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11月のWOWOW初放送映画 厳選3作品

映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし!のはず...。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

 今月は、ある犯罪者の実話・映画史における呪いの企画・今最も勢いのある監督の恋愛映画と、タイプの全く異なる3本の作品を紹介します。

『永遠に僕のもの』(’18)

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「黒い天使」と呼ばれた実在の犯罪者

 今現在も収監中のアルゼンチンの連続殺人犯、カルロス・ロブレド・プッチの実話をベースに、『ペイン・アンド・グローリー』(’19)のペドロ・アルモドバルが製作、世界各国で受賞経験を持つルイス・オルテガが監督を務め、同国で年間No.1のヒットを記録した伝記映画。まるで息をするように犯罪行為を重ねていく17歳の少年カルリートス(ロレンソ・フェロ)の葛藤を通し、他者の心に寄り添うことの可能性を示してくれる作品です。

 その凶行と天使のような顔立ちから「黒い天使」と呼ばれ、アルゼンチンでは知らぬ者がいないといわれるカルロス・ロブレド・プッチ。本来忌み嫌われるはずの凶悪犯罪者を描いた作品であるにもかかわらず、本作が大ヒットを記録したのはなぜだろう。

 それは、同国において彼の事件の認知度が非常に高いこと、そして、彼にインスパイアされ生み出された主人公カルリートスが、決して理解不能なサイコパスとして描かれていないことに尽きると思う。

 事件の概要や顛末だけを耳にしたのなら、犯罪者の胸の内など理解できるはずもない。だが、登場人物の人となりや葛藤を垣間見ることのできる“映画”というものは、日常であればくみ取ろうなどとは思えない犯罪者の胸の内にだって、心を傾けることができる。

 無論、現実のプッチが犯した罪が許されるわけではないし、彼を擁護するつもりも一切ないのだが、物語の主人公カルリートスの心を理解するに至るだけのものを本作で確認することができるはず。そこにこそ、本作の価値が宿っている。

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 誰もが満たされて生きているわけじゃない。求めているものを得られなければ、別の何かで賄おうとするのが道理。しかし、本来求めているものでなければ、心に生じた飢えや渇きは完全には満たせない。代用品ではその場しのぎにしか成り得ない。

 少年が求めていたのは、おそらく親の愛。しかし、理解できない行動を取る息子に対し、叱りつけるわけでもなし、受け止めるわけでもなし、両親はただただ困惑していただけ。だからこそ、振り向いてほしくて、愛してほしくて、彼は問題を起こし続ける。その理屈だけなら誰もが理解できると思うが、次第に危うさを増していく彼の選択は、他の人とは大きく違っていた。彼と僕たちに決定的な違いがあるとすれば、おそらくそこなのだと思う。

 描かれるすべてが真実ではないにしろ、カルリートスとして描かれるプッチの繊細な心模様に僕たちは寄り添える。それはつまり、相手がいかなる存在であろうと、その心に歩み寄ることのできる可能性が僕たちには残されているということ。いざ犯罪者と相対したのなら難しいかもしれないが、伝え方や受け取り方次第で僕たちはいかようにも変わっていける。その事実を本作が教えてくれると思います。

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『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(’18)

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構想30年、企画頓挫9回、映画史に刻まれた呪いの企画

 鬼才テリー・ギリアム監督が、長きにわたり挑み続けてきた映画史上最も呪われた企画がついに映画化! 仕事への情熱を失くしたCM監督のトビー(アダム・ドライヴァー)が、かつて彼の監督する自主映画で演じて以来、自分をドン・キホーテだと思い込んでいる靴職人の老人・ハビエル(ジョナサン・プライス)と共に歩んでいく奇想天外な旅路を通し、己が人生と向き合うことの重みを映し出す。

 『未来世紀ブラジル』(’85)、『ゼロの未来』(’13)などを手掛けてきたテリー・ギリアムが、1989年に映画化の構想に着手したのが、スペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスが17世紀に出版した傑作小説「ドン・キホーテ」。トビー役にジョニー・デップ、ドン・キホーテ役にジャン・ロシュフォールをキャスティングして2000年に一度クランクインするも、自然災害による撮影中断、病気によるキャストの降板、資金破綻などによって、合計9回にも及ぶ企画頓挫を繰り返してきた。

 「最後は夢を諦めない者が勝つ」という監督の宣言のもと、最初の撮影開始から17年を経て再びクランクインに漕ぎ着け、無事完成を迎えたのが本作である。

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 初めに言ってしまうが、本作は間違いなく観る人を選ぶ作品だ。ある程度映画慣れしていたり、描かれている本質をしっかりと咀嚼できたりしなければ、置いてきぼりを食らってしまう。ただ、一見難解に思えるストーリーの根底にある素晴らしさを感じ取ることができたのなら、とても有意義な人間ドラマを目の当たりにすることができると思う。そのためのアシストとなる道標をここでは紹介したい。

