『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』の「人間らしさ」に元気が出る #山崎ナオコーラによる線のない映画評
見出し画像

『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』の「人間らしさ」に元気が出る #山崎ナオコーラによる線のない映画評

 作家の山崎ナオコーラさんが綴る、映画をテーマにした連載エッセイ。今回は、アジア初となったインドの火星探査機打上げ成功に隠された秘話を描く宇宙開発ドラマ『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』('19)について書き下ろしてもらいました。

文=山崎ナオコーラ @naocolayamazaki

「宇宙もの」をヒューマニティーたっぷりで作ってもいいんだなあ、と感動した。

ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』は、インド宇宙研究機関(ISRO)による火星探査計画「マーズ・オービター・ミッション」を基にした作品だ。
 少ない予算と、寄せ集めのメンバーで、火星を目指す。

画像4

 まず、変わり者の科学者でプロジェクト責任者のラケーシュ・ダワンを演じるアクシャイ・クマールが面白くて、その過剰な演技に見惚れてしまう。アクシャイ・クマールは、低価格の生理用ナプキンを発明した男性の実話に基づく映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』('18)でも主演していて、生真面目で、女性を尊重していて、少し不器用で……というキャラクターが真に迫り、人間的魅力に満ちあふれていた。今回も、科学者のリアリティを追求しているというよりも、「人間らしさ」が前面に出ている演技だ(ちなみに、本作は『パッドマン 5億人の女性を救った男』の製作チームが企画しており、助監督だったジャガン・シャクティが今回は監督を務め、監督だったR・バールキが今回は脚本を書いているということだ)。

 そう、「宇宙もの」の映画というと、科学のお勉強のようだったり、どれだけリアルな映像や脚本にできるかが勝負になっていたりすることが多いが、『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』は宇宙開発を題材にしながらも、温かいヒューマンドラマに仕上がっている。
 ユーモアたっぷりで、「ああ、人間って、こういうところあるよなあ」と何度も共感する。宇宙開発がテーマだが、「日常もの」っぽい雰囲気が漂う。

画像4

 宇宙開発とはいえ、日常の中で仕事は行なわれるのだ。
 ただ、宇宙開発は壮大だ。膨大な金がかかる。
 他の国より抜きん出た活動をしよう、といった考え方が国から予算を引き出す力になるようで、愛国心が盛んに語られる。そういうふうに宇宙が語られるところを日本にいるとあまり見掛けないので最初は意外に感じたのだが、ただ、それも「人間らしさ」というか、「宇宙開発をするためには、まず国を愛さなければならないんだ」という心の動き方は確かにかなり人間っぽくて、こういったセリフも本作のストーリーにはしっくりくる。

 低予算でも、予算があれば、仕事は始まる。後は、チームメンバーだ。
 最近のこういった映画は、とりあえずチームメンバーを「性別」や「人種」が偏らないように選んで多様性に配慮している姿勢を示す、ということをしがちだ。
 けれども、『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』では、「とりあえず女性を配置しました」ということではなく、家庭での日常生活のありようや夫や子どもとの関係性をがっつり映し、そもそもの「職場」の描き方を旧来のものから変えている。「男性文化の職場に女性も入りました」ということではなく、「これまでは仕事に関係ないとされてきた家事や育児も実は仕事に関係があったんですよ。その関係を女性たちが解き明かします」といった描き方なのだ。
 もちろん、彼女たちの生活は過酷だ。プライベートにおけるパートナーは仕事を応援してくれなかったり、古いジェンダー観が家じゅうに残っていたりする。それでいて、ユーモアたっぷりで笑えるように作られているのは、他の国の映画にはない切り口だと感じられる。家事をしているときに火星行きのアイデアが浮かぶシーンは痛快で、「やっぱり、家事もキャリアになるんだなあ」とうれしくなった。

画像4

 この「マーズ・オービター・ミッション」、通称MOM計画のメンバーは女性の方が多い。
 プロジェクト・リーダーのタラ(ヴィディヤ・バラン)、航行・通信担当のクリティカ(タープシー・パンヌー)、ジェット推進担当のエカ(ソーナークシー・シンハー)、船体設計担当ヴァルシャー(ニティヤ・メネン)、自律システム担当ネハ(キールティ・クルハーリー)の5人の科学者たち。ただ、同じ性別でも、キャラクターはもちろんさまざまだ。サリーを愛用する人もいれば、インドのものを嫌ってNASAへ移ることを望んでいた人もいる。信じる宗教も別々だ。それぞれが不妊や夫の浮気に悩み、料理や洗濯や掃除をしながら日々を生き、次第に生活と仕事をリンクさせていき、科学の夢を共有する。
 男性2人もとても魅力的だ。恋愛に大きな夢を見ているがまったくモテず、占星術に頼った結果「火星に近寄るな」と占い師に言われたため、びくびくしながらチームに参加するパルメーシュワル(シャルマン・ジョシ)と、来年に定年が迫っているため最初はやっつけ仕事の気分で臨むアナント(H・G・ダッタトレーヤ)は、笑いをどんどん運んでくる。

 科学やリアルといった方向には針を振らず、ひたすら「人間らしさ」を追求したこの映画は、とにかく観ていて元気が出る。こんな夢のような職場で、「性別」も「年齢」も超えてチームになり、宇宙を目指す仕事ができたら最高だろう。

スクリーンショット 2021-11-16 205922

▼作品詳細はこちら

▼WOWOW公式noteでは、皆さんの新しい発見や作品との出会いにつながる情報を発信しています。ぜひフォローしてみてください。

クレジット:(C)2019 FOX STAR STUDIOS A DIVISION OF STAR INDIA PRIVATE LIMITED AND CAPE OF GOOD FILMS LLP, ALL RIGHTS RESERVED.

この記事が参加している募集

私のイチオシ

素敵なエンターテインメントの出会いがありますように!
WOWOW公式アカウントです。 noteでは、さまざまなエンターテインメントの魅力を丁寧に、時には“主観”を交えながら発信していきます。