『リンダ リンダ リンダ』は本当の青春時代を思い出させてくれる映画――スピードワゴン・小沢さんが心を撃ち抜かれたセリフとは?

映画を愛するスピードワゴンの小沢一敬さんが、映画の名セリフを語る連載「このセリフに心撃ち抜かれちゃいました」
毎回、“オザワ・ワールド”全開で語ってくれるこの連載。映画のトークでありながら、ときには音楽談義、ときにはプライベートのエピソードと、話があちらこちらに脱線しながら、気が付けば、今まで考えもしなかった映画の新しい一面が見えてくることも。そんな小沢さんが今回ピックアップしたのは、高校を舞台にガールズ・バンドの奮闘を爽やかに描いた青春人間ドラマ『リンダ リンダ リンダ』(’05)。さて、どんな名セリフが飛び出すか?

取材・文=八木賢太郎 @yagi_ken

──今回は、小沢さんが愛するTHE BLUE HEARTS(以下、ブルーハーツ)のコピーバンドを文化祭でやろうとする女子高校生4人組の青春映画です。

小沢一敬(以下、小沢)「この映画はね、映画館で上映された時、すぐに観に行った覚えがあるんだ」

──劇場公開は2005年だから、だいぶ前ですね。

小沢「もう15年以上もたつのか。今回、改めて観たけど、やっぱりいい映画だね」

──久々に観て、何か印象が変わった部分はありましたか?

小沢「なんかさ、俺も45歳を越えて、俗に言う“青春時代”ってものをついつい美化しがちなんだけど、この映画を観て、本当の青春時代の日常ってこんな感じだったよな、って思った」

──リアルな青春時代は、意外と退屈で淡々としてると。

小沢「そうそう。いろんな青春モノの作品があってさ、それぞれにキラキラした場面が出てくるじゃん。たとえば恋愛してたり、バンドやってたり、ケンカしてたり。だけど、実際の自分の10代の頃って、何もない一日もいっぱいあったんだよね。思い出の中だと、毎日忙しかったイメージだけど、実は意外とのんびりしてたんだよ。青春時代にも雨の日はあったし、曇りの日もあったんだから」

──そんなにいいことばかりじゃなかった、と。

小沢「年を取ると、青春時代は良かった的なことを言いがちだけど、今とたいして変わらない。青春時代でも退屈してたし、ただ学校に行って帰ってくるだけの日もあったし」

──そんな退屈な日常を思い出させてくれるような作品でした。

小沢「映像も、全体的にカラッとしてないよね。ちょっと暗くて湿ったような撮り方というか。冒頭のほうのプールのシーンとかは、すごいキラキラしててまぶしいんだけどさ」

──香椎由宇さん演じる恵が水着でプールに浮かんでるシーン。

小沢「そう。でも、夕方にみんなで歩いて帰るシーンなんかは、ちょっと暗い画だったりして。日本の映画っぽい、湿度のある感じで、ああいうのも好きだね」

──そんな中に、彼女たちが下手ながら懸命に練習するブルーハーツの曲が、何度も流れてきました。

小沢「俺の青春時代とリンクしてるっていうと言い過ぎかもしれないけど、俺も中学の時にバンドを組んで、文化祭でブルーハーツのコピーをやってたのよ。もちろん、その時は『リンダ リンダ』もやったしね」

──完全にリンクしてるじゃないですか。

小沢「だから、この映画を観てたら、その頃を思い出して心臓がギュッとなったよね」

──主役の4人組も、また良かったですね。

小沢「あそこが好きだよ。ソンさん(ペ・ドゥナ)が、ブルーハーツを聴いて、知らないうちに涙を流しちゃってるところ」

──急きょ、バンドのボーカルを頼まれた韓国からの留学生のソンさんが、初めてブルーハーツの曲を聴くシーンですね。

小沢「俺もさ、中学2年のときに友達がうちにブルーハーツの音源を持ってきてくれて、それまではまったく存在も知らなかったんだけど、初めて聴いた瞬間、ああやって涙が止まらなかったもん」

──では、そんな甘酸っぱい青春感あふれるこの作品で、小沢さんが心を撃ち抜かれたセリフは?

