見出し画像

実話を描く意義と価値。あの名女優の晩年と、いびつな事件の真相に迫る2作品

 映画アドバイザーのミヤザキタケルさんが、オススメの作品を1本ご紹介するのと同時に、その映画に合う作品をもう1本ご紹介する連載「シネマ・マリアージュ」。つまり<これを観てから、これを観るとさらに楽しめる>というコンセプトのもと、組み合わせの良い2作品を皆さまにお届けさせていただきます! 今回は、ともに実話であり、ミュージカル女優ジュディ・ガーランドの晩年を描いた『ジュディ 虹の彼方に』と、フランス全土を震撼させたプレナ神父事件の全貌を捉えた『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』をマリアージュ。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

『ジュディ 虹の彼方に』(’19)

画像1

名女優がたどった光と闇と心の救済

 数多くの舞台を演出し、ローレンス・オリヴィエ賞や大英帝国勲章に輝いたルパート・グールド監督作。『オズの魔法使』(’39)でドロシー役を演じ、17歳にして一躍スターダムに駆け上がるも、ハリウッドの荒波にもまれ波瀾万丈の人生を送ったジュディ・ガーランド。彼女が、47歳の若さで急逝する半年前に行なったイギリス・ロンドン公演の日々を綴る伝記ドラマ。

レニー・ゼルウィガーの徹底的な役作りが生み出すリアル

 ジュディ・ガーランド役を、歌唱含め見事に演じ切り、第92回アカデミー賞主演女優賞、第77回ゴールデングローブ賞ドラマ部門主演女優賞に輝いたレニー・ゼルウィガー。代表作『ブリジット・ジョーンズの日記』(’01)などで彼女に対してコミカルな印象を抱く人もいると思われるが、彼女の神髄はその役作りの徹底ぶりにある。

 ブリジット役に関しては、10kg近く体重を増やし、イギリス英語をマスターした上であの愛されキャラを確立しており、ジュディを演じるに当たっては、リハーサルの1年前から歌のトレーニングを開始し、ジュディの歴史を学ぶのはもちろんのこと、彼女の肉声も聴き込んでいたという。独特のイントネーション・声色・しぐさ・ステージ上でのパフォーマンス、そのすべてを自分のものにした徹底的な役作りがあってこそ、僕たちはジュディ・ガーランドが歩んだ軌跡を垣間見ることができるのである。

画像2

自分で選んだ人生。その向き合い方

 生きていれば、嫌な思いをすることや理不尽なことも多分にある。劇中で描かれるように、まだ幼いジュディを支配下に置いた大人たちが、彼女の生きづらさの元凶であった。その後の薬物依存や神経症、たび重なる結婚と離婚、自殺未遂など、彼女の人生に悪影響を及ぼしたのは間違いないだろう。だが、どんな不遇であるにせよ、自分の人生の責任を負えるのは自分だけだ。今ある状況は自らの選択によって生み出されたものでしかない。

 言い換えれば、自分の選択次第で道はいかようにも変わっていく可能性があるということ。生活を立て直すため、子どもたちとの日々を守るため、半ば仕方なく引き受けたロンドンでのショーであったものの、それこそがジュディにとっての変化の兆しであったことを、本作を目にしていく中で理解できる。

 悲惨な状況に追い込まれようとも、彼女がショービズ界に残り続けていたのは、その才能をたたえてくれる人たちがおり、また彼女自身が歌うことが好きだったからに他ならない。公演を重ねる中でその喜びに立ち返り、他者に善意をもって接することも可能になるが、染み付いた悪しき習慣や思考からはそう簡単に抜け出せず、ジュディはどん底まで落ちてしまう。

画像3

 その果てに、彼女は背負っていた重荷をようやく下ろし、心を縛っていたかせから解き放たれる。そうして新たな一歩を踏み出そうとする彼女の歌声は、人生の過酷さを、儚さを、気高さを、あなたの心に染みわたらせてくれることだろう。ラスト7分、彼女の生きざまがもたらす感動に、存分に浸っていただきたい。


