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怖いだけでは終わらない。恐怖の先に宿る極上の人間ドラマ

 映画アドバイザーのミヤザキタケルさんが、オススメの作品を1本ご紹介するのと同時に、その映画に合う作品をもう1本ご紹介する連載「シネマ・マリアージュ」。つまり<これを観てから、これを観るとさらに楽しめる>というコンセプトのもと、組み合わせの良い2作品を皆さまにお届けさせていただきます! 今回は、スティーヴン・キング原作、スタンリー・キューブリック監督作『シャイニング』と、その40年後の物語を描いた『ドクター・スリープ』をマリアージュ。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

『シャイニング』(’80)

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ホテルにうごめく狂気と闇、不可解極まりない恐怖

 “ホラー映画の金字塔”として語り継がれる名匠スタンリー・キューブリックの代表作。冬の間、閉鎖される優雅な展望ホテルの管理人を務めることになった小説家志望のジャック・トランス(ジャック・ニコルソン)とその息子のダニー(ダニー・ロイド)ら一家が、ホテルに宿る“不穏な意思”にのみ込まれ、窮地に陥っていく傑作ホラー。

 タイトルに聞き覚えはあっても、破壊されたドアから顔を出すジャック・ニコルソンの印象的な顔に見覚えはあっても、「ホラーだから」という理由で本作に触れるのを避けてきた人もいると思う。むろん、本作は恐怖に値する。ただ、恐怖にもいくつか種類がある。

 『リング』(’98)などにおける明確な死のルールや、貞子ら象徴的なキャラクターが登場する類いの恐怖。『ドント・ブリーズ』(’16)などの緊迫感や緩急を意識したカメラ・ワークから生じる、「ビクッ」としたり、声を上げたりしてしまうアトラクション的な恐怖。そして、明確なルールも提示されず、えたいの知れない展開が淡々と続き精神的に追い詰められていく本作のような恐怖。ホラーに苦手意識のある人が懸念しがちなのは、一つ目のようなタイプの恐怖ではないだろうか。

 つまり本作は、観ている最中は間違いなく恐怖にむしばまれるが、あくまでも物語として捉えることができるはず。何より、この不可解極まりない恐怖を乗り越えられてこそ、後述する続編の良さをしっかりとかみ締めることが可能になる。

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スティーヴン・キングVSスタンリー・キューブリック

 物語冒頭の不穏な音楽、まるでドローン撮影と見まがう空撮が観る者の心をあっという間に作品世界へと引きずり込み、超能力を持つジャックの息子の存在や、ちりばめられていた伏線が回収される快感にも近しい恐怖の数々が、あなたの心をつかんで離さない。

 何よりも驚きなのは、本作が40年も前の作品だということに尽きる。それでいて古くささは一切なく、むしろ、初めてキューブリック作品に触れる人にとっては、全く新しい映画体験となるのかもしれない。

 そんな本作に、あるトラブルがあったことをあなたはご存じだろうか。キューブリック独自の視点で原作のストーリーやキャラクター造形に大きく手が加えられており、ニコルソンのキャスティング含め、本来意図していたドラマから大きく懸け離れてしまっていることに、原作者であるスティーヴン・キングは憤慨。

 最終的には自らが脚本を執筆し、新たにミニ・シリーズの『シャイニング』(’97)を作ってしまったほどである。キングの言い分ももっともであるが、キューブリックの『シャイニング』がここまで神聖化されてしまっている今となっては、キューブリック版が間違いであるとも言い難い。

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続編へと至る道

 ここで、一つの疑問があなたの中に生じると思う。『ドクター・スリープ』は、キューブリックが描いた『シャイニング』と、キングが描いた『シャイニング』、一体どちらの続編なのかと。

 答えは「どちらとも」である。映画化に際し、マイク・フラナガン監督はキングの了承とお墨付きをしっかりと得ており、(キューブリックが既に亡くなっているのも大きいが)何のしこりも抱えることなく、映像表現だからこそ生み出せたキューブリック版の圧倒的な恐怖、家族間の関係性などを丁寧に描いたキング版の人間ドラマ、双方のエッセンスをうまく織り交ぜた上で続編を作り上げたのである。

『ドクター・スリープ』(’19)

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“スター・ウォーズ的”師弟関係にも似た極上人間ドラマ

 40年前の惨劇を生き延びるも、心に傷を抱え酒に溺れる孤独な大人になったダニー(ユアン・マクレガー)が自分と同じ、遠く離れた能力者と交信できる能力“シャイニング”を持つ少女アブラ(カイリー・カラン)との出会いをきっかけに、児童連続失踪事件の謎を追う。そんな彼がかつて訪れたホテルに再び足を踏み入れていく姿を通し、あるべき力の使い方、生きていく上で真に向き合うべきものを描いた作品です。