小沢「今回もいっぱいあったんだけど、一つだけ選ぶなら、屋上のシーンで恵が先輩から言われる、『みんなでやんなきゃ面白くないじゃん』かな」

──恵たち4人組がバンドで出演する文化祭の開催中に、屋上でひとりぼっちで過ごしていた留年中のバンド仲間の中島田先輩(山崎優子)が、バンドについて恵に語る場面のセリフですね。

小沢「これって、バンドだけの話じゃないんだよね。たとえば、俺はお笑いの仕事をさせてもらってるけど、それって、漫才なら相方の(井戸田)潤だったり、バラエティ番組だったら他の出演者だったり、そういう人たちがいるからやってるだけなんだよ。もしもひとりきりだったら、なんもやらねえなって、いつも思ってる」

──“誰か”がいることが大事だと。

小沢「そうそう。旅行もよく行くんだけど、俺自身には行きたい場所なんてどこにもないのよ。別に旅行が嫌いなわけじゃないけど、やっぱり友達がいて、俺を誘ってくれて、行き先も考えたりしてくれるから、旅行は楽しいんだよね。ひとりで行こうとは思わない。みんなとやるからこそ、それが“楽しい”になるっていうか」

──じゃあ、放っておいたら平気でひとりで過ごします?

小沢「うん。ひとりぼっちでも全然構わないと思ってて。ひとりきりで部屋でずっと本を読んだり、映画を観てたりするのも好きだから。だけど、それはやっぱり“楽しい”とは違うんだよね。世の中ではさ、“楽しい”よりも“面白い”のほうが偉いみたいに言われることがあるじゃん。たとえば、『おまえらがやってるお笑いなんて、楽しいだけで面白くはねえよ』みたいに言われることがあるわけよ」

──特にバラエティ番組なんかは、そう言われがちですよね。

小沢「だけど俺は、“楽しい”って最高じゃん! って思ってるから。ちょっと、この映画のセリフとは逆の言い方になっちゃうけど、ひとりで本を読んだり映画を観たりするのは“面白い”で、みんなでやるのは“楽しい”だと思うのよ、俺は」

──その辺は、まさに映画のテーマとしても描かれてることですよね。バンドなんて、みんなでやるから最高に楽しいんだっていう。

小沢「だから、あのセリフもよかった。ソンさんが『バンド誘ってくれてありがとう』って言うと、恵が『ありがとね、ソン、メンバーになってくれて』ってお返しするところ」

──文化祭の前日、最後のスタジオ練習の最中に、トイレの洗面台の前で、2人がそれぞれ韓国語と日本語で交わし合うセリフですね。

小沢「たぶん2人とも、気の合うみんなでやるから楽しいんだ、っていうのが分かったんだよね」

──そう思えたきっかけの一つとして、世代が変わっても愛されるブルーハーツの曲の良さ、みたいなものがあったと思いますか?

小沢「この映画ではたまたまブルーハーツだったけど、ブルーハーツに限らず、やっぱりいいものはいつの時代でもいい、って話なんじゃないかな。」

──確かに、世代を超えて愛されるアーティストはたくさんいますね。

小沢「この映画の中で流れる曲でも、例えば、文化祭のステージの場つなぎで中島田先輩が一人で歌う、ユニコーンの『すばらしい日々』なんかも、めちゃくちゃよかったからね。確かに俺は、間違いなくブルーハーツに人生を変えてもらったひとりだけど、そういう力は、ブルーハーツだけが持っているものではないと思うし。言ってみれば、この映画そのものだって、また誰かの人生を変えてくれる存在になるかもしれないからね」

──そうですね。この映画に出てくる高校生たちのように、文化祭で人生が変わったって人だって、実際にはたくさんいるだろうし。

小沢「あの最後に演奏するシーンの体育館には、いろんな子がいるじゃん。告白したけどうまくいかなかった子、告白できなかった子、前の方で盛り上がってる子、座って見てる子、バンドに入れてもらえなかった子。もちろん、ステージに立ってる子たちもいるし。あそこには、みんないるのよ。たぶん、この映画を観た人は、あの体育館の中に、必ず自分を見つけるよね。『あ、俺はこれだ』とか『これは私だ』って」

──青春時代の自分はこんなタイプだったなって。

小沢「うん。あの中に、必ずいつかの自分がいる。たとえば、後ろの方でつまらなそうに見てるような子だったとしたら、『私の青春時代なんて、なんにもなかった』って思うかもしれないけど、実はそこには『なんにもなかった』っていうものがあったわけで。それがまた、青春時代というやつだからね(笑)」

──なんか、まさに心臓がギュッとなるようなお話ですけど。ちなみに小沢さんは青春時代、お笑い芸人ではなく、ミュージシャンを目指したいって気持ちはなかったんですか?

小沢「いやいや、全然、今でも思ってるよ、ミュージシャンとしてやっていこうって」

──まさかの返答(笑)。

小沢「ただ問題はね、俺は音楽がめちゃめちゃ好きなのに、音楽が俺のことをあんまり好きじゃないのよ。音程というやつが、すぐに俺の目の前から隠れて、見失っちゃうから(笑)」

小沢さんプロフ

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