『茜色に焼かれる』『プロミシング・ヤング・ウーマン』を通し、生きる意味を問い、生きやすい未来を模索する。今この現実と向き合う力を宿した映画たち
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『茜色に焼かれる』『プロミシング・ヤング・ウーマン』を通し、生きる意味を問い、生きやすい未来を模索する。今この現実と向き合う力を宿した映画たち

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 映画アドバイザーのミヤザキタケルさんが、オススメの作品を1本ご紹介するのと同時に、その映画に合う作品をもう1本ご紹介する連載「シネマ・マリアージュ」。つまり<これを観てから、これを観るとさらに楽しめる>というコンセプトのもと、組み合わせの良い2作品を皆様にお届けさせていただきます! 今回は、ともに過去のある出来事が原因で生きづらい現状に直面している女性の姿を描いた『茜色に焼かれる』と『プロミシング・ヤング・ウーマン』をマリアージュ。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

 夫の事故死とコロナ禍により苦境に立たされていく女性の姿を通し、人生の意味を問う『茜色に焼かれる』。親友の未来を奪った過去のある出来事の関係者に鉄ついを下す女性の復讐劇を通し、生きやすい未来について模索する『プロミシング・ヤング・ウーマン』。僕らに現実と向き合わせてくれる力を宿した2作品を、セットでご紹介します。

『茜色に焼かれる』(※4/15(金)後11:15、ほかリピート放送あり)
『プロミシング・ヤング・ウーマン』(※5/8(日)後9:00、ほかリピート放送あり)

『茜色に焼かれる』('21)

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コロナ禍の日常を生きる僕たちの物語

舟を編む』('13)、『生きちゃった』('20)、『アジアの天使』('21)など、今や日本映画界を代表する映画監督のひとりとなった石井裕也監督のオリジナル作品。理不尽な交通事故で7年前に夫を亡くした田中良子(尾野真千子)は、女手一つで中学生の息子・純平(和田庵)を育てつつ、夫への賠償金も受け取らず、施設に入院する義父の面倒も見ていた。コロナ禍により経営していたカフェは破綻し、バイトと夜の仕事で食いつなぐも家計は苦しく、そのせいで息子はいじめられてしまう。それでも懸命に日々を生きていく良子と純平だったが…。

 今や誰にとっても日常と化したコロナ禍での生活。緊急事態宣言が初めて出された2020年4月ごろにおいては、えたいの知れない不安に包まれたコロナ禍初期特有の空気感を宿したリモート制作の作品がいくつも生み出された。本作が撮影されたのは、1回目の緊急事態宣言が解除された後の2020年夏。当時のコロナ禍の“今”を映し出し、コロナ禍によって生じた被害は人それぞれに異なりながらも、こんな人がいたのかもしれない、何か一つ違っていたのなら自分もこうなっていたかもしれないと、他人事を自分事として捉えるきっかけを与えてくれるのが本作だ。そういった要素だけでも一見の価値があり、何より、純粋に胸を打つだけのドラマが宿っている。

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人間は何のために生きるのか

 他人から見れば「詰んでいる」とも思える良子の現状。「人はなぜ生きなければならないのか」という問いにあなたは答えることができるだろうか。中には答えられる人もいるだろう。しかし、必ずしもそれが万人共通の答えとは限らない。仮に万人共通の答えがあったとしても、誰もがそれらを受け入れられたり実践できたりするわけではない。厳しい現実に直面していく良子や周囲の人物たちの姿を見ていると、おのずと「生きる理由」や「死ぬ理由」について思考を巡らせることになるだろう。

 コロナ禍のみならず、政治・経済・戦争などによって、生きる理由が見いだしにくくなり、絶望へと至る理由が増えがちな昨今。どんなに真面目に生きていても、天災・人災の類は避けられないし、他人と関わる以上、分かり合えないこともしばしば。かといって、他人と関わらない生き方を選ぶのも至難の業。そういった不確定要素の数々を抱えた社会で僕たちは生きている。生きるということは、確固たる「理由」を模索するための時間なのかもしれない。そして、人生の大半を費やすか、極限状態まで追い詰められなければ、それらの「理由」は得難いものなのかもしれない。そんなことを、良子をはじめとした登場人物たちの生きざまから見えてくる。

 重苦しくセンシティブなコロナ禍という題材を扱いながらも、時折笑える場面もある点が本作のすごいところであり、それがまた、人生そのものを現わしているかのよう。ご自身のコロナ禍での現実を重ねながら、良子の心に寄り添いつつ、多くを感じることのできる作品です。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』('20)

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キャリー・マリガン主演! 今この時代にこそ必要な復讐劇

 俳優・クリエイターとしても活躍するエメラルド・フェネルが、第93回アカデミー賞脚本賞受賞に輝いた長編監督デビュー作。ある過去を抱え、カフェの店員として平凡な毎日を送っているかに見えるキャシー(キャリー・マリガン)は、夜ごとバーで泥酔したふりをして、体目当てに近づいてくる男たちに裁きを下していた。そんなある日、大学時代の同級生で小児科医のライアン(ボー・バーナム)と再会し、次第に彼に惹かれていくが…。

『茜色に焼かれる』を目にして得られたものは、きっとあなたの心を奮い立たせ、この人生と向き合っていくための糧になるだろう。しかし、今すぐコロナ禍が収束したとしても、人生の中で確固たる「理由」を見いだせたとしても、それだけでは太刀打ちできない現実が存在する。それは、ありとあらゆる差別や偏見だ。こと本作においていえば、女性蔑視や男女格差が浮き彫りになっていく。それらは『茜色に焼かれる』の劇中においても目にするものであり、僕たちが生きるこの現実に根深くはびこっているものだ。

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復讐を通して見えてくるものに宿る価値

 エメラルド・フェネル監督は言う。本作に完全な悪者はいないと。登場人物たちが犯した過ちは、いつの時代も繰り返されてきたものだと。本作で“問い掛け”をしたかったのだと。キャシーの標的となるのは必ずしも男性というわけではない。同調圧力にのまれてしまった女性や、多くの事柄について割り切っている女性もまた彼女の標的となる。本作は、女性VS男性という単純な構図に持ち込むのではなく、過去のある事件を引き起こすに至ったすべての要因をあらわにしていきながら、キャシーが落とし前をつけるべく行動を起こしていく。爽快感のようなものが伴う復讐劇もあるが、本作においては、リアリスティックな憂鬱ゆううつ以外の何物でもない。当事者の自覚がある人もいれば、他人事としか捉えられない人もいるかもしれないが、ジェンダー平等の世の中を目指す機運が高まる現代だからこそ、きっと多くの問いを投げ掛けられることになるだろう。

 一度起こした行ないは、なかったことにはできやしない。たとえ当人が忘れていても、他の誰かが絶対に覚えている。果たすべき責任を果たしているのか。自身の記憶を都合良く改ざんしてはいないか。本作を見終えた際には、ぜひご自分の胸に問うていただきたい。

 何のために生きるのか。どうしたら生きやすい未来が訪れるのか。今すぐに明確な答えを出せなくても、この2作品での2人の女性がたどる道筋が、わずかかばかりでも僕たちの背中を押してくれると思います。より良き今、より良き未来を求めて、ぜひセットでお楽しみください。

ミヤザキさんプロフ20210917~

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クレジット
『茜色に焼かれる』:(C)2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ
『プロミシング・ヤング・ウーマン』:(c)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

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