力の存在が露呈することを避け、半ば世捨て人のごとく平穏に過ごせる居場所を探し求めていたダニー。序盤、便器におうとする姿は、さながらマクレガーが演じた『トレインスポッティング』(’96)の主人公のよう。

 しかし、自分と同等かそれ以上の力を宿す少女との出会いが、彼の心を少しずつ変化させていく。ダニーを導くとある存在の手助けもあり、少女を“正しさ”が伴う道へ導いていく。その姿は、さながら「スター・ウォーズ」シリーズのクワイ=ガン・ジンによって導かれるオビ=ワン・ケノービのようであり、アナキン・スカイウォーカーをより良き道へ導こうとするオビ=ワン・ケノービのようでもある。

 “力”はあくまでも“力”でしかなく、善に使うか悪に使うかは力を行使する人間の心次第。“正しさ”が伴わないことのために力を使えば、その心はやがて堕落する。欲求や願望は満たせるかもしれないが、歩む道は闇の道でしかない。“正しさ”の伴うことのために力を使えば、その心は次第に研ぎ澄まされていく。欲求や願望が満たされるとは限らないが、歩む道は間違いなく光の道となっていく。

 かつての出来事がかせとなり、“正しさ”から遠ざかっていたダニーは少女と出会い、着実に光の道を歩み始めていく。そして、その姿を見ていれば分かると思う。正しき心や行動が伴わなければ、自らが追い求める答えにはたどり着けない、望む未来も切り開けない、より良き未来など呼び込めないのだと。

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恐怖の先に極上の人間ドラマが待っている

 キューブリック監督の『シャイニング』の不穏な空気がしっかりと漂っているのも本作の見どころであるが、少女が持つ力強い輝きに照らされて変化していくダニーの心模様もまた見どころの一つ。

 程度の差はあれど、誰もが彼と同様に何かしらの問題を抱えながら生きている。そう簡単に解消できないことも、乗り越えられないことも、重々承知のはず。ただ、ごまかし続けるのにも限界がある。唯一の解決策は、問題が生じた原因と向き合うことだけ。その辺りの道理がとても丁寧に、いくつかの段階を経て描かれていく。

 酒に逃げて生きてきたダニーであったが、向けられた善意のおかげもあって断酒を誓う。そう、自らをごまかすすべを手放したのが第一段階。続いて少女との出会いが正しい行ないをすることを誘発し、その心に勇気を宿していくのが第二段階。そうして心が強くなっていくことで腹が据わり、ようやく問題が生じた原因と向き合えるだけの覚悟が芽生えていくのが第三段階。その過程や在り方は、この現実を生きる僕たちにも十分当てはまる。

 過去にとらわれ前へ進むことができずにいた男が、手探りながらも道を模索し、持て余していた力を正しいことのために振るい始め、過去の因縁にけりをつける。物語の根底に敷かれている骨太な人間ドラマがあるからこそ、恐怖を上回るだけの絶対的な勇気の在り方を目の当たりすることができる。

 かつての父とそう変わらぬ年齢になり、父が抱えた弱さの正体も垣間見て、己の弱さも痛感し、少年ダニーは大人になっていく。そして、少女との出会いがトリガーとなり、大人が果たすべき役目を果たそうと正しき道を歩み出す。

 開始10分までは『シャイニング1.5』、その後は『ドクター・スリープ』が始まり、ラスト35分は『シャイニング2』とでも言いましょうか。152分の長尺作品ではありますが、絶えず訪れる恐怖・衝撃・感動によって、あっという間に時間は過ぎ去っていくと思います。たとえホラーが苦手な方でも、『シャイニング』さえ乗り切れれば、極上の人間ドラマが待っています。

 大昔に『シャイニング』は観ているけれど、『ドクター・スリープ』は観ていないという方も、かつて感じた恐怖のその先を、成長したダニーが歩む人生を見届けることで、『シャイニング』という作品の捉え方が大いに変わっていくと思います。

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 『シャイニング』の記憶が鮮明であればあるほどに楽しめる作品なので、『シャイニング』と『ドクター・スリープ』、ぜひセットでご覧ください。

ミヤザキさんプロフ

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緊張しながら投稿しているので嬉しいです!ありがとうございます!
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