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割り切るか、抗うか。人生の価値を、己の存在意義を問う2作品 #ミヤザキタケルのシネマ・マリアージュ

 映画アドバイザーのミヤザキタケルさんが、オススメの作品を1本ご紹介するのと同時に、<その映画に合う>作品をもう1本ご紹介する連載。 つまり<これを観てから、これを観るとさらに楽しめる>というコンセプトのもと、組み合わせの良い2作品を皆様にお届けさせていただきます!
 今回は、心を持ったラブドールが周囲の人々や世界に触れていく様を通し、自らの存在意義を問う『空気人形』と、無様でみじめでどうしようもなくても 、 譲れないもののために主人公が茨の道を突き進む『宮本から君へ』を マリアージュ。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

『空気人形』(’09)

空気人形a

心を持ったラブドールを通して見えてくるもの

 『万引き家族』(‘18)でパルム・ドールを受賞した、日本を代表する名監督の一人、是枝裕和監督が、業田良家の短編漫画「ゴーダ哲学堂 空気人形」を、韓国の人気女優ペ・ドゥナを主演に迎えて映画化した異色作。

 ラブドールが何なのか分からない人もいると思うので説明しておくと、実物の女性に近い形状をした人形で、疑似的なSEXをするための道具である。劇中の言葉を借りるのならば、性欲処理の代用品。

 そんなラブドールが何の因果か心を持ち、様々な感情を知っていく様は美しくも見えるのだが、時に儚く、時に残酷。自らの存在意義を見出せず思い悩む登場人物たちの葛藤は、観る者の心をきっと強く締め付ける。

 ペ・ドゥナ演じるラブドール、のぞみが持ち合わせる純粋さは、あなたの心に宿る弱さや脆さをも露わにしてしまうことだろう。僕自身、この作品を観返す度に心洗われもするのだが、結果的には自身の向き合いたくない面を暴かれ気が滅入ってしまう。それでも年1ペースで繰り返し観てしまうのは、そんな自分自身の心を見つめ直す機会を与えてくれるからに他ならない。

空気人形b

満たされない思いの行く末

生きていれば、「満たされない」という感情に直面することが誰しも何度かあると思う。人によっては、常日頃そういった感情に囚われ、希望など抱けぬまま日々を生きていることもあるだろう。その最たる原因は、充実していた時間や成功体験のようなものが過去にあったからに違いない。

 家族、恋人、金、夢、若さ、期待、可能性など、人によって詳細は異なるが、大事な何かを失ってしまったが故に生じる喪失感が原因となり、現状に満足することができなくなる。失ってしまったものを再び取り戻すか、それに匹敵、類似するだけの何かを手に入れない限り、その心は永久に満たされない。

 そう考えると、今僕たちの身の回りにあるほとんどの物や人間関係は、失った何かを補うための代用品ばかりであふれているのではないだろうか。そして、自分もまた、誰かにとっての代用品になってしまってはいないだろうか。ここできっぱりと「NO」と言えるのであれば幸いだが、おそらく言えない人の方が大部分を占めるはず。

空気人形c

代用品ではない、本当の答えを求めて歩み続ける

 自分や相手が代用品ではないという確証、自らの存在意義や価値、目に見えぬ他者との繋がりは一体どうしたら確信を持つことができるのだろう。突き詰めれば答えに近づくことも可能だが、それが求めていた答えでなかった時のことを考えると、歩みを進めるのが怖くなる。

 代用品であふれ返った世界であろうと、あいまいにしておいた方が、誤魔化しながら生きていた方が、傷つかなくて済むのかもしれない。目を背け、本音を押し殺し、自分と向き合うことから逃げ、時折訪れる自責の波を受け流し、代用品を通して得られる一時の安寧に身をゆだねて生きていくのだって正直アリだと思う。

 でも、劇中のラブドールは、答えを求めて力の限り歩み続ける。たとえその先に求めていた答えがなかったとしても……。人間としての生を全うしているのは、彼女と僕たち、果たしてどちらだろう。


『宮本から君へ』(‘19)

