『スパイの妻<劇場版>』『1917 命をかけた伝令』『サンドラの小さな家』映画好きの皆さんの気になる作品は? 12月のWOWOW初放送映画 厳選3作品
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『スパイの妻<劇場版>』『1917 命をかけた伝令』『サンドラの小さな家』映画好きの皆さんの気になる作品は? 12月のWOWOW初放送映画 厳選3作品

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 映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし! のはず…。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

 今月は、海外映画賞を受賞した日本映画、全編ワンカット風映画、人とのつながりを見つめ直させてくれる感動作と、それぞれタイプの異なる3本の作品を紹介します。

『スパイの妻<劇場版>』('20)

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恐ろしい国家機密を知ってしまった夫婦の愛と歴史の闇

 第77回ヴェネチア国際映画祭にて銀獅子賞(監督賞)を受賞した黒沢清監督作。主演は『ロマンスドール』('19)でも夫婦役を演じた蒼井優高橋一生。1940年の神戸を舞台に、ある国家機密を知り、その証拠を世界へ知らしめようと行動を起こす貿易会社の社長、福原優作(高橋一生)と、夫の変化や彼への疑念に戸惑いながらも支えていこうとする妻、聡子(蒼井優)の姿を描いた人間ドラマ。

回路』('00)、『トウキョウソナタ』('08)、『岸辺の旅』('15)など、数々の海外映画祭において受賞歴を持ち、今や日本を代表する映画監督の一人といっても過言ではない黒沢清監督。北野武監督の『座頭市』('03)以来、実に17年ぶりとなる日本人監督の銀獅子賞受賞という快挙を本作で成し遂げており、これだけで十分本作に対して興味を抱いていただけると思うのだが、『ドライブ・マイ・カー』('21)の第74回カンヌ国際映画祭4冠受賞や、『偶然と想像』('21)の第71回ベルリン国際映画祭での銀熊賞受賞が記憶に新しい濱口竜介監督が共同脚本として参加している点も要チェック!

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 あまたの戦争や過ちを繰り返し、数え切れないほどの犠牲を払った上に成り立つ“今”を生きる日本人にとって、「戦争反対」は当たり前であり、どんな事情であれ非人道的行為は悪だ。不意に恐ろしい国家機密を知り、己が信じる正義のために行動を起こしていく夫婦。その姿にはきっと共感できると思うが、太平洋戦争間近の日本においては、「一致団結」「お国のために」といった思考が主流であり、彼らの行動は災いを招き入れる反逆行為と見なされる。つまり、ポイントとなってくるのは、時代によって物事の捉え方が大いに変わってしまう人間の不完全性や、立場や状況次第でいかようにも変わっていく正義の在り方など、目には映らない人の心の中となる。

 劇中のある段階において、夫のある行動があなたへ問いを投げ掛ける。彼の行動は、大義のためであったのか、愛する妻のためであったのか。そして、妻はどちらに端を発したものだと受け止めたのか。答えは本編では明かされず、あなたの心に委ねられることになる。答えへたどり着くためのヒントは終盤で明示されるが、確証を得るには事足りない。ぜひご自分の目と心で見極めていただきたい。

『1917 命をかけた伝令』('19)

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全編ワンカットのように描く戦争の恐怖、人の心

アメリカン・ビューティー』('99)、『007 スペクター』('15)などで知られる名匠サム・メンデス監督が、第1次世界大戦下のフランスを舞台に、1,600人もの友軍兵を助けるための伝令を届けるべく、危険な戦場を駆け抜ける若き兵士の姿を全編ワンカット(風に見える映像)で映し出す意欲作。主人公ウィルを『はじまりへの旅』('16)のジョージ・マッケイが演じるほか、マーク・ストロングコリン・ファースベネディクト・カンバーバッチら豪華俳優陣が出演。

 あくまでも、「ワンカットに見えるように作られた作品」であり、つなぎ目が分からないように工夫された複数のワンカット映像が組み合わさってできている本作。決して119分間ぶっ続けで撮影されたというわけではない。だが、実際に本編を目にすると、本作だからこそ生み出すことのできた圧倒的臨場感、戦場を駆け抜ける若者たちの激しい葛藤が、あなたの心をつかんで離さない。

