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挑戦を続けるドラマプロデューサー・岡野真紀子が語る、コロナ禍のエンタメ論

トップ俳優から著名監督、脚本家まで、臆することなく飛び込み、惹きつけ、味方にし、チャレンジに満ちた作品を生み出し続ける―。

WOWOWのドラマ制作部には、そんな女性プロデューサーがいます。
彼女は異例のスピードで数々の賞を受賞していて、ドラマ業界内でも知る人ぞ知る存在。

彼女がWOWOWに入社して初めて制作したドラマ、そのタイトルは「なぜ君は絶望と闘えたのか」。
当時はまだ結審もしていない光市母子殺害事件をテーマにした、重く、つらく、そして力強いこの作品を、初めての企画テーマに選び、ドラマ化にこぎつけることに成功。このドラマで彼女は28歳の若さで文化庁芸術祭の大賞を受賞することになります。

今回は、そんな彼女にインタビューを行い、仕事論、ドラマ論、そしてコロナ禍で抱える思いを縦横無尽に語ってもらいました。

取材・文=長谷川リョー @_ryh

誰一人「この撮影現場に行きたくない」と思う人を作らない

ーーまず、「そもそもドラマプロデューサーとは?」と直球の問いを投げかけてみたいのですが・・・。

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★★岡野真紀子 経歴★★
1982年生まれ。
ドラマ制作会社勤務を経て、2009年にWOWOWに入社。
以後、プロデューサーとして数々のドラマ制作に携わる。
主なプロデュース作品
■ドラマWスペシャル 倉本聰「學」
 アジア・テレビジョン・アワード2012 単発ドラマ・テレビ映画番組
 部門 最優秀賞
■ドラマWスペシャル 尾根のかなたに~父と息子の日航機墜落事故~
 ギャラクシー賞2012年10月度月間賞 ほか
■連続ドラマW「私という運命について」
 第31回 ATP賞テレビグランプリ2014 ドラマ部門 最優秀賞 ほか
■連続ドラマW 石つぶて ~外務省機密費を暴いた捜査二課の男たち~
 放送ウーマン賞2017 ほか
■連続ドラマW「坂の途中の家」■連続ドラマW「そして、生きる」
 令和元年度(第70回)芸術選奨放送部⾨⽂部科学⼤⾂新⼈賞

岡野:それぞれのやり方があると思いますが、私は企画をスタートさせるところから、お客さまに届けて、エゴサーチをし続けるまで。つまり、最初から最後までまったく欠けることなく見届けられる唯一の仕事がプロデューサーだと思っています。その意味で、すごくラッキーな人だと思います。自分の頭で想像したものが、だんだん映像になっていき、それがお客さまに届いていく様を唯一見届けられる幸せな仕事。

ただ同時に、一番「プロフェッショナルがない」ポジションだとも言える。カメラマンはカメラマンで、その技術を何十年も磨いてきているし、監督は演出を学んで、脚本家は脚本を学んでこられています。プロデューサーはやることの幅が広い分、自分のプロフェッショナルは実はそんなにないんです。だからこそ、人と人をつなぐプロフェッショナルでいないといけないと思っています。

私一人では演出はできないし、芝居や編集もできないけど、いいスタッフといいスタッフを結びつける接着剤になることはできる。それがプロデューサーの仕事のすべてだと思います。プロの人たちが集まれば自ずと作品はできていくので、現場で唯一いらない仕事がプロデューサーなのかもしれない。それでもスタッフを集めてくっつけたり、ときに喧嘩をしたらそれを解いたりするのが私たちの仕事に尽きるのだと思います。

ーー「接着剤になることはできる」とのことですが、プロデューサーとして多くのステークホルダーを取りまとめながら仕事を進めていく上で、大切にされていることは?