宮本a

不器用すぎる男が圧倒的熱量を放つ 

『ディストラクション・ベイビーズ』(‘16)の真利子哲也監督が、新井英樹の伝説的漫画を池松壮亮蒼井優の共演で映画化。池松演じる文具メーカーで働く営業マン宮本浩が、不器用ながらも恋に仕事に全力で挑んだTVドラマ版に引き続き、心身ともにズタボロになりながらも、愛する人のために勝ち目のない戦いへと身を投じていく姿を映し出す。

 『空気人形』を目にしたのなら、延々と自問自答が繰り返され、結局は答えを出せずあいまいにしたまま日々を過ごしていくことになるかもしれない。もしもあなたがそんな状態に陥ってしまった時には、この作品を観てほしい。

 決して答えを得られるわけではないのだが、異なるアプローチの仕方を目の当たりにすることができると思う。「理屈を並べ立てている暇があるのなら、頭であれこれ考えているくらいなら、行動しろ!」。そんな風に言われているような気さえしてくるはず。

 こちらも念のため説明しておくと、TVドラマ版を観ていなくても入り込める作りになっているので安心してほしい。だが、映画版を観たのなら、TVドラマ版もチェックしたくなってしまうのが道理。それだけの熱量が、この作品には込められている。

宮本c

今でなければ手にできないもののため突き進む

 劇中、恋人として、男としての役目を全く果たすことができず、自らの存在意義も、代用品としての役目すらも失ってしまう宮本。ある意味、『空気人形』の登場人物たちと変わらない。いや、それ以下の状況へと陥ってしまう。憎き敵にはコテンパンに打ちのめされ、愛する人には拒絶され、前歯もへし折られてどこにも希望は見えやしない。

 何かしらの壁に直面した時、僕たちは一体どうしているだろう。「今はまだ勝てない」「果たせない」「乗り越えられない」と悟ったのなら見切りをつけ、「いつかやろう」「強くなったらやろう」「偉くなったらやろう」「稼げるようになったらやろう」etc、そうやって先延ばしにしてしまうことはないだろうか。

 その選択も一理あるし、ゲームで倒せないボスにはレベル上げをしてから挑むのと同様、条件を整えてから挑戦するのは理に適っている。けれど、人生はゲームとは違う。人の心や想いはセーブなんてしておけない。時が解決してくれることもあるが、時が経てば経つ程に取り返しがつかなくなってしまうこともある。「いつか」ではなく「今」戦わなきゃ、「今」やらなきゃ、守れないものが、得られない世界が、永久に失ってしまうものが確かにある。

 無意識か意識してかはともかく、宮本はそれを分かっていたからこそ無謀にも突き進む。何の勝算もないまま抗い続ける。あらゆる困難を前に打ちのめされ、彷徨い、あがき、模索し、ぶつかり、また打ちのめされ、それでもどうにかこうにか前を向く。ここで退いたが最後、二度と手にできないものが、代用など利かないものがあることを知っているから。

宮本b

 自分には価値がないと、何の器量も才能もないと、まだその時じゃないと言うのなら、どうか宮本の姿を見てほしい。不器用で頭も悪くて頑固で融通が利かなくて、普通に生きていくことさえも一苦労。そんな男が何かを守るため、誰にも渡さないため、自分のため、愛する人のために抗い続ける様は、きっとあなたの心をも突き動かす。答えを見出せず彷徨う僕たちの心に、強烈な一撃をお見舞いする。そう、ぶん殴られるのと大差ない痛みと衝撃がこの作品には宿っている。

 今この時代を生きる僕たちに欠乏しがちなものを、理屈では推し量ることのできない大切なものを示してくれる2作品。割り切るか、抗うか、僕たちはどちらを選ぶべきなのか。あなたの心に響くものがあることを願っています。

ミヤザキさんプロフ

▼作品情報はこちら


クレジット:
『空気人形』:(C)2009業田良家/小学館/『空気人形』製作委員会 / 写真:瀧本幹也 『宮本から君へ』:(C)2019「宮本から君へ」製作委員会


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