若かりし日々の恋と、大人の恋を通して見えてくるもの――。菅田将暉×有村架純主演『花束みたいな恋をした』、岩井俊二監督『ラストレター』
見出し画像

若かりし日々の恋と、大人の恋を通して見えてくるもの――。菅田将暉×有村架純主演『花束みたいな恋をした』、岩井俊二監督『ラストレター』

 映画アドバイザーのミヤザキタケルさんが、オススメの作品を1本ご紹介するのと同時に、その映画に合う作品をもう1本ご紹介する連載「シネマ・マリアージュ」。つまり<これを観てから、これを観るとさらに楽しめる>というコンセプトのもと、組み合わせの良い2作品を皆さまにお届けします! 今回は、坂元裕二のオリジナル脚本を映画化した『花束みたいな恋をした』と、岩井俊二が監督を務める『ラストレター』をマリアージュ。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

『花束みたいな恋をした』('21)

ph花束みたいな恋をした

恋の始まりと終わり。5年にわたる恋模様に何を見る?

最高の離婚』('13)、『大豆田とわ子と三人の元夫』('21)など、数々のTVドラマ作品で知られる坂元裕二のオリジナル脚本を、『罪の声』('20)の土井裕泰監督、菅田将暉有村架純のW主演で映画化。終電を逃したことから偶然に出会った大学生の山音麦(菅田将暉)と八谷絹(有村架純)。本や映画、音楽の趣味が似通っていたことから急速に近づき恋に落ちた2人は、大学卒業後にフリーターをしながら同居をスタート。その後、変わらぬ日々を過ごしていくため、現状維持を目標に就職活動を始めるが…。

 2020年の麦と絹の姿から物語は始まり、時間をさかのぼって、2人が出会った2015年から別れへと至る2019年までの5年の歳月を、ほほ笑ましく、いとおしく、切なく、とても丁寧かつ繊細に映し出していく本作。つまり、あなたが目にすることになるのは、あらかじめ終わることが約束された彼らの恋模様。初めから答えが分かり切ったものを目にして、本当に面白いのかと疑問に思う方もいるかもしれない。でも、どうかご安心を。恋の始まりから終わりへと向かっていく“過程”にこそ本作最大の魅力が宿っており、観る人が重ね合わせられる瞬間が無数に存在するのです。

ph花束みたいな恋をしたb

若かりし日々の輝かしき恋模様と、次第に訪れる変化

 その時代ごとにはやったものや出来事が実名で度々登場するため、あなた自身が過ごした2015~2019年の時間が鮮明に呼び覚まされていくのと同時に、5年という歳月の長さや重みをリアルに感じ取ることができる。また、麦と絹の恋模様を通し、若かりし日々の自身の恋愛や、20代前半~中盤ならではの感覚が大いに呼び起こされていくはずだ。大人になればなるほど、将来を考えれば考えるほどに、職業・収入・家柄など、パートナーに求める価値基準が変わっていくことは珍しくない。しかし、学生時代にそれらを重視して恋をしていただろうか。人それぞれに細かな差異はあるにせよ、それよりも他に優先していたものがなかっただろうか。一定の年齢に達してしまえばできなくなる、若かりし日々ならではの恋愛。麦と絹の出会いや恋の始まり、彼らが社会へと足を踏み入れ、それぞれに環境や状況が変わっていく中で、互いの価値基準や優先順位にズレが生じ始めていくさまに、きっと胸揺さぶられるものや思い当たる節があるに違いない。

 何事にも始まりがあれば終わりがあり、永遠に続くものなどそうありはしない。けれど、限りがあるからこそ、時にはかなくて、尊くて、忘れられないものにもなっていく。そんな思い出の数々や、あなたにとって忘れることのできない大事な恋に、この作品は邂逅かいこうさせてくれると思います。

