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8月のWOWOW初放送映画 厳選3作品

 映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし!のはず...。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

 withコロナ時代へと変化し 、より一層映画を映画館で観ることが当たり前とは言い難くなった今、この連載が皆様にとって良き映画との出会いのキッカケになることを願っています。
 今月は、表面的にはゾンビ・ピエロ・監獄といった要素が際立つも、内面的にはとても骨太な人間ドラマを宿した3本を紹介します。


『ウィーアーリトルゾンビーズ』(‘18)

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予想がつかない衝撃の映画体験

 第33回サンダンス映画祭にてショートフィルム部門グランプリ、第69回ベルリン国際映画祭にて日本映画初となるスペシャル・メンション賞(準グランプリ)を受賞した、長久允監督の長編映画デビュー作。親の死に直面するも涙を流せなかった13歳の子どもたちが、ゴミ捨て場の片隅で結成したバンド“LITTLE ZOMBIES”。ゾンビのように感情を失ってしまった4人の少年少女は、やがて社会現象を巻き起こし、世間の注目を浴びていくのだが...。

 まさに衝撃的! こんな映画にはなかなか出逢えるものじゃない。映像、美術、衣装、音楽、物語を動かす子どもたちの演技、この世界観を創造した監督の発想etc…、どれもこれもネジが一つ外れてしまっているとしか思えない(褒め言葉)。映画のセオリーに囚われることなく、常に予想の斜め上を行き、誰も想像ができない結末へと突き進んでいくその様は、「未知の映画体験」と言っても過言ではないだろう。

 人によっては、奇をてらった作品だと感じるかもしれない。新しいものを受け入れられるだけの心の柔軟さが欠けていれば、情報量が膨大な本作のメッセージを受け止め切れないかもしれない。凝り固まった思考や価値観から抜け出せない大人であれば、子どもたちが抱える葛藤に歩み寄れないかもしれない。

 でも、きっと大丈夫。虚ろになってしまった感情を取り戻していく子どもたちの冒険は、過ぎ去ってしまった子ども時代の感覚を呼び覚ましていくのと“≒”になるはずだから。

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子どもとの接し方、そして自身の生き方を見つめ直すきっかけに

 劇中、重要アイテムの一つとして、初期のゲームボーイを彷彿とさせる携帯ゲーム機が登場するのだが、あなたにとってパッと思い浮かぶゲーム機とは何だろう。ファミコンやスーファミやゲームボーイ等をプレイしていたかつての子どもと、PlayStation 4やNintendo Switchやスマホゲームをプレイしている現代の子ども。

 ネット普及前の時代を生きた子どもと、 現代を生きる子ども。 便利で高品質なものであふれる現代の方がメリットも多いに決まっているが、その反面、子どもたちが醜悪で歪んだものに 触れてしまうリスクも大いに付きまとう。大人がしっかりと線引きをしなければ、道を踏み外すなんてことがざらにある。時代の流れや変化に適応できていない大人であれば、子どもたちを正しく導くことができず、彼らにかせを強いることになってしまう。

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 そういったかせに縛られている子どもたちを、かせを強いている大人たちを、決まったパターンの行動しか取れないゾンビのような現代社会のあり方を、誰も観たことのないブッ飛び描写の連続で本作は映し出す。

 この映画を観れば、子を持つ者なら、我が子のことを、子どもとの接し方を見つめ直す良い機会を得られるはず。たとえ子どもがおらずとも、自分自身の生き方を、現在の子どもたちとの接し方を見直す良い機会に巡り合えるはず。繰り返しにはなりますが、こんな映画体験、年に一度あるかないかのレベルだと思うので、どうか放送をお見逃しなく!


『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(‘19)

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かつての子どもたちが成長し“恐怖”に立ち向かう

 スティーヴン・キングの小説を映画化し、2017年に公開された『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』の続編にして完結編。前作の舞台から27年、“それ”=ペニーワイズの恐怖から生き延び大人になったルーザーズ・クラブの面々が再び集い、“それ”との決着をつけるべく戦いに身を投じていく姿を通し、色あせることのない友情の価値を描いた作品です。

 ホラーが苦手だという理由で本シリーズを避けているのなら、ちょっと待ってほしい。本作は間違いなくホラー映画にカテゴライズされる類いの作品ではあるものの、ホラー要素は作品全体の40%といったところだろう。残りの60%はというと、“青春”や“勇気”や“友情”といった要素が占めている。

 “それ”の存在がジワジワと忍び寄る恐怖を生み出すのは確実だが、“それ”に立ち向かう少年少女たちの姿が、成長し大人になった少年少女たちの絆が、恐怖を圧倒するだけの輝かしい感動やきらめきを生み出すのである。つまりは、日常生活に支障を来すような尾を引く恐怖までは残らない。今回の初放送に合わせ、前作も放送されるので、この機会に是非とも一気見していただきたい。

異なる道を歩んでも、あの日の友情は失われない

 ネタバレになるため本作における詳細は割愛するが、自分に置き換えて考えてみてほしい。27年前に交わした約束のため、かつての友人たちと再会するということを。得体の知れない緊急事態に対応すべく、連絡も取り合っていなかった旧友たちと即座に集まることなどできるだろうか。

