“明確な仕組み”がもたらす恐怖と、“えたいの知れない”恐怖――本当に怖いのはどっち? 『プラットフォーム』『ライトハウス』
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“明確な仕組み”がもたらす恐怖と、“えたいの知れない”恐怖――本当に怖いのはどっち? 『プラットフォーム』『ライトハウス』

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 映画アドバイザーのミヤザキタケルさんが、オススメの作品を1本ご紹介するのと同時に、その映画に合う作品をもう1本ご紹介する連載「シネマ・マリアージュ」。つまり<これを観てから、これを観るとさらに楽しめる>というコンセプトの下、組み合わせの良い2作品を皆さまにお届けさせていただきます! 今回は、スペインの新鋭監督による長編デビュー作『プラットフォーム』と、ロバート・パティンソンウィレム・デフォー共演の『ライトハウス』をマリアージュ。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

 階層によって優劣が決まり、厳しいルールの下で生存競争を強いられる『プラットフォーム』。2人の灯台守がイングランドの孤島で過ごすなかで、狂気へと立ち入らんとする『ライトハウス』。明確なルール設定が設けられた上で生じる恐怖と、理解の及ばぬえたいの知れない恐怖。異なるタイプの恐怖を宿した2作品をセットでご紹介します。

『プラットフォーム』(※5/26(木)前2:10、ほかリピート放送あり)
『ライトハウス』(※5/27(金)前0:50、ほかリピート放送あり)

『プラットフォーム』('19)

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明確なルールの下で繰り広げられる極限の生存競争

 スペインの新鋭、ガルデル・ガステル=ウルティアの長編初監督作で、第44回トロント国際映画祭ミッドナイトマッドネス部門で観客賞、第52回シッチェス・カタロニア国際映画祭ファンタスティック・コンペティション部門で最優秀作品賞を含む4部門を受賞した作品。部屋の中央に穴があり、上の階層から順に巨大な台座=プラットフォームに乗って食事が運ばれてくる塔のような建物の中で目を覚ましたゴレン(イバン・マサゲ)。彼はさまざまなルールの下、上の階からの残飯しか食せず、下の階であればあるほどに食事にありつくことができないという生存競争を強いられていく。社会や人間の悪しき一面をあぶり出すSFシチュエーション・スリラーだ。

 何百もの階層に分かれた穴のある建物で、各階層に住人が2人、食事はプラットフォームが自分の階層に降りてきた際の1日1回のみ。1カ月ごとに自分が過ごす階層がランダムで入れ替わり、外から何でも一つだけ持ち込むことができる。そんな複数のルールが設けられた状況で映し出される人間模様は、スタンフォード監獄実験を題材にしたオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督作『es[エス]』('01)や、ドラッグと酒でトランス状態となったダンサーたちの一夜を描くギャスパー・ノエ監督作『CLIMAX クライマックス』('18)など、人間の隠されていた一面が特定の状況下で浮き彫りになる作品を彷彿とさせる。

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映し出されるのは、僕たちが生きる現代社会そのもの

 本作があぶり出すのは、現実における格差社会がもたらす弊害であり、そこから容易に抜け出すことのできない僕たち人間のありよう。理想通りにはいかない現実や、社会の縮図そのもの。プラットフォームによって降りてくる食事をすべての階層の人々で分かち合うことができたのなら、不要ないら立ちも飢えも争いも生まれない。だが上にいる者、下にいる者、転落する者、三者の心が通じ合うことは難しい。上層へ登ることは物理的に困難であり、下層へ降りるのにも勇気や覚悟が伴う。そうして、同じ階層にいる者としかまともに関係を持たなくなっていく。それは、僕たちが生きるこの現実、日頃の他者や社会との関わり方においても、似たようなことが言えやしないだろうか。

 1カ月ごとに階層がランダムで入れ替わるため、それまでの自分とは異なる立場や状況を味わうことになる建物の住人たち。その経験が結果として、他者への歩み寄りを可能にすることもあれば、他者をさげすんだり拒絶したりもさせていく。下の者に歩み寄れても、上の者には歩み寄れない。逆もまたしかり。置かれている立場や状況次第で、良くも悪くも人は変化する。善き行ないや施しを受ければ、善き影響がもたらされることもあるが、悪しき行ないや仕打ちを受ければ、悪しき影響がもたらされることもある。努力なくして前者は起きにくく、放っておいても後者は起きる。そんな社会に僕たちは生きている。ゴレンが直面していく出来事の一つ一つが、その実感をあなたにもたらしてくれるに違いない。

