現在~過去、この現実にある、さまざまな問題と向き合わせてくれる映画の力『少年の君』『MINAMATA-ミナマタ-』
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現在~過去、この現実にある、さまざまな問題と向き合わせてくれる映画の力『少年の君』『MINAMATA-ミナマタ-』

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 映画アドバイザーのミヤザキタケルさんが、オススメの作品を1本ご紹介するのと同時に、その映画に合う作品をもう1本ご紹介する連載「シネマ・マリアージュ」。つまり<これを観てから、これを観るとさらに楽しめる>というコンセプトのもと、組み合わせの良い2作品を皆さまにお届けさせていただきます! 今回は、第93回アカデミー賞で国際長編映画賞にノミネートした『少年の君』と、ジョニー・デップが世界的写真家ユージン・スミスを演じ話題を呼んだ『MINAMATA-ミナマタ-』をマリアージュ。
※今回を持ちまして、本コラム「シネマ・マリアージュ」の連載は最終回となります。
これまでご愛読いただきありがとうございました。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

 中国におけるいじめ、受験戦争、ストリート・チルドレンなどの問題をバックボーンに描く感動作『少年の君』。日本の公害病“水俣病”を取材した写真家ユージン・スミスの姿を綴った『MINAMATA-ミナマタ-』。現実の社会背景や実話ベースであるからこそ強く響く2作品をセットでご紹介します。

『少年の君』(※6/19(日)後11:00、ほかリピート放送あり)
『MINAMATA-ミナマタ-』(※7/10(日)後9:00、ほかリピート放送あり)

『少年の君』('19)

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宣伝の力がなくとも大ヒットした感動作

 中国において250億円近い興行収入をたたき出し、アカデミー賞をはじめ世界の映画祭で80以上ノミネート、うち50以上受賞を果たしたデレク・ツァン監督作。進学校に通う高校3年生のチェン・ニェン(チョウ・ドンユイ)は、クラスメイトがいじめを苦に自殺したことで新たな標的にされてしまう。仕事で家を空けがちな母親を頼ることもできず、日々いじめがエスカレートしていく中、下校途中にリンチされていたシャオベイ(イー・ヤンチェンシー)の窮地を救うチェン・ニェン。大学進学を目指す少女と、ストリートで生きる不良少年という境遇の異なる2人が、次第に惹かれ合っていく。

 ご存知の方も多いと思うが、中国の受験戦争は熾烈を極める。良い大学を出たかどうかで、その後の人生が大いに変わる。それゆえ、大きなプレッシャーが学生に襲いかかる。また、近年法整備が進められているようだが、中国におけるいじめやストリート・チルドレンの問題も深刻であり、本作には現実に起きているさまざまな諸問題が映し出されている。本作は諸般の事情により中国ではほとんど宣伝が行われぬまま上映されたようだが、たとえ宣伝の力がなくとも、本作はたくさんの人の心に届いた。それは、ツァン監督が『インファナル・アフェア』シリーズ('02~'03)などに出演する名優エリック・ツァンの息子である点や、「中国13億人の妹」ことチョウ・ドンユイと、国民的アイドル・グループTFBOYSのメンバーとして活躍するイー・ヤンチェンシーが主演を務めている点が大きい。それに加え、作品の力強いメッセージ性も相まって、宣伝ができないという逆境を撥ねのけ大ヒットへと至ったことは、本作をご覧いただければ納得できるはず。

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理不尽な現実に警鐘を鳴らす

 いじめが良くないことは、誰だって知っている。が、いつの世もなくならない。それは、集団主義がもたらす同調圧力であったり、自分より格下だと思える相手がいることで安堵できる人の弱さであったり、マイノリティを異端に感じ排除しようとしてしまう人の心に起因するところがあると思う。それが分かっていればこそ、明確な対策や解決方法を確立すべきなのだが、いまだ具体的かつ効果的な術は見出せない。というより、一体どれだけの人がそれらの問題に向き合っているだろうか。

 何事もそうだが、当事者にならない限り、人は無関心や傍観の姿勢に流されがちだ。あなたにも心当たりはないだろうか。僕も含め、そんな人が世の中の大半を占めている。結果、当事者や近しい者以外は、突き詰めて考えていないのではないだろうか。

 劇中冒頭において「was」と「use to be」の違いが語られるシーンがある。「だった」と「だったのに」。その微妙なニュアンスの違いこそ、本作における重要なファクターだ。同じ過去の出来事であったとしても、受け手によって捉え方は大いに異なる。過去にどんな悲惨な出来事があろうと、もう終わったことだと「was」で片付けられる人もいる。しかし、何かしらのシコリを残し、「use to be」のまま折り合いをつけられず苦しんでいる人もいる。果たして「was」で済ませて良いことなのか、どうしたら「use to be」から抜け出せるのか。理不尽な現実に直面しながらも、道を模索し続ける若き男女の姿を通し、無自覚でいた多くのことを自覚するキッカケを与えてくれる作品です。