 時の流れと共に置かれている状況も環境も関わり合いになる人々も変わっていく。年齢を重ね大人になれば、守らなければならないものが自ずと増え、リスク回避が当たり前。良く言えば守りに入り、悪く言えば身動きが取れなくなっていく。そんな状況の中、これまで築き上げてきたものや今ある平穏をなげうってまで、過去に交わした約束や疎遠であった旧友たちのために行動を起こせるだろうか。序盤で描かれるルーザーズ・クラブの今を目の当たりにしたのなら、そういったことを考えずにはいられない。

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 大人になるにつれて、良くも悪くも人は変わってしまう。かつて友情を育んだはずなのに、疎遠になってしまった友人がごまんといる現状を前にしたのなら、ありし日の己の価値観を疑ってしまうこともあるだろう。

 しかし、過去や思い出をおとしめる必要はないと思う。当時は当時で己の価値観を信じ、自分なりに友情を確信することができていた。大人になった今の価値観ではかりにかけてしまうから色あせるだけで、あの日あの時あの関係性の中で芽生えた友情は本物であったはず。

 かつての日々や関係性を断罪する必要なんてどこにもない。結果的に道を違え、疎遠になってしまったとしても、友情が失われたわけではない。異なる道を歩んでいるだけのこと。自ら願えば、再び道が交わる日だってやって来る。日々のあれこれが心を曇らせてしまうだけで、友情はいつだって変わらずそこにある。

 手放してしまうのは、向き合えなくなってしまうのは、今を生きる自分の問題でしかない。それもまた、劇中のルーザーズ・クラブが示してくれる。恐怖以上に、多くの大切なことを示してくれる作品です。


『パピヨン』(‘17)

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理不尽に抗う男たちの脱獄劇

 1973年にスティーヴ・マックイーン×ダスティン・ホフマンの共演で映画化され大ヒットした、作家アンリ・シャリエールの自伝小説を、『パシフィック・リム』(‘13)のチャーリー・ハナム、『ボヘミアン・ラプソディ』(‘18)のラミ・マレック共演で再映画化。無実の罪で終身刑を言い渡された男と、紙幣偽造の罪で投獄された男が手を組み、過酷な労働を強いられる悪名高い南米の流刑地からの脱獄を試みる。

 物語の舞台は第二次世界大戦より少し前の1931年。チャーリー・ハナム演じる主人公・パピヨンことアンリは金庫破り。そんな男が裏社会のルールを破ったが故に、殺人の濡れ衣を着せられ悪魔島と呼ばれる流刑地の刑務所に入れられる。

 現代を生きる僕たちにとっては無縁に感じられる要素ばかりではないだろうか。しかし、不思議と作品世界へ入り込めてしまうのである。それはきっと、僕たちだけが彼の無実を確信しているからに違いない。身から出たさびとはいえ、いわれのない罪を背負わされたのだと知っているからである。

 そして、程度の差はあれど、そんな経験の一つや二つ、僕たちにもあるはずだ。だからこそ、理不尽に抗い窮地を脱する男の姿を応援したくなる。それこそが、無縁の世界でも物語に入り込めてしまう理由ではないだろうか。

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“決まり事”の無い世界を体験して知る日常の価値と人間の本質

 また、法も秩序もモラルもルールもマナーも関係のない地獄のような刑務所送りになった男たちの姿を見ていて思った。“決まり事”があるからこそ、僕たちの平穏は維持されているのだと。

 人には美しく素晴らしい面がたくさんあるが、それと同等の醜くおぞましい面もたくさんあって、あらゆる決まり事によって後者の面は抑制されている。その決まり事が設けられていない悪魔島では、金と腕力と狡猾さがものを言い、隙を見せれば殺される。

 普段、平穏な心持ちで他者と接することができるのは、“決まり事”による恩恵が大きいのだと気付かされる。己の心に宿る悪しき部分を抑制できているのは、数多の縛りがあるからこそなのだと。無法地帯にも等しい刑務所内の恐怖が、今ある日常の価値や、安心して他者と関わることのできるありがたみ、そして誰もが等しく宿す人間の本質をのぞかせてくれることだろう。

 人は間違えないと大事なことに気付けないが、決まり事によって、そこから派生する想像力によって、間違えずとも多くのことを補える。その想像力を豊かにしてくれるのが、映画をはじめとした物語であり、登場人物たちの経験や葛藤。それらを疑似体験することで、僕たちは多くを学ぶことができている。

 アンリ・シャリエールの人生も、彼が実体験を本につづったこともまた、その後押しになっているに違いない。真に見据えるべきは、如何に脱走するかということよりも、今を生きる僕たちに直結する人の心のあり方にあるのだと思います。

 大人と子ども、友情、生き方と、自分自身の人生に多くを還元できる3作品と共に、8月も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。

ミヤザキさんプロフ


クレジット:
(C)2019“WE ARE LITTLE ZOMBIES”FILM PARTNERS
(C) 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
(C)2017 Papillon Movie Finance LLC. ALL RIGHTS RESERVED.



緊張しながら投稿しているので嬉しいです!ありがとうございます!
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