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衣食住は魔法 #山崎ナオコーラによる線のない映画評

 作家の山崎ナオコーラさんが綴る、映画をテーマにした連載エッセイ。 今回は、松本穂香主演のヒューマンコメディ『おいしい家族』(’19)について書き下ろしてもらいました。

文=山崎ナオコーラ  @naocolayamazaki

新しい感覚の映画だ。
衣食住における多様性の夢を見せてくれる。

 「わあ、おいしそう」と思わせるだけの食事映画だったら、たくさんある。『おいしい家族』も、家族の食卓を真上から映し出すカットで胃袋をつかんでくる。すき焼きや天ぷらや伊勢エビ、そして、ぼた餅。おいしそうなものが次々に登場し、腹が減ってくる。

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 「固定観念を疑って、家族の役割から自由になろう」と考えさせるだけの「ジェンダー映画」も最近は増えている。『おいしい家族』も、既存の性別イメージから解き放ってくれる。ジェンダーフリーな昭和レトロファッションや体形を気にせず楽しむ未来志向のアイドルファッションが出てきて、もっと自分らしく服や化粧を楽しみたくなる。

 でも、『おいしい家族』を既存のカテゴリーに分類するのはつまらないと思う。真の良さは、カテゴリーにはめないことで発見できる。これまでにはなかった、キラキラ生活環境映画だ。

 いわゆる「映画好き」の人が既存の映画文法における減点法で観たら、欠点に捉えられる箇所もあるかもしれない。構成や音楽の使い方、人物描写など、定型的過ぎたり、足りなかったりするようにも感じられる。だが、そんな観方はもったいない。

 ひたすら新しさに注目した方がこの映画は絶対に楽しめる。

 人間が生活をする環境を光輝くように描いた映画だ。衣食住によって、人間がどんなに変化するか……。

 人間を描くとは、どんなことだろう?

 既存の映画文法だったら、「子ども時代にあんなことがあったから、大人になってこういう性格になったのだ」とか、「母親と父親がああいう関係だったから、子どもはこういう結婚観を養ったのだ」とか、あるいは、「生まれつきの性質で苦しんでいるのだ」といったことを、説明的ではなくて描写の中で自然と過不足なく表現することを「良し」としてきたのではないか。

 でも、人間って、そんなに心(しん)がしっかりしたものだろうか? むしろ、性格なんてないに等しく、生活環境に合わせてグニャグニャと変わっていく、捉えがたいゼリーのような存在かもしれない。「あれがあったから、こうなった」なんて、理由と結果で表すことにはなじまないのではないか。変化した理由なんて問わなくてもいい。生まれつきの性質なのか、成長過程で獲得した性質なのか、そんなこともどっちだっていい。ある人物がいたら、ただ、「そういう人なんだ」と周りは受け入れればいいし、映画もそう撮ればいい。

 「どんな服を着るか?」「化粧をするかしないか?」「好きな食べ物は何か?」「人がくれた食べ物を食べるか?」「相手の食の好みをどう受け取るのか?」「服によって、好きな食べ物が変わるのか?」「どこに住むか?」「どんなテーブルに、どんな食器を置くか?」「住んでいる場所によって人は変化するのか?」……。人生には衣食住にまつわる選択肢や疑問があふれており、その答えは人それぞれ自由なはずなのに、しばしば私たちは固定観念に縛られていくつかの自由を放棄してしまう。『おいしい家族』は、これらの問いを解きほぐす。

 性別に縛られることはないよ。

 これまで、多様性をテーマにする映画や小説は、L G B T Qの当事者の物語として描かれがちだった。L G B T Qの当事者にしっかり取材して、リアルに近づくことを主眼にして制作されたものが多かったと思う。だが、『おいしい家族』は、結構ファンタジックだ。多様性がテーマになっているし、ジェンダーバイアスを問うストーリーになっているのに、L G B T Qの当事者の話ではない。

 L G B T Qの当事者はもちろんだが、L G B T Qの当事者でなくとも、誰だって、性別に縛られることはないよ、という話なのだ。

 面白いのは、松本穂香演じる若き主人公が、固定観念に縛られていることだ。昔の映画や小説においては、若き主人公の帰郷で問題になるのは、田舎の古い価値観だった。親世代が多様性を受け入れられず、若い人たちに対して「型にはまった人生」を勧めてくるのが通常だった。主人公は自分が周囲に受け入れてもらえないことに苦しみ、もがきながら少しずつ家族の理解を得て、権利を獲得していく……、といったストーリーになることが多かった。

 新しい映画『おいしい家族』においては、昔の映画や小説とは真逆のストーリーになっている。多様性が受け入れられている故郷の島に、都会で働く若者が頭を凝り固まらせて帰ってくる。そして、子どもが親を怒る。その後、子どもは少しずつ親を受け入れていく。

 また、昔の映画や小説だったら、「性別イメージに合わないファッションをする人」は、「親戚の中にひとりくらい、はみ出しものの叔父さんなんかがいるよね」といった感じで放浪者だったりお笑い担当だったりといったキャラ設定にされがちだった。

 新しい映画『おいしい家族』において、「お母さんになる」と言いだしてスカートをはき始めた板尾創路演じる父親は、周囲から好かれ、信頼されている。テロテロ生地のすとんとしたロングスカートといった昭和レトロファッションは、スレンダーな体つきやひょうひょうとした雰囲気の板尾にしっくりはまって、実におしゃれだ。校長先生という、社会的ステータスがある人物設定もいい。決して、はみ出し者でも変わり者でもお笑い担当でもない。周囲ときちんと関係を紡ぎ、責任のある仕事をこなす、誠実でおしゃれな父親だ。

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 ふくだももこ監督の若さが爆発していて、すがすがしい。

 この映画を思い出しながら、シンプルに「あんな島があったらいいな」「ないなら、ああいう社会をこれからつくりたい」とわくわくしてくる。

ナオコーラさんプロフ200925~

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▼山崎ナオコーラの『映画マニアは、あきらめました!』過去の記事はこちらからご覧になれます。

クレジット:©2019「おいしい家族」製作委員会

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