『ラストレター』('20)

phラストレターa

手紙の行き違いから見えてくる2つの世代の恋模様

Love Letter』('95)、『スワロウテイル』('96)、『リリイ・シュシュのすべて』('01)などで知られる岩井俊二監督が、松たか子広瀬すず神木隆之介森七菜福山雅治豊川悦司中山美穂ら豪華キャスト共演で描くラブストーリー。高校時代に生徒会長を務めていた姉の死を知らせるために参加した同窓会で、裕里(松)は姉と間違われ、成り行きでかつての思い人である鏡史郎(福山)と文通をすることになる。やがて鏡史郎からの手紙が姉の娘、鮎美(広瀬)の元へ届いたことから、2つの世代の恋の真実が明らかになっていく…。

『花束みたいな恋をした』で目にしたような若さ故の熱量や輝きはとうの昔に失われ、何かしら後悔していたり、うまく人生に折り合いをつけていたり、本来追い求めていたものとは異なる幸福を見いだしていたりもする40代。『ラストレター』は、その年代に当たる男女が主要人物となる。20代前半から中盤までの恋模様を『花束みたいな恋をした』で実感した直後に本作を目にすれば、若き日々と大人になってからの恋愛事情の差異や、向き合い方の変化をよりくっきりと感じ取ることができるはず。また、時がたてばたつほどに、その価値や特異性が増していく“手紙”の要素も相まって、いくつになっても切り離すことのできない恋愛の重みも存分に味わうことができるだろう。

phラストレターc

40代の男女の心を突き動かしていくもの

 言うまでもないことだが、「結婚=ゴール」などということは決してなく、付き合いたての頃のような気持ちはやがては冷め、相手に対する恋心さえも往々にして薄れていく。俗に言う「永遠の愛」を体現することはなかなか難しい。とはいえ、仮に恋心が冷めたとしても、生活や時間、経験を共にする中で芽生えていく信頼関係が“家族”としてのつながりを育むものだし、子供がいることで新たに芽生えていく関係性もあると思う。『花束みたいな恋をした』の終盤で麦が言及するような、さまざまなことを割り切って夫婦生活を営んでいる人の方が多いのではないだろうか。

 多くのことが見えていなかったからこそ純粋でいられた、若い時の恋や生き方。良くも悪くも見えてしまっているからこそ打算的にもなる、大人の恋や生き方。その道理が分かっているからこそ、大人になってしまった後、人はかつての恋に思いをはせたり、あまたの恋愛映画・ドラマ・小説の類を欲したりするのかもしれない。今では失われつつある感覚を取り戻したい、忘れたくないと思って。『ラストレター』の作中で読み上げられる卒業式の答辞にもあるように、たくさんの選択肢や可能性に満ちあふれていた過去を振り返ることで、今この瞬間を生きるために必要な何かを得ようとしているのかもしれない。

phラストレターb

 40代の裕里と鏡史郎の心を突き動かしていくもの。それは、かつて抱いた忘れ得ぬ恋心。最も純粋だった頃の恋の残り火が、彼女たちの心を突き動かしていく。その恋はいつまでも良い思い出として心に刻まれているものだし、かつて持ち合わせていたはずの輝き、その片鱗へんりんをも呼び覚ますことがまれにある。そして、姉の死と同窓会での再会が火種となり、2人の人生や止まっていたはずの時間を大きく動かしていくことになる。裕里と鏡史郎が行き着く恋の果てを通して、過去から連なる今を見つめ直し、未来について一考する機会に巡り合う。

 20代の頃にしていた恋愛の記憶や感覚を鮮明に呼び起こしてくれる『花束みたいな恋をした』。大人になり失われていくものがあることを自覚しつつも、決して忘れられないもの、忘れたくないものもあることを感じさせてくれる『ラストレター』。観た人それぞれの実人生を重ねることができる2作品、ぜひセットでご覧ください。

ミヤザキさんプロフ20210917~

▼作品詳細はこちら

▼WOWOW公式noteでは、皆さんの新しい発見や作品との出会いにつながる情報を発信しています。ぜひフォローしてみてください。

クレジット
『花束みたいな恋をした』:(c)2021「花束みたいな恋をした」製作委員会
『ラストレター』:(C)2020「ラストレター」製作委員会

この記事が参加している募集

私のイチオシ

緊張しながら投稿しているので嬉しいです!ありがとうございます!
WOWOW公式アカウントです。 noteでは、さまざまなエンターテインメントの魅力を丁寧に、時には“主観”を交えながら発信していきます。