 耐え難い現実に日々さらされ続けていると、他人にも自分にも嘘をつき続けていると、何が本当で何が嘘なのか、現実と虚構の境目が分からなくなっていく。程度の差はあれど、そんな経験があなたにもあるのではないだろうか。

 トビーも、自身をドン・キホーテだと思い込んでいるハビエルも、そんな状況に陥っていた。そこから抜け出すための方法は一つしかない。正しい行いをすることだ。しかし、積み重ねてきた嘘がかせとなり、身動きが取れなくなってしまうこともある。犯してきた罪が災いして、道をさまようこともある。そうなれば、虚構の中に逃げ込んでしまった方が楽なのかもしれない。

 だが、そういった状況に陥っていることや、目の前に示された選択肢を認識し、正しさの伴った方を選ぶこともできる自分に気が付けたのなら、後はもう覚悟の問題でしかない。奇妙な旅路の中で自問自答を繰り返し、己が選ぶべき答えを見いだす男たちの境地にこそ、本作の醍醐味が詰まっている。そして、それがハッピーエンドであるのかバッドエンドであるのかは、観る人の心次第で決まってくる。あなたの心には、一体どのように映るだろうか。

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『mellow』(’20)

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全員片想い! 今泉力哉ワールド全開の恋愛群像劇

 『愛がなんだ』(’18)、『アイネクライネナハトムジーク』(’19)、『his』(’20)の今泉力哉監督による恋愛群像劇。生花店を営む独身・彼女なしの夏目誠一(田中圭)と、父親から代替わりした廃業寸前のラーメン屋を営む木帆(岡崎紗絵)を取り巻く不器用な人々の恋愛模様を通し、一筋縄ではいかない恋愛や人生の奥深さを描いた作品です。

 角田光代の恋愛小説を映画化した『愛がなんだ』を観て、今泉監督の存在を知った人が多いかもしれません。今泉監督の神髄を最も感じ取ることができるのは、その唯一無二で独特の世界観、であるにもかかわらず、誰もが知り得る感情や感覚の数々を繊細に映し出すオリジナル脚本作品にあると僕は思う。そして、本作は今泉監督のオリジナル脚本作品であり、今泉力哉ワールドを存分に堪能できる1本なのです。

 人間社会を生きていく上で、誰もが誰かを好きになる。その果てに僕たちは生を受け、今この瞬間を生きている。人間がDNAレベルで劇的な進化でも遂げない限り、その仕組みやサイクルは変わらない。そう、誰かを好きになる気持ちだけは絶対に止められない。だけど、実った恋があれば、実らなかった恋も当然あるわけで、失恋の一度や二度、誰にだって経験があると思う。

 たとえ相手に気持ちを伝えていないとしても、伝えられなかった後悔や負い目が心にシコリを残し、それらもひとくくりにして「失恋」と呼称したのなら、世の中の大半の人が失恋を経験していることになる。だからこそ、この片想いまみれの群像劇に、今まさに恋をしている登場人物たちの心の機微に、切なくも愛おしい感情の衝突・擦れ違い・触れ合いに、誰もが強く引き込まれる。タイトルのごとくmellowな気持ちに心が包まれてしまう。

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 ありきたりなことを言うようだが、僕たちは一人では生きていけない。結婚せず、恋人もおらず、生涯独身のまま生きていく人だって中にはいるだろうが、それを「一人で生きている」とは言わない。生きていく以上は、自分以外の誰かの存在が必ず付きまとい、自分とは異なる考えや目的や価値観を抱いて生きる他者との接点が、さまざまな変化を与えてくれる。

 言わずもがな、恋をしている時なんて計り知れないほどの変化が起きている。結果はどうあれ、人生を変え得るほどの劇的な変化をもたらすものが愛であり、誰かを好きになる気持ちなのだということを、この作品は教えてくれる。

 劇中のセリフを一部借りるのなら、それが愛情であれ友情であれ同情であれ、そこに「情」が芽生えているのなら、自分にも他人にも何かしらの影響を及ぼす可能性を秘めている。自分以外の他者の存在があるからこそ、僕たちは変わっていけるし、まだ見ぬ自分に巡り会うことができる。複雑かつ絶妙に絡み合っていくいくつもの片想いは、恋愛に限らず、多くの事柄に想いを巡らせる機会を与えてくれると思います。

 ひとえに「映画」といっても、それぞれに異なる成り立ちやアプローチがあることを実感させてくれる3作品とともに、11月も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。

ミヤザキさんプロフ

▼作品詳細はこちら

クレジット:
『永遠に僕のもの』:©2018 CAPITAL INTELECTUAL S.A / UNDERGROUND PRODUCCIONES / EL DESEO
『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』:© 2017 Tornasol Films, Carisco Producciones AIE, Kinology, Entre Chien et Loup, Ukbar Filmes, El Hombre Que Mató a Don Quijote A.I.E., Tornasol SLU
『mellow』:©2020「mellow」製作委員会

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