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夫婦の愛に胸打たれ、親子の絆に涙する。家族を想う至福の時間

 映画アドバイザーのミヤザキタケルさんが、オススメの作品を1本ご紹介するのと同時に、その映画に合う作品をもう1本ご紹介する連載「シネマ・マリアージュ」。 つまり<これを観てから、これを観るとさらに楽しめる>というコンセプトのもと、組み合わせの良い2作品を皆さまにお届けさせていただきます! 今回は、妊活に励む夫婦の実話を描いた『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』と、父親の死をきっかけに動き出していく家族の時間を描いた『最初の晩餐』をマリアージュ。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』(’19)

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他人事のようだけど、実はとても自分事

 作家ヒキタクニオの実体験を綴ったエッセイを、『オケ老人!』(’16)の細川徹監督が映画化。不妊の原因が自分にあったことを知る夫ヒキタクニオを映画初主演となる松重豊、一回り以上年の離れた妻サチを北川景子が演じ、数々の苦難にさらされながらも妊活に励んでいく夫婦の絆や命の尊さを映し出す。

 あなたは今まで「妊活」について考えたことがあるだろうか。まれにニュースやドキュメンタリーなどで特集されていることもあるが、一定の年齢に達したり、結婚しない限り、なかなか触れる機会はない。

 人によっては自分事として捉えることも難しい。だが、本作はそういったことにまだ向き合う以前のヒキタ夫妻の日常から描かれていくため、視聴者は彼らと同じペースで妊活のことを順々に知っていく。

 そうして観ていくうちに気が付くはず。たとえ未婚であろうと、大切な人がいるのなら、必ずどこかで向き合わなければならないことなのだと。

 子どもができない場合、肉体的に問題があるのかどうか、それは病院へ行ってみないと分からない。「まさか私が」「まさか俺が」と誰もが思いがちだが、確かめてみないことには確証は得られない。つまりは、誰であっても当事者になる可能性を秘めている。

夫婦の絆が試される

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 妊活の果てに子どもを授かることができず、別れを選んでしまう夫婦もいるという。何に重きを置いて生きるかは人それぞれなので、その選択に正解や不正解はもちろんないし、子どもができずとも生涯をともにする夫婦もいる。

 最終的には夫婦の関係性がものをいうのだろう。上手くいかない妊活、家族の反対、不妊治療の費用で減っていくお金、じわじわとすり減っていく心…、無事妊娠できて出産できればすべて報われるが、妊活にそんな保証はどこにもない。誰のせいにもできない。
妊活は、夫婦2人が同じ方向を見据えていないと続かない。そう、夫婦の関係性やつながりの深度が試されるのだ。

 現状、妊活とは無縁の人であっても、同じ状況に陥ったのなら、パートナーと乗り越えられるのかどうかを考えてしまうと思う。相手が折れるのか、自分が折れるのか、2人とも折れるのか、それとも一緒に乗り越えられるのか。

 ヒキタ夫妻の姿を通して、自身のことを、大切な人との関係性を考える時間がたくさん得られるだろう。

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 無事妊娠できたとて、出産に至るまで油断はできない。無事出産したとて、健康に生まれてきてくれるか分からない。子どもを授かるということ。その複雑で繊細で不安が付きまとう道のりの険しさを垣間見る。

 パートナーがいるのなら、誰にでもトライする権利はあるものの、そのトライが報われるとは限らない。無論、子どもを授かることが人生における必須事項というわけでもなし、答えは人それぞれ、夫婦それぞれにあるもの。その答えが自分にとって何なのかを模索する貴重な機会を与えてくれるとても温かな作品です。

『最初の晩餐』 (’19)

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避けては通れぬ親との別れ

 サザンオールスターズのドキュメンタリー『FILM KILLERSTREET(Director’s Cut)』(’06)をはじめ、CMやMVなど様々な分野で活躍する常盤司郎監督の長編映画デビュー作。染谷将太、戸田恵梨香、窪塚洋介、斉藤由貴、永瀬正敏など、脚本の魅力に惹かれた豪華キャストが集結。

 父親の通夜に集まった血のつながっていない家族が、父の遺したノートに記された料理を母が作り“通夜ぶるまい”として食べていく中で、かつて共に過ごした時間を思い出し、知り得なかった秘密を知り、止まっていた家族の時間がゆっくりと動き出していく様を描いたヒューマン・ドラマ。

 子どもを授かることの難しさや尊さ、夫婦のつながりを感じさせてくれる『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』を観た後には、家族の在り方、子を想う親の気持ち、親を想う子の気持ちを綴る本作に触れてほしい。

