鬼才ファティ・アキン、その恐るべき才能と作品の振れ幅
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鬼才ファティ・アキン、その恐るべき才能と作品の振れ幅

 映画アドバイザーのミヤザキタケルさんが、オススメの作品を1本ご紹介するのと同時に、その映画に合う作品をもう1本ご紹介する連載「シネマ・マリアージュ」。つまり<これを観てから、これを観るとさらに楽しめる>というコンセプトのもと、組み合わせの良い2作品を皆さまにお届けします! 今回は、共にファティ・アキン監督作品であり、最新作となるサスペンスホラー『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』と、2009年製作のヒューマンコメディ『ソウル・キッチン』をマリアージュ。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』(’19)

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4人の娼婦を殺害した連続殺人鬼の実話

 1970年代の西ドイツ・ハンブルクに実在した連続殺人犯フリッツ・ホンカの日常を淡々と描いた物語。安アパートの屋根裏に暮らし、出会いを求めてバーへ通うも誰からも相手にされず、うだつの上がらない日々を送るホンカ(ヨナス・ダスラー)。一見、無害に思えるその男には、誰にも言えないある秘密があった…。

 今年で48歳を迎えるドイツ出身の鬼才、ファティ・アキン監督。ベルリン国際映画祭・カンヌ国際映画祭・ヴェネチア国際映画祭と、世界三大映画祭すべてにおいて受賞を果たした、映画界の最前線をひた走る監督だ。そんな彼の最新作となる本作は、第69回ベルリン国際映画祭にて賛否両論を巻き起こした問題作。主人公が殺人へと至る暴力的な描写から、死体を解体するさままでを容赦なく映し出しているのだ。だが、ただグロテスクな作品、というだけでは終わらないのが、ファティ・アキンである。

あえて“心”には寄り添わない描き方

 幼少期における親からの虐待や育児放棄、妻との離婚など、同情の余地が生まれてもおかしくない要素を持ち合わせている実在のホンカ。しかし、ファティ・アキンはそれらの要素をあえて省いて描いている。アキン曰く、「ホンカに対して哀れみを抱いてほしくなかった」とのこと。日常で知る由のない事柄や、歩み寄ることのできない他人の心模様に触れられることも、映画を観る醍醐味の一つだが、それらを排除した描き方をしているのである。その真意は定かではないが(だからこそ賛否が巻き起こっている部分もあると思われるのだが)、実際にホンカ本人は4人を殺めている。その事実とどう向き合うかが、本作に対する評価の分かれ目となってくる。

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 理解不能なサイコパスや、シリアルキラーとしてホンカを断罪するのはたやすい。劇中において同情の余地も見出しにくいため、モヤモヤとした気持ちのまま作品を見終えることになる人もいるだろう。それでも、唯一伝わってくるもの、理解できるものがある。

 それは、他者とのつながりを欲する心や、孤独の苦しみ。その気持ちだけは、誰であっても分かるはず。その上で、どのように彼と向き合うのか、そもそも向き合う必要などあるのか…。本作を目にする上で生じるホンカとあなたとの距離感。それこそが、本作の醍醐味であり、あなた自身の心の在り方を映す鏡のような役割を果たしていく。無論、そこに正解や不正解はない。あなたの心がどのように感じるのか、この映画を観て確かめていただきたい。


『ソウル・キッチン』(’09)

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崖っぷちレストランに集う人々を描いた痛快群像劇

 第66回ヴェネチア国際映画祭において、審査員特別賞とヤング・シネマ賞のW受賞(金獅子賞にもノミネート)を果たし、弱冠36歳のファティ・アキンが世界的な映画監督へと飛躍した群像劇。ギリギリの経営ながらも、ドイツ・ハンブルクでレストラン“ソウル・キッチン”を営むジノス(アダム・ボウスドウコス)。遠距離恋愛中の彼女、仮出所中の兄、融通の利かない天才料理人、レストランの土地の権利を狙う旧友など、さまざまな人物や思惑がひしめく中、店の売り上げは徐々に上がっていき、話題の繁盛店となるソウル・キッチンであったが…。

『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』を観て少し沈んだ気持ちになってしまったそこのあなた! ご安心ください。主演を務めるアダム・ボウスドウコスが実際に経営していたレストランをモデルに作られたこの物語は、とにかく楽しく、映し出されるドラマは質が高い。同じ監督とは思えないほどの軽快な音楽、恋愛模様、兄弟の絆、おいしそうな料理の数々が、あなたの心を存分に満たしてくれることでしょう。

また、コメディ調の作品ながらも劇中には多種多様なキャラクターが登場し、そんな人々が集う場所“ソウル・キッチン”を懸命に守るといったストーリー展開と、そこに込められたメッセージが、映画祭での受賞へとつながっていることも感じ取れるはず。そして、こういった作品を経てきたからこそ、『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』のような新たなアプローチの作品が誕生していることにも合点がいく。

ファティ・アキン、その恐るべき才能と作品の振れ幅

 ファティ・アキン作品においてもっとも人を選ぶであろう『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』と、もっとも万人受けするであろう『ソウル・キッチン』。両極端にあるこの2作品で、ファティ・アキンという偉大な監督の存在は認識してもらえるはずだが、これをきっかけに、他のアキン作品にも興味が湧く人も多いのではないだろうか。

 他のアキン作品の紹介を試みるが、その作品の振れ幅がまたすごいのだ。自身のルーツであるトルコやドイツ在住の移民をテーマとした作品もあれば、ドキュメンタリー作品や原作があるもの、『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』のような実話ものまで、そのアプローチの仕方はさまざま。

 第54回ベルリン国際映画祭にて金熊賞を受賞した『愛より強く』(’04)、第60回カンヌ国際映画祭にて脚本賞を受賞した『そして、私たちは愛に帰る』(’07)、第71回ヴェネチア国際映画祭にてヤング審査員特別賞を受賞した『消えた声が、その名を呼ぶ』(’14)からなる“愛、死、悪に関する三部作”と言われるもの、祖父母が住んでいたトルコの村で起こったゴミ処理場建設問題に迫ったドキュメンタリー『トラブゾン狂騒曲 小さな村の大きなゴミ騒動』(’12)、ベストセラー児童文学を映画化した青春映画『50年後のボクたちは』(’16)など、ドイツ・トルコが共通の舞台であることを除けば、彼が創出する世界観に際限はない。そんな変幻自在な彼であるからこそ、ジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーですら果たし得なかった(当時)、三大映画祭のコンペティション部門すべてでの受賞という快挙を果たしたのだろう。

『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』によって良くも悪くも面食らい、『ソウル・キッチン』によって胸が高鳴り、あなたはきっとファティ・アキンという監督のとりこになってしまうだろう。まだ見ぬ映画の世界の扉を開くためにも、ぜひセットでご覧ください。

ミヤザキさんプロフ

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クレジット
『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』:©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathe Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH
『ソウル・キッチン』:©Corazon International

緊張しながら投稿しているので嬉しいです!ありがとうございます!
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