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9月のWOWOW初放送映画 厳選3作品

 映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし!のはず...。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

今月は、海外映画祭受賞作、テロの脅威を描いた実話、大人気アニメ映画の3本を紹介します。

『ともしび』(‘17)

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「気分が落ちる映画を観たい」時に打ってつけ

 第74回ヴェネチア国際映画祭にて女優賞を受賞したシャーロット・ランプリング主演作。ある罪を犯した夫が収監されたことで、ひとりの生活を送ることになった老年の主婦アンナ。人生の終盤に差し掛かった女性の日常が徐々に崩れていく様を通し、孤独や哀しみ、人の心のもろさを描いた作品です。

 たまにこんな気持ちに駆られることはないだろうか。「気分が落ちる映画を観たい」。そんな時にオススメしたいのが、とにかく後味は最悪ながらも、映画としてのクオリティは非常に高い本作。常に淡々と物語が進んでいくため、ある程度映画慣れしていないと置いてきぼりを食らうかもしれないが、上手く糸口さえつかめたのなら、この作品に引きずり込まれてしまうはず。アンナのような存在が、僕たちが生きるこの現実にもいるのではないかと思えてくる。できることならそうなりたくはないものだが、いつの日か自分だって彼女と同じ道をたどりかねないと、一抹の不安さえ抱いてしまう。

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 自分が必要とされていないと感じた時に生じる深い哀しみや心の痛み。取り越し苦労の可能性も高いが、その手の感覚を味わった経験は誰にだってあると思う。ただ、アンナの年齢を考えれば、いくらでもあり得ることなのかもしれない。無条件で愛情を注いでくれる両親はもうおらず、(劇中において詳しく事情が説明されることはないが)自身の子どもとは疎遠。誰にも必要とされず、自らが必要としているものには触れられず、必要としてくれていた人には疑念を抱く。アンナにとって救いとなるものや心のより所となるものは何一つ存在しない。そんな彼女を目にするのがただただツラい。劇中の出来事はしょせん他人事だと済ませることもできるけど、アンナが直面する圧倒的孤独は、観る者の心の奥深くに何らかの楔を打ち込むことになるだろう。

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 ラストシーン、起きてほしくないことが起こりそうでひどく胸を締め付けられる。それは起きても起きなくても、同じくらい胸を締め付けられる。一体何のことを言っているのか分からないと思うが、ぜひご自分の目で確かめていただきたい。あれこそが人間なのだと、あの終わり方だからこそ意味があるのだと、納得がいくはずだから。


『ホテル・ムンバイ』(‘18)

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テロの恐怖を描くと同時に、他人を信じることの重要性を説く

 2008年に起きたムンバイ同時多発テロを描いた実話ベースの物語。テロリストによって占拠されたホテルから脱出しようとする人々を、デヴ・パテル、アーミー・ハマーら豪華俳優陣が熱演。テロの脅威がもたらす恐怖を通し、相互理解へと至れぬ現実社会と、より良き道を歩むこともできる人間の可能性を映し出す。

 2008年11月26~29日にかけて起きたムンバイ同時多発テロのことをあなたは覚えているだろうか。当時のニュースやネット記事など、知る手段はさまざまあると思うが、詳しいことを知らずともこの映画を観れば概要は把握できる。リアルな恐怖を、教訓を、メッセージを、面と向かって伝えられるかのごとく受け取ることができる。それこそが、実話を描いた作品の醍醐味。

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 イスラム過激派によって引き起こされたムンバイ同時多発テロの首謀者はいまだ捕まっておらず、事件の真相は明らかになっていないが、インドとパキスタンの対立の歴史が引き金になっていることだけは間違いない。他国の歴史や宗教上の問題ゆえに、僕たち日本人には理解し難い部分もあるかもしれないが、根っこをたどれば他者との間に生じる不和が元凶であることだけは分かると思う。そう、人間は基本的に分かり合えない。数多の制約が設けられているから平穏も築けているが、人は時代や価値観が異なれば、迷うことなく他者を殺めることもできてしまう。しかし、それだけが人の全てじゃない。人を信じることだってできる。その可能性があることを、本作はしっかりと描いている。

