共存を探る『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』 #山崎ナオコーラによる線のない映画評
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共存を探る『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』 #山崎ナオコーラによる線のない映画評

 作家の山崎ナオコーラさんが綴る、映画をテーマにした連載エッセイ。今回は、バイキングの青年ヒックとドラゴンの絆を描くファンタジーアニメの劇場版三部作の完結編『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』('19)について書き下ろしてもらいました。

文=山崎ナオコーラ @naocolayamazaki

ヒックとドラゴン 聖地への冒険』は、主人公の少年ヒック(声:ジェイ・バルチェル)と、ドラゴンのトゥースの友情がメインに描かれる3Dアニメ映画『ヒックとドラゴン』シリーズの3作目だ。イギリスの児童文学作家のクレシッダ・コーウェルによる『ヒックとドラゴン』シリーズが原作となっている。

 本作では、バイキングのリーダーを務めるヒックが、本拠地であるバーク島からの移動を考える。要は、「引っ越し映画」だ。
 かつては敵同士だった人間とドラゴンだが、今では仲良く暮らしている。だが、バーク島は人間とドラゴンであふれ返って満員状態で、しかもドラゴン・ハンターのグリメル(声:F・マーレイ・エイブラハム)に目を付けられて危険な土地になってしまった。そこで新天地に移ることをヒックは提案する。
 そんな中、トゥースはメスのナイト・フューリーと出会い、恋に落ちる。ナイト・フューリーというのは、ドラゴンの最強種族で数が少ないらしい。トゥースは仲間と会うのが初めてのようで、しかも初恋らしく、なかなか気持ちを通じ合わせることができない。
 ヒックはトゥースの恋を応援しながら、だんだんと、今自分たちがやっている人間とドラゴンの共同生活が、本当にドラゴンたちを幸せにするのか? と疑問が胸に湧いてくる。

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 見どころは、ドラゴンたちの飛行シーンだろう。たくさんのドラゴンがわちゃわちゃと飛んでいるところ、「ドラゴンたちの楽園」でのんびり過ごしているところは、単純に楽しい。
 ドラゴンは人の言葉を話すことができないが、コミュニケーションはかなり取れるみたいだ。飛行などの身体能力がすごいだけでなく、知能も高いに違いない。
 人間は、このような「人間と動物の間の存在」を夢想することが古代から好きだ。洞窟に残っているような、原始の人間が描いた壁画にも、ファンタジックな存在がたくさんある。

 人間と動物の間に、しっかりとした線はあるのだろうか?
 大昔は、人類にはホモサピエンスの他にもネアンデルタール人やデニソワ人などのいくつかの種がいたり、人類と他の種の間になだらかな違いのある動物がたくさんいたりしたみたいだが、進化の過程で人類は1種類になり、人類に似た存在もいなくなってしまった。ホモサピエンスが他の種を駆逐した、とも捉えられるかもしれない。今や、地球はホモサピエンスが支配しているといっても過言ではない状況になってしまっている。
 だから、現在では、人間と他の存在の違いが強く感じられ、とても濃い線が引けるように思える。人間と猿はまったく違う。人間だけが特別な存在である気がしてくる。
 でも、『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』などのファンタジー映画で、実際の地球では見ることのない存在を眼前に感じると、「やっぱり、線なんてないんだろうな」と思い直す。人間が蹴散らしたせいで、似ている存在が今はいないというだけで、人間も他の多くの存在と同じなのだ。

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 いろんな存在のすべてが大事な存在で、なだらかな違いしかなく、本当は線なんて引けない。「人間」と「人間ではない存在」という見方で世界を切ってはいけない。
 ただ、なだらかな違いって、かえって難しい。
 人間と猿が仲良くするのはまあできても、ホモサピエンスとネアンデルタール人が仲良くするのはなかなかハードルが高い。
 大きな違いのある存在よりも、小さな違いのある存在の方が、競争をしたくなったり、脅威を覚えたり、差別をしたくなったり、ともに生きるのが難しい。どちらかがどちらかを搾取したり、利用したりする関係に陥りやすい。
 ファンタジー映画ではよく、不思議なキャラクターたちが人間によって搾取されたり利用されたりする。
『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』でも、ドラゴンは人間に搾取されたり利用されたりする。ドラゴン・ハンターたちに狙われ続ける。
 ヒックたちバイキングはドラゴン・ハンターとは違ってドラゴンと仲良くしているわけだが、それでも、手綱をつけてドラゴンたちに乗り、人間の飛びたい方向に向かわせる、という主従関係を築きながらの友情なので、完璧に美しい関係なのかどうかは分からない。知的で美しい存在に手綱をつけていいのだろうか? ヒックとしても、そこが気になったのだろう。そうして、ラストへ向かうわけだ。

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 共存を夢見たい気持ちは、人間の誰もが持っている。ドラゴンのような存在とも、ともに暮らしていきたい。動物とも、自然とも、相いれない考えを持つ他人とも、一緒に地球をつくりたい。「人間の楽園」は、同種の人間だけではつくれないと多くの人が思っている。
 でも、共存というのは、とても高いところにある夢なのだ。

ナオコーラさんnoteプロフ210924~

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