『MINAMATA-ミナマタ-』('20)

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映画を通して“過去”を知り、“過去”と向き合う

 アメリカの写真家ユージン・スミスが1975年に発表した写真集「MINAMATA」にまつわるエピソードを題材に、ジョニー・デップが製作&主演を務めた実話ベースの物語。1971年、NY。アメリカを代表する写真家の一人と称えられながらも、酒に溺れ荒んだ生活を送るユージン・スミス(ジョニー・デップ)。そんな時、アイリーンと名乗る女性(美波)から、熊本県水俣市のチッソ工場が海に流す有害物質によって苦しむ人々を撮影してほしいと頼まれる。水銀に侵され歩くことも話すこともできない子供たち、激化する抗議運動、それを力で押さえつける工場側。そんな光景に驚きながらも、ユージンは冷静にシャッターを切り続けるが…。

 映画がもつ魅力とは何か。こと実話ベースの作品に関して言えば、観る者の心に及ぼす影響力、いや、浸透力の強さに尽きると僕は思う。実際に現実で起きているという圧倒的な説得力が、フィクションでは得難いプラスαをもたらしてくれる(無論、フィクションにはフィクションならではの持ち味がありますが)。過酷な受験戦争という現実の社会問題を背景にした『少年の君』を堪能していただいた後にご覧いただきたい本作は、“今”起きている出来事を描いた『少年の君』とは異なり、“過去”の出来事と向き合う時間をもたらしてくれる。そう、映画には“今”だけでなく“過去”の出来事を知る機会、忘れてはならないこと、後世に語り継いでいかなければならないことを橋渡しする力も備わっている。教科書を読んで知識として受け取るのと、映画のように、そこに感情が付随しているのとでは、受け取り方は大きく変わるはず。映画という人の心、そのエモーショナルな瞬間を描く芸術であればこそ得られるものが必ずある。それをこの2作品を通して感じ取ってほしいのです。

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映画の力がもたらす貴重な機会

「水俣病」が何のことであるかは知っているものの、僕自身、日常生活で自発的に水俣病について調べたり考えたりする機会は、おそらく学生時代の授業を最後になかったように思う。もう過ぎ去ったこと、終わりを迎えた出来事だとさえ思い込んでいた。だが、本作に巡り会えたことで、考えを改め、今一度水俣病と向き合うキッカケを得た。水俣病を題材とした本作の存在価値や意義、人の心や感情を通じて物事を語り継いでいく「映画」の力を思い知らされた。

 熊本と何の縁もなかったユージン・スミスが、日本の四大公害病の一つ、水俣病を巡る一連の抗議運動に深く関わっていた。日本人ではない彼が、日本の問題に真正面から対峙していたのである。半ば偶発的に水俣を訪れることになったとはいえ、スミスがどのようにして向き合い、苦しむ水俣の人々と関係を深めていったのか。主演のみならず製作まで務めたジョニー・デップが全身全霊で体現するスミスの姿を通して、その心の機微を、他人事から自分事へと切り替わるその瞬間を見ることができるでしょう。

 映画の楽しみ方は人それぞれ、作品の性質によって得られるものも異なってくる。ただ、一つだけ確かなことがあるとすれば、それが良い作品であった時、映画は僕たちの心を豊かにしてくれるということ。『少年の君』と『MINAMATA-ミナマタ-』、どちらも胸を締め付けられるものであふれていますが、そのキツさや息苦しさもとても価値あるもののはず。観て良かったと思っていただける作品になることを祈ります。ぜひセットでお楽しみください。

ミヤザキさんプロフ20210917~

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クレジット
『少年の君』:(C)2019 Shooting Pictures Ltd., China (Shenzhen) Wit Media. Co., Ltd., Tianjin XIRON Entertainment Co., Ltd., We Pictures Ltd., Kashi J.Q. Culture and Media Company Limited, The Alliance of Gods Pictures (Tianjin) Co., Ltd., Shanghai Alibaba Pictures Co., Ltd., Tianjin Maoyan Weying Media Co., Ltd., Lianray Pictures, Local Entertainment, Yunyan Pictures,Beijing Jin Yi Jia Yi Film Distribution Co., Ltd., Dadi Century (Beijing) Co., Ltd., Zhejiang Hengdian Films Co., Ltd., Fat Kids Production, Goodfellas Pictures Limited. ALL Rights reserved.
『MINAMATA-ミナマタ-』:(C)2020 MINAMATA FILM, LLC (C)Larry Horricks

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