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 他人に無関心であっても平然と生きられる今のご時世では、相互理解を図ることは難しい。劇中同様、窮地に陥らない限り、他人に対して心の扉は開かれない。僕たちはより良き道を進むための準備ができていない。己自身で気付かぬ限り、その道は進めない。だけど、その足掛かりに本作はきっとなる。人がより良き道を歩むためのキッカケを、人には悪しき部分も間違いなく存在するが、気高く美しい部分も確かに存在しているのだということを示してくれる。混迷を極めるこの世の中ではあるが、ひとりひとりが信じて歩めば、より良き未来を呼び込むことだって可能なはずだ。


『空の青さを知る人よ』(‘19)

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過去と現在が交錯する人間模様に心をキュッと締め付けられる

 一大ブームを巻き起こした人気アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(’11~’13)を手掛けたアニメ制作チーム、超平和バスターズによるオリジナル劇場アニメ。埼玉県秩父市をモチーフにした町を舞台に、両親を亡くし姉のあかね(声・吉岡里帆)と暮らすあおい(若山詩音)と、あかねのかつての恋人で売れないギタリスト・慎之介(吉沢亮)と、突如現れた13年前の慎之介ことしんの(吉沢亮:2役)が織り成すちょっぴり不思議で切ない“二度目の初恋”を綴る。

 「あの花」「ここさけ(心が叫びたがってるんだ。)」と言われて何のことか分かる人ならば、間違いなくハマることのできる作品だが、何のことか分からず、アニメ作品に対して少なからず抵抗を抱いてしまう人ならば、だまされたと思って観てほしい。超平和バスターズが手掛ける作品は、10代ならではの繊細な葛藤、埋められない喪失感、拭えない後悔がとてもリアルに描かれており、そこに一つまみのファンタジーが加えられているのがお約束なのだが、本作に関しては高校生のあおいとは別に、31歳の姉や慎之介もメイン・キャラクターに据えられているため、より間口の広がった作品になっていると言ってもいい。また、過去と現在が交錯することで露わになっていく登場人物たちの本音や勇気が、あなたの心をキュッと締め付けることになるだろう。

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 人間、いつまでも子どものままではいられない。思い描いた夢を叶えられるのも、自らの意志を貫き通せるのも、心の純粋さをキープし続けられるのも、ほんの一握り。大半は現実を生きていくための器用さと引き換えに無数のものを失いながら、どうにか大人になっていく。諦めたり割り切ったりすることにも慣れ、むやみに人に期待することもやめ、身の丈に合った生き方や幸福を見据えて進んでいく。でも、それが悪いわけじゃない。自分にそう言い聞かせたいだけかもしれないが、これまでの日々も出会いも選択も間違いじゃない。後悔の類いはどこまで行っても付きまとうが、今を本気で生きている自覚があるのなら、何の問題もない。自覚がないなら色々考え直す必要はあるけれど、人生のあり方も幸福のあり方も人それぞれ。

 ただ、そんな風に考えるようになったのはいつからだろう。少なくとも、18歳の頃の自分は違っていた。何の根拠もなく、先述したことの多くを否定していたことだろう。しょせん無い物ねだりでしかないのだが、あの頃の自分にできなかったことを今の自分はできていても、あの頃の自分ができたことを今の自分はできない。どうしたって全ては手に入れられない。その上でどのように生きていくべきなのか。迷いながら、傷つきながら、傷つけながら、自分だけの答えをどうにか模索していく登場人物たちの姿が、たくさんの大切なことを示してくれると思います。そして、泣けます……。

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 観ると気分が落ちる映画、実話を描いた映画、泣けるアニメ映画と、それぞれにタイプの異なる3作品と共に、9月も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。

ミヤザキさんプロフ

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クレジット:
2017© Partner Media Investment - Left Field Ventures - Good Fortune Films
©2018 HOTEL MUMBAI PTY LTD, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, ADELAIDE FILM FESTIVAL AND SCREENWEST INC
©2019 SORAAO PROJECT

緊張しながら投稿しているので嬉しいです!ありがとうございます!
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