 色々と訳ありながらも3人の子どもを育てた夫婦がいて、複雑な想いをはらみながらも、そんな両親を想う子どもたちがいる。異なるアプローチながらも「家族」について描いた両作品は地続きの関係にあり、子の誕生から親の死までを、そこに付随する数多の感情を疑似体験していくことで、自身の家族を想う時間を得られるだろう。

 親との別れ。それは誰もが避けては通れぬ道。いつの日か必ず直面することになるであろう確かな現実。その揺らぐことのない真理があるからこそ、誰であろうとこの物語に入り込むことができる。

 人それぞれに家庭事情は異なるし、映し出される家族構成も異なるが、描かれていく関係性・出来事・思い出の数々を自らの家族と照らし合わせながら観ることで、気付けば自身の過去が、家族と過ごしたかけがえのない時間が呼び起こされていく。

 そして、登場人物たちとともに家族の在り方について模索していく時間は、とても有意義なものになるに違いない。

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「家族」の定義とは何なのか

 家族を家族たらしめるものとは一体何か。それは血のつながりや戸籍に記された情報かもしれないし、ひとつ屋根の下で過ごしてきた時間の長さかもしれない。苦楽を共にして本音でぶつかり合えた時間の濃密さが重要であったり、食卓を囲み同じ釜の飯を食べてきた時間もまた大切な要素になる。
食べた物によって人の体が培われていくということは、同じ食事を取る者同士は極めて近しい体を構築していることになる。そういったつながりだってばかにはできない。

 結婚した男女、生まれてきた子ども、兄弟や姉妹は、言わずもがな「家族」である。だけど、それらはあくまでもスタート地点に立っただけのことでしかなく、そこから何年も何十年も一緒に人生を歩んでいくことであったり、自分を大切に想う以上に相手を大切に想えたり、同じだけの経験や教訓を心に刻み共有し合うことが、血肉の伴った「家族」になっていくということなのではないだろうか。

 何を基準に「家族」と定義付けするのかはやはり難しい所であるが、数多の積み重ねによって研ぎ澄まされていき、独自の形を形成していくことこそが、それぞれに異なる家族の在り方を構築することにつながっていく。
つまり、必ずしも血のつながりだけがすべてではないということ。たとえ何かが欠けていても、別の何かで補うこともできるはず。多くが破綻していたとしても、たった一つ突出した何かがあれば、人と人を強く結び付けるだけの確かなものがあれば、いくらでも「家族」として成立し得るチャンスは残っている。『最初の晩餐』において目の当たりにする家族の在り方やつながりは、その可能性を大いに示してくれる。 

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親が与えてくれたものに宿る価値

 子は親の背中を見て育つと言うが、今ある自分の核となる部分は間違いなく親の影響を受けている。自覚はなくとも、どこかにそのエッセンスは見え隠れしているに違いない。

 仮に家族や幼少時代に良い思い出がなかったとしても、反面教師という形で影響は受けている。家族との時間を振り返れば、良い思い出も嫌な思い出もきっとある。大人になった今なら笑い飛ばせるが、当時としてはきつかったこともあるだろう。

 ただ、それらはすべて自分という人間を知るために必要であった時間。自分が何を好きで何が嫌いなのか、どんなことに興味を抱き、どんなことに怒りや哀しみを抱くのか。自分という人間を構成するいくつもの要素を自覚しながら僕たちは大人になり、人生という名の旅路を歩んでいく。

 都度訪れる選択を幾度となく繰り返し、自分だけの幸福を追い求める。そこに至るまでの「自分を知る」という時間のほとんどは、親や家族が与えてくれた数多の機会の上に成り立つもの。

 それらがあったからこそ、僕たちは自分の土台を築き、進みたい道を見出し、今目の前にある景色を見ることができている。良い思い出も悪い思い出も合わせて一つ。家族と過ごしてきた時間において、無駄なことなんて何一つない。

 劇中で行なわれる“最初の晩餐”。それは、一度途切れてしまった家族が、家族としての道を再び歩み始めるために必要な時間。たとえ一時的に壊れてしまっても、家族であることを諦めたり手放したりさえしなければ、道はいくらでも残っている。

 そこに愛や希望や願いがあるのなら、僕たちはいつだって、誰とだって家族になれる。愛してくれたこと、褒めてくれたこと、叱ってくれたこと、家族で過ごしたたくさんの記憶がよみがえり、大きく胸揺さぶられる時間を得られる作品です。

 夫婦の愛に胸打たれ、親子の絆に涙する2作品、是非セットでご覧ください。

ミヤザキさんプロフ

▼作品詳細はこちら

クレジット:
©2019 「ヒキタさん! ご懐妊ですよ」製作委員会
©2019『最初の晩餐』製作委員会

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