『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』(’19)

画像4

鬼才フランソワ・オゾン監督が初めて実話に挑んだ作品

 フランス全土を震撼させた神父による児童への性的虐待事件“プレナ神父事件”を、『8人の女たち』(’02)、 『エンジェル』(’07)などで知られるフランソワ・オゾン監督が映画化。事件の真相を明るみに出そうと奮闘する被害者やその家族たちと、事件を隠蔽しようとする教会側との対立を描き、第69回ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した社会派ドラマ。

「実話もの」におけるカテゴライズを考える

 「実話」を扱う作品には2種類ある。一つは、『ジュディ 虹の彼方に』のような“人物”にフォーカスを当てたもの。観客が実在した人物の生きざまを目の当たりにすることで、人生を学ぶ。もう一つは、本作のような特定の“事件”や“事象”にフォーカスを当てたもの。観客はこの事実を目撃することで、人生における教訓を学ぶ。一括りにされてしまいがちな「実話もの」であるが、このようにカテゴリー分けができ、それらを意識して映画を観ることで、あなたの映画に対する認識や捉え方に広がりが生まれていくのではないだろうか。

実話を描く意義と価値

 神父による子どもへの性的虐待。考えただけでもおぞましい事件であるが、教会へ通う習慣を持たない多くの日本人にとっては、どこか他人事に感じてしまうのではないだろうか。そもそも“プレナ神父事件”の存在を日本にいる何割の人が認識できているのだろう。そう、僕たちは多くのことを他人事として割り切れる。それはとても悲しいことに思えるが、そうでもしないと生きていけないというのも事実。

画像5

 劇中、ある人物が言っていた「誰もが問題を抱えている」という言葉。本作で描かれている事件は、絶対にあってはならないこと。この世界には他にも無数の問題があふれている。皆自分が抱えている問題に精いっぱいで、直接接点のない事柄に関しては、無関心でいられてしまう。だからこそ、聞き流しがちなニュースではなく、「映画」という人の心をエモーショナルに動かすことのできる媒体で実話を描くことには意義がある。他人事を自分事として捉えるきっかけとなるだろう。

 事件の概要、被害者たちが背負ってきたもの、その重みや痛みや憤りについては、本作を目にすれば否が応にも向き合わざるを得なくなる。その上で、何故こんなことが起きてしまったのか、どうして早急な解決ができなかったのか、理不尽ばかりがまかり通ってしまう原因は何なのか、そういったことにも向き合わざるを得なくなる。

 何かしらの地位や権力を手にした者が、必ずしもその力を正しく扱えるとは限らない。この事件の神父のように、保身のため、欲望のため、人は悪意をもってその力を利用してしまう。本作で目撃するのは、そこに“悪”があるのは明白なのに、“正義”が果たされないという圧倒的矛盾。それらはプレナ神父事件に限った話ではなく、僕たちが生きる日常にもはびこる問題なのだということに気付かされる。それこそがこの作品の神髄であり、価値である。

画像6

 ジュディ・ガーランドの人生と美しい歌声が胸を打つ『ジュディ 虹の彼方に』と、プレナ神父事件がもたらすいびつさに胸を締め付けられる『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』。生じる感情のベクトルは大いに異なりますが、実話であることが大きな意味を持つ2作品、ぜひセットでご覧ください。

ミヤザキさんプロフ

▼作品詳細はこちら

クレジット
『ジュディ 虹の彼方に』:© Pathe Productions Limited And British Broadcasting Corporation 2019
『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』:©2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS-France 2 CINEMA-PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

緊張しながら投稿しているので嬉しいです!ありがとうございます!
WOWOW公式アカウントです。 noteでは、さまざまなエンターテインメントの魅力を丁寧に、時には“主観”を交えながら発信していきます。