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これぞ神髄! 脈々と受け継がれる“日本映画イズム”を2本の映画から体感する

 映画アドバイザーのミヤザキタケルさんが、オススメの作品を1本ご紹介するのと同時に、その映画に合う作品をもう1本ご紹介する連載「シネマ・マリアージュ」。つまり<これを観てから、これを観るとさらに楽しめる>というコンセプトのもと、組み合わせの良い2作品を皆さまにお届けします! 今回は、名匠、今村昌平監督作『復讐するは我にあり』と、超豪華俳優陣出演の阪本順治監督作『一度も撃ってません』をマリアージュ。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

『復讐するは我にあり』(’79)

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日本を代表する映画監督の大ヒット作

 『楢山節考』(’83)、『うなぎ』(’97)でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを2度受賞した、日本を代表する映画監督、今村昌平監督作。緒形拳を主演に、全国各地で詐欺や窃盗を重ねた揚げ句、5人の命を奪った連続殺人犯の78日間に及ぶ逃亡生活を追った骨太な人間ドラマ。

 黒澤明、小津安二郎、成瀬巳喜男、溝口健二、岡本喜八ら、世界でも一目置かれる今は亡き映画監督たち。今村昌平監督もそのひとりだ。マーティン・スコセッシやポン・ジュノをはじめ、数々の映画人がリスペクトする名監督である。「古い作品だから」「知っている俳優が出ていないから」と、スルーしてしまうことなかれ。40年以上前の映画だが、古さを感じさせない本作。当時の日本映画にあった特有の空気感や、「名作」と呼ばれる日本映画に触れる機会をぜひつかんでいただきたい。

原作は『すばらしき世界』(’20)の佐木隆三

 本作の原作は、今年話題になった西川美和監督作『すばらしき世界』の原案「身分帳」の作者でもある佐木隆三の同名ノンフィクション小説。「身分帳」同様、実際の事件(西口彰事件)を題材にした作品で、第74回直木賞を受賞していることもあり、藤田敏八、黒木和雄、深作欣二らと映画化権を巡る騒動もあったが、今村昌平が獲得。大ヒットを記録し、1979年度のキネマ旬報ベストテン1位や第3回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した。多額の借金のため10年近く映画製作から離れていた今村プロダクション再起のきっかけとなった映画である。

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理解し難い男の、理解可能な人間くささ

 容赦なく人を傷つけ、騙し、殺害する主人公、榎津巌(緒形)。決して共感や同情をすべき男ではない。が、父親との確執、あふれんばかりの性欲や傲慢さ、機転を利かせた大胆な行動力、嘘を介すことで円滑に人間関係を築いていくさまなど、彼の一挙手一投足に付きまとう人間くささには、惹き付けられる。「理解し難い殺人鬼」として彼を捉えるのではなく、同じ人間として彼の姿を見届けることができる。

 そんな男を見事に体現した緒形拳の名演をはじめ、俳優陣の存在感が素晴らしい。デジタル撮影が主流となり、撮り直しや撮った映像の確認が容易となった現代とは異なり、この頃はまだフィルム撮影。撮り直すにも費用がかかり、撮った映像をすぐ確認することもできない。そんな制約があったからこそ生じていた空気、俳優やスタッフの覚悟のようなものが、かつての日本映画には宿っていたように思えるのだ。日本映画がギラついていた時期のにおいを本作から感じていただきたい。


『一度も撃ってません』(’20)

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伝説の殺し屋(?)を通して描く男の生きざま

 日本映画界の名バイプレーヤー石橋蓮司を主演に、『北のカナリアたち』(’12)、『半世界』(’18)の阪本順治監督が描くハードボイルド風コメディ。“伝説のヒットマン”と噂されるも、実際は一度も人を撃ったことのない売れない小説家、市川進74歳。本物のヒットマンに殺しの依頼を代行してもらい小説のネタを得ていたが、ひょんなことから妻に浮気を疑われ、敵のヒットマンに命を狙われることに…。

脈々と受け継がれる“日本映画イズム”

 『復讐するは我にあり』と直接的なつながりがあるわけではないが、不思議と本作には、1970年代の日本映画特有の空気感が漂っている。それは、『復讐~』と同じ時代に活躍していた、ドラマ「探偵物語」などで知られる丸山昇一が本作の脚本を手掛けている点や、あの時代を生きてきた名優、原田芳雄と阪本順治の関係性(※1)、石橋蓮司(※2)が主演を務めている点など、理由はさまざまある。

 ちなみに、『復讐するは我にあり』に三國連太郎が出演しており、本作には佐藤浩市寛一郎が出演しているため、2作を通して三國・佐藤3世代のつながりも目の当たりにできる。そう、時代は変われども、今も生き続けているものや、受け継がれてきたものがあり、それらが本作には色濃く宿っている。

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時代が変わっても変わらないもの

 どれだけ時代が変わろうと、人の本質は変わらない。素晴らしい面もあれば醜い面も併せ持ち、偉大な功績も残せば、取り返しのつかない過ちも犯してしまう。本作で描かれているのは、そんなどこまでも変わることのない人間の姿だ。また、男の格好良さも。それは容姿でもなく、ヒットマンとしての技術でもない。いかに女性を口説けるかでもなく、もっとシンプルなものだ。その在り方を、伝説のヒットマンの生きざまに垣間見る。

 生きていれば誰もが理想や夢を抱くものだし、それを実現するために行動する。だが、どこかのタイミングでかなわないと諦めるタイミングも訪れる。しかし、市川進は違っていた。74歳になっても、見えを張り、意地を張り、理想の自分を追求することを諦めていない。そんな男の生きざまにぐっとくる。

 『一度も撃ってません』のタイトルが示す通り、主人公は実際に人をあやめたこともない形ばかりのヒットマン。現実はただの売れない小説家。それでもなお、より良き小説を書くことに精を出し、ブラックハット、トレンチコート、サングラスで外へ繰り出すことで、普段とは異なるギラついた漢(おとこ)が顔を出す。自分のこだわりを貫き通そうと、徹底して日々を生きている。

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 あなたはどこまで見えを張り続けることができるだろうか。意地を張り続けることができるだろうか。時代にあらがうかのごとく、己のスタイルを曲げない市川進の姿こそ、本当に格好良い男の姿といえるのではないか。『一度も撃ってません』というタイトルは、その実、「一度も信念を曲げてません」という意味合いにも取れるのではないか。

 ともに人を惹き付ける魅力ある男たちの物語。作品の性質は大きく異なれど、ひとりの男が自身の人生をひた走っていくさまは変わらない。脈々と受け継がれる日本映画の面白さ、その歴史を体感できる2作品、ぜひセットでご覧ください。

(※1) 阪本順治の監督デビュー作『どついたるねん』(’89)をはじめ、原田芳雄の遺作となる『大鹿村騒動記』(’11)など、数々の作品でタッグを組んだ
(※2)清水邦夫、蜷川幸雄、降旗康男、深作欣二、市川崑らとともに時代を駆け抜けてきた

ミヤザキさんプロフ

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クレジット
『復讐するは我にあり』:©1979/2020 松竹株式会社・株式会社今村プロダクション
『一度も撃ってません』:©2019「一度も撃ってません」フィルムパートナーズ

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