 フィクションだと分かっていながらも、あまりにも現実社会と直結する事柄が多く、何とも言い難い気持ちに包まれる作品ですが、その上で僕たちはどう生きていくべきなのか、どうしたらより善き道を選択することができるのか。そういった思考にまで行き着かせてくれる作品でもあると思います。ゴレンが行き着く果てを、ご自身の目と心でお確かめください。

『ライトハウス』('19)

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えたいの知れぬ狂気と恐怖があなたを包む

 第72回カンヌ国際映画祭国際映画批評家連盟賞を受賞した、ロバート・エガース監督の長編第2作。1890年代、米ニューイングランドの孤島に灯台と島の管理のためやって来た2人の灯台守。4週間を共に過ごすことになったベテランのトーマス(ウィレム・デフォー)と新人のイーフレイム(ロバート・パティンソン)は、そりが合わずに初日から衝突を繰り返す。険悪な雰囲気が続く中、突然の嵐のせいで2人は島で孤立してしまうのだが…。

『プラットフォーム』とは打って変わって、本作には明確なルール設定もなければ、現代社会に対する問題提起のようなものが込められているわけでもない。2人の灯台守が繰り広げていく異質な人間模様が、あなたの心を未知の領域へといざない、息苦しい時間が続いていく。スタンダードサイズと呼ばれる通常よりも狭い画面サイズや、不安をあおる音楽、モノクロームの映像も相まって、その圧迫感や閉塞感は計り知れない。そこであなたに問いたいことがある。明確なシステムの上に成り立つ恐怖と、えたいの知れない恐怖、本当に恐ろしいのはどちらなのかと。『プラットフォーム』のように、ルールや構造を把握できても困難にあらがうためのすべを見いだせないが故に生じる明確な恐怖。『ライトハウス』のように、奇怪な現象や出来事にあふれ、何一つ状況を把握できぬまま、島で孤立状態に陥った男たちが徐々に狂気へと染まっていくさまから生じるえたいの知れない恐怖。性質の異なる恐怖を宿した両作を見比べることで、どちらが本当に恐ろしいのかを、ぜひ見極めてみていただきたい。

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狂気へと落ちていくさまを堪能する

 一体何を見せられたのか。底知れない恐怖にただ圧倒されたまま見終える人も中にはいるかもしれない。もちろんそれでも構わないのだが、えたいの知れないことばかりが起きる本作の中で、この点に注目してご覧になったら、より一層作品世界を堪能できるかもしれません。それは、イーフレイムが狂気の扉を明確に開いたのは一体どのタイミングだったのかという点。劇中においてその答えは明示されていないので、すべては観た人の感性や想像に委ねられるのだが、人魚の作り物を手にした時だったのか、酒を飲み始めたタイミングか、4週間の期日を超過してからか、はたまた、最初から狂っていたのか…。そんな思考を働かせながら、極限状態へと陥る灯台守たちの姿を目にしていけば、より深く作品世界へと没入し、生じる恐怖も倍増していくはず。

 安心してください。どんなに没入しても、110分たてば解放されます。出口の見えない泥沼の恐怖に足を踏み入れるのは大変恐ろしいことですが、本作は映画。必ず終わりが訪れます。狂気へと立ち入らんとする人間の姿を介して、その異質な世界を一時的に疑似体験できる。そんな体験ができるのも、映画ならではの面白さ。

 あらためて問います。明確な仕組みの上に成り立つ恐怖と、えたいの知れない恐怖。本当に恐ろしいのはどちらでしょう。異なる恐怖を宿した『プラットフォーム』と『ライトハウス』、ぜひセットでお楽しみください。

ミヤザキさんプロフ20210917~

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クレジット
『プラットフォーム』:(C)BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE
『ライトハウス』:(c) 2019 A24 Films LLC. All RIghts Reserved.

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