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 戦争の恐ろしさや愚かしさは、これまで生み出されてきたあまたの戦争映画を通して度々目にしてきたと思う。それらを描くことは大切だし、後世に語り継いでいくためにも必要なもの。だが、一兵士として戦場に居合わせているリアリティ、何の補償も安全も約束されていない状況下で行動を起こさなければならないプレッシャー、選択を誤る=死に直結する極限状態、それらの感覚をここまで強く疑似体験させてくれる戦争映画がかつてあっただろうか。この没入感こそ本作における唯一無二にして絶対的な魅力の一つである。

 諦め、割り切り、面識のない仲間の命など見捨てた方が楽なのに、諦めることなく険しい道を突き進むウィル。地獄と遜色ないであろう戦場で、命を顧みず行動を起こしていける彼の心にあるものは一体何なのか。愛国心・忠誠心・名誉・勲章などがもたらす勇気もあるはずだが、彼の柄ではない。そう、彼の心を強く突き動かしていたのは、自身の内から芽生えた“使命”であり、自らに課した“責任”に他ならない。絶望的な状況下でも、使命と責任を帯びた心であるからこそ一歩踏み出し、ギリギリのところで踏ん張れる。戦時中の物語ではあるが、今この時代を生きる僕たちにとっても重要な心の在り方を、戦場を駆け抜けるウィルを通して垣間見ることになる。

『サンドラの小さな家』('20)

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シングルマザーがマイホームをセルフビルド!?

 舞台俳優として活躍するクレア・ダンが脚本&主演を務め、第36回サンダンス映画祭で大きな注目を浴びた感動作。監督は『マンマ・ミーア!』('08)のフィリダ・ロイド。DV夫のもとから2人の幼い娘とともに逃げ出したシングルマザーのサンドラ(クレア・ダン)。公営住宅に住もうにも長い順番待ちで、ホテルでの仮住まいから抜け出せずにいたある日、自分で家を建てることを思い付くのだが…。

 アイルランド出身の人気俳優であるクレア・ダン。脚本の執筆に関しては本作が初めてながらも、米バラエティ誌の「2020年に注目すべき脚本家TOP10」に選出されるなど、その手腕を高く評価されている。この物語が生まれたきっかけは、「ホームレス状態になってしまった」という彼女の親友からの電話だったという。親友はサンドラのように子を持つ女性。つまりは、フィクションでありながらも、本作の起点は現実に根差しており、親友が追い込まれた状況に憤りや疑問を抱いたクレア自身の思いが物語に込められている。

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 劇中で言及されるように、見返りがなければなかなか人は行動を起こさない。損得勘定抜きで他者のために行動を起こせるとすれば、無償の愛を注ぐことのできる家族や、無二の親友と呼べるような存在だろう。縁もゆかりもない他人のために一肌脱ぐのは難しい。既に両親は他界し、親しい友人もいないサンドラは他人に頼ることができない。離婚問題や金銭問題であれば、なおのこと打ち明けるのに勇気がいる。ただ、サンドラの周囲の人たちの姿を通して見えてくるものがある。それは、頼られることが「うれしい」と感じられる瞬間や、「頼ってほしい」と思える瞬間もあるということ。頼ってもらえなかったり、打ち明けてもらえなかったときに、「悲しい」と思う瞬間もあることを気付かされる。

 そこで浮かんでくるのが、「共同体意識」という言葉。簡単に言えば、同じ社会で生きる一員として、当然のように支え合い助け合う精神。劇中で語られるアイルランドに伝わる助け合いの精神“メハル”にも通ずるものがある。かつての日本にも近しい意識が根付いていたと思うが、無闇やたらに他人と接点を持つことを良しとしない風潮や、競争をあおる社会の構造が、いつからか共同体意識を抱きにくい状況を形作ったように思う。とはいえ、完全に消え去ったわけではない。他者の心を照らすだけの輝きを、誰もがその胸に宿している。きっかけさえつかめれば僕たちは踏み出せるのだと、サンドラや彼女を取り巻く人物たちの心の交流が示してくれる。さながらケン・ローチ作品を彷彿とさせる、力強さを持った作品です。

 目にする者の心に訴え掛けてくるものを宿した3作品とともに、12月も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。

ミヤザキさんプロフ20210917~

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クレジット
『スパイの妻<劇場版>』:(C)2020 NHK, NEP, Incline, C&I
『1917 命をかけた伝令』:(c) 2019 Storyteller Distribution Co., LLC and NR 1917 Film Holdings LLC. All Rights Reserved.
『サンドラの小さな家』:(C)Element Pictures, Herself Film Productions, FÍs Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020

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