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言葉をめぐる青春ドラマ「あんのリリック-桜木杏、俳句はじめてみました-」とセットで読みたい本4選!

WOWOWブッククラブでは、毎月のテーマに沿ったおすすめ番組と関連する本を記事としてまとめ、noteをご覧になるみなさんにお届けしてゆきます。

2月の番組テーマは「あんのリリック」

言葉をめぐり、熱く魂がぶつかり合う青春グラフィティ「ドラマWスペシャル あんのリリック-桜木杏、俳句はじめてみました- 」

俳人・堀本裕樹の青春俳句小説『桜木杏、俳句はじめてみました』(幻冬舎文庫)を基にドラマ化。主演を務めるのは広瀬すずさん、本作がドラマWの初登場で初主演です。

今回、番組をより楽しんでいただくために4冊の本をセレクトしました。

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今月の選書のポイント

「あんのリリック」に登場するキーワード「俳句」や「ラップ」といった言葉にちなんだ本を選んでいます。ぜひ番組を登場するリリック=言葉を味わい、噛みしめながらお楽しみください。

それでは番組とセットで読んでほしい4冊をご紹介します。

選書・コメント=幅允孝(WOWOWブッククラブ部長)

1冊目:芸人と俳人

又吉直樹 (著),堀本裕樹 (著)
集英社文庫

1冊目は、又吉直樹さんと堀本裕樹さんが送る『芸人と俳人』です。堀本さんは『ドラマWスペシャル あんのリリック-桜木杏、俳句はじめてみました-』の原作も書いていらっしゃいますが、今作では俳句恐怖症を自称する芸人の又吉さんに向けて、俳人の堀本さんがじっくりと、それでいて優しく俳句の楽しさを伝えます。

元々、又吉さんはお笑いのネタ集めの一環として、意図せず自由律俳句を嗜んできた経歴をお持ちです。日常で生まれた言葉の引っ掛かりを書きとめ、本として出版することを重ねるうち、ますます俳句の「型」が持つ窮屈さを意識するようになります。

ところが堀本さんの丁寧な指導を受け、又吉さんが自発的に俳句を楽しめるよう変化していく部分に、読者は自分を重ねられることでしょう。

俳句を一人大喜利に例えるなど、誰もが親しめるような軸足に近づけつつ、17文字だけで世界を表現する難しさを、いつしか遊べるほどに身体化させていくところに面白さがあります。

先入観をうまく捨てられれば、素人でも名人並みに俳句を楽しめる。そんな可能性を又吉さんの成長から垣間見ることができます。

自由に言葉を扱える人たちが、あえて不自由の中に身を置くことで、無限の面白さを獲得する。そこで生まれる余裕や余白というのは、書き手でなければ享受できない喜びではないでしょうか。


2冊目:ことばあそびうた

谷川俊太郎 (詩),瀬川康男 (絵)
福音館書店

続いて紹介するのが、谷川俊太郎さんの『ことばあそびうた』です。「かっぱかっぱらった、かっぱらっぱかっぱらった・・・」など、どこかで聞いたことのある作品が多数収録されていますが、これらは50年近く前の育児雑誌に連載されていたのを、改めてまとめ直したものです。

コミカルな木版画の挿絵部分は、瀬川康男さんが担当されています。2010年に亡くなられましたが、松谷みよ子さんの『いないいないばあ』など、数々の名作に挿絵を提供されていました。

普段は詩をインスピレーションで書かれていることで知られる谷川さんですが、この本ばかりは手仕事であると断言しています。シンプルな言葉の羅列のように見えるものの、そこには50音のひらがなを眺めては、なんとか繋げられないかと捻り出してきた言葉たちが並びます。

ここに込められた谷川さんの熱量や時間、汗といったものを踏まえると、彼の普段の流麗な詩とは違った印象を受けるのではないでしょうか。

現代では歌詞やラップの世界で扱われることも多い日本の押韻文化ですが、それをあえて子どものための遊び歌として成立させるところに、この本のユニークさがうかがえます。

平仮名だけで歌の情景を想起するのは難しいところですが、瀬川さんのチャーミングな絵によって、読者にほどよく歌の理解を促してくれているのも見どころです。頭の中で言葉を追いかけるのとはまた違った、言葉を口に出してみる楽しさに気づかせてくれます。


3冊目:ヒップホップの詩人たち

都築響一 (著)
新潮社

都築響一さんの『ヒップホップの詩人たち』では、ヒップホップを紡ぐ15人の人物にスポットを当て、迫力のあるエピソードを交えながら彼らの素性に迫ります。

地方に生まれ育ったラッパーが、そこに住み続けながら自分たちの言葉を残している人たちを紹介しているわけですが、そこにはテレビなどで見かけるようになった、フリースタイルラップの世界とは異なるリアリティが広がります。世の中に馴染めず、モヤモヤとしたわだかまりを抱えている彼らが、ミスフィットとしてどう生きてきたのかを克明に描きます。

少年院に収監されたことがきっかけで言葉の世界に触れるようになったエピソードなど、なんとかその場所に踏みとどまっている人たちが、苦しみながらも言葉を絞り出している様子に、切実な「生」を実感せずにはいられません。

音楽としてのヒップホップに興味を持てなかった人でも、言葉からドアを開けることで、また楽曲の聴こえ方も変わってくるものです。ラップが好きな人はもちろんのこと、これまでヒップホップを避けてきた人に読んでほしい一冊でもあります。


4冊目:ことばの歳時記

山本健吉 (著)
KADOKAWA/角川ソフィア文庫

文芸批評家である山本健吉さんの『ことばの歳時記』は、俳句における季語を一つずつ抽出しながら、理解を深められるよう紹介してくれています。

例えば「春めく」という言い回しは、冬のうちに使う言葉なのか、早春を感じ取った時に使うのか、線引きが難しい表現でもあります。こういった疑問に対して、丁寧に回答してくれるのがこの本です。

少しずつ変容する毎日の季節の変化を、細やかに感じ取って名付ける繊細さを忘れまいとする気持ちが芽生えてくるのを読者も感じることができるのではないでしょうか。空気の変化を主体的に感じ取り、言語化できることが技術と感性の結び目なのです。

柳田國男は俳句を「群れの芸術として発生した」と説明していますが、俳句には句会のように、多くの人が参加する現場で生まれてきた歴史があります。そしてこのような「場の共感」を作るためには、互いに理解しあえる共通項が求められます。読者に心を動かしてもらうためには、円滑な理解を促すための「型」が必要になるというわけです。

『芸人と俳人』では又吉さんが定型を恐れる描写がありましたが、これは共通項を見出すための「型」と考えれば、俳句の遊び方をより深く理解できるのではないでしょうか。俳句において季節の言葉が先鋭化されていったのは、そんな共通項を突き詰め、遊びの枠を広げるための取り組みであったことがわかる一冊です。


これまで紹介した本

先に番組を観るのもよし、本から入るのもまた一つの楽しみ方。あなたにとって番組や本との新しい出会いになることを願っています。






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