は生活や人間関係に密着している。

 少年時代からずっと、ラウルは自転車が大好きで、触り続け、練習も懸命にしてきた。その姿を眺めながら、「うまくなれないことでも、大好きなままでいていいんだなあ。苦手なものでも、自分の人生に取り入れていいんだなあ」としみじみ感じ入った。確かに、乗れなくたって、タイヤ交換をしたり、修理をしたり、自転車を愛する方法はいろいろとある。いや、乗れないからこそ、他の愛し方がうまくなっていくのかもしれない。

 誰だって、なんとなく周囲には伝えていない自分の特性があるものだ。それが大した秘密でないにしても、タイミングを逸して、一度言いそびれたらもうその後は言えるタイミングが来なくて、変な空気になったら場を取り繕ったり、みんなの期待に応えるフリをして保身に走ったりして、長い時間を過ごしてしまう。人間というものの、悲しさとおかしさがそこにある。

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 主演のブノワ・ポールヴールドが絶妙に哀愁とユーモアを混ぜ合わせて演技していて、観ていて笑いが止まらない。

 ちなみに、このブノワ・ポールヴールドは、この連載の中でも取り上げたことのある『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』('18)という、「おじさん」たちによるシンクロナイズドスイミングの映画ではダメ社長を演じていた。フランスでは有名なコメディアン兼俳優のようだ。

 ラウルの友人になる写真家エルヴェ・フィグーニュを演じるのはエドゥアール・ベールで、彼はサンペが挿絵を描いた『プチ・ニコラ』のCDで朗読を担当しているという。いかにも「そういう写真家」という感じの風貌で、見た目もしゃべり方も妙におかしい。

 エルヴェが村人たちを撮影して写真集を作ろうとしたことで、ラウルの「自転車に乗れない」という秘密が危うくなる。

 もしも秘密がバレたら、妻に愛されなくなる、村の人たちからも嫌われる、と思い込んでいるラウルにとっては一大危機だ。

 悩んだ末のラウルの行動があまりにも子どもじみていてまた笑ってしまうのだが、「人間だなあ」と大いに共感もする。

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 ところで、私の大学時代の友人夫婦が自転車店主になった。大学時代から自転車で世界中に旅行に出掛けていて、今は「町の自転車屋さん」として地元の人と交流している。この前、電動自転車を買いに行ったら、町に溶け込んでいるその自転車店がものすごく素敵で感動してしまった。町の人たちが、ふらりと立ち寄って空気を入れたり、修理したりしていて、「ああ、すごくいい雰囲気だなあ。いつまででも見ていられるなあ」と思った。コロナ禍によって自転車移動を選択する人が増えているらしく、今、自転車店は盛況らしい。私は来週、普通のママチャリと、子供用自転車もそこに買いに行く予定だ。

 この映画を観たおかげで、自転車がより良いものに見えてきたので、家族で自転車をそろえた後、近所を走り回ろう、と楽しみになってきた。子どもはまったく乗ったことがないので、これから練習する予定なのだが、もしも補助輪が一生外れないとしても、あたたかく見守っていきたいと思う。

ナオコーラさんプロフ201127~

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▼山崎ナオコーラの『映画マニアは、あきらめました!』過去の記事はこちらからご覧になれます。

クレジット:©RAOUL TABURIN 2018 - PAN-EUROPEENNE - FRANCE 2 CINEMA - AUVERGNE-RHONE-ALPES CINEMA - BELLINI FILMS - LW PRODUCTION - VERSUS PRODUCTION - RTBF (TELEVISION BELGE) - VOO ET BE TV © PHOTOS KRIS DEWITTE


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