岡野:自分がアシスタントプロデューサーや助監督だったとき、「現場に行きたくないな」と思ったことが何度かあったんです。「あの人怖いし、怒られるの嫌だな」と。なので、今自分がプロデューサーになって目指しているのは、誰一人として「この現場に行きたくないな」と思う人を作らないこと。それが自分のモットーです。例えば、「岡野さんの現場に行ったら美味しいものが食べられる」と言われるのですが、私がシュークリームを差し入れすることで雰囲気が良くなるならそういうことでもいい。もちろん必要な怒鳴り声はありますが、必要以上に誰かが怒鳴ったりイラついたりしない現場にはしようとしています。その意味で、すごくコミュニケーションを取っている現場だと思う。

あとは、俳優部をむやみに崇め奉らないこと。あくまでも一つの部署として俳優部は俳優部、演出部は演出部と。例えば、今撮影している『コールドケース3 〜真実の扉〜』でもご飯のときはキャストとスタッフが一緒になっていて、分け隔てなくチームとして一緒に生きている。それが実は理想なのかなと思います。

作品づくりはまず、人の話を聞くところから

ーー仕事全体において一番大切にされていることは何でしょうか?

岡野:まず作品においては、自分が感動できるかどうかが全てです。自分がお客さまに届けるのを想像するとき、自分自身が感動できるかどうかで、やるかやらないかを決めています。それは自分の企画も、ご提案いただく企画も、泣けるポイントが自分の中になければ基本的には断るようにしています。自分の心が動かないものは、お客さまにも届かないと思いますし、あとで後悔する気がしているからです。

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岡野:仕事において大切にしていることですが、以前までは「八方美人」と言われていたのが、「百方美人」、今では「万方美人」と言われるようになって、どんどん進化している(笑)。カトリックの中学高校に通っていたので、シスターに「敵を愛しなさい」と言われて育ったこともあり、とにかく敵を作らないことをモットーに仕事をしています。なので、例えば「あの人が岡野さんのことを苦手と言っていたよ」と聞いたら、まずはその人から仲良くなれるように攻略しに行きますね。

ーーSNSでの評価はどの程度、参考にされていますか?

岡野:作品のエゴサーチはすごくします。毎日リアルタイムで、いまだに『五月の恋』を調べたりしています。それはもちろん褒められたいってこともあるんですが、ネガティブな意見も全部知りたい。

あとはスタッフに対しても同様です。シナリオが完成したとき、助手も含めてスタッフたちに「何か意見がある人は言って!!」と。大抵シナリオの打ち合わせは監督と脚本家とプロデューサーしかいないので、私たちが良いと思ったら決定稿になってしまうのですが、例えばカメラマンの助手の方が「あのシーン気になるんですよね」と思っていたとしても、言えなかったりするんです。そういった意見を事前に一通り聞いて、面白い意見が出れば、堂々とパクらせていただきます。

ーー企画を思いつくヒントについてもお伺いしたいです。日常のなかで「これをドラマにしたら面白そうだ」と発見するポイントはどこですか?

岡野:結構ありますよ。自分が知らないことを知っている人の話を聞くのがすごく好きなんです。『石つぶて』の原作者の清武英利さんや『なぜ君は絶望と闘えたのか』の原作者の門田隆将さんはお二方とも有名なジャーナリストなのですが、たまにお話を聞くだけで、「それドラマにしたい!!」と思うお話に出会うんです。自分の知らない世界を知っている方たちから、ヒントをもらうことがすごく多いかもしれません。

それはジャーナリストに限らずです。これまでにも、友人の旦那さんが弁護士で、「今どんな裁判をしているの?」と聞いていたら、そこのヒントが面白くて『罪人の嘘』を作ったり、たまたま出会った人の話が面白くて『モザイクジャパン』を作ったり。『そして、生きる』も脚本家の岡田惠和(※1)さんの息子さんが東日本大震災後、ボランティアに没頭していた、というお話を伺ったのが全ての発端で。話を伺ったらすごく面白くて、ドラマになっていきました。なので、会話から作っていくことが実は一番多い気がします。

※1 岡田惠和:繊細なタッチの物語世界とポジティブなキャラクター造形、会話劇で幅広いファン層を獲得。多彩な作風で連続ドラマを中心に、映画、舞台などの脚本を手がけている。近年の主な作品として、「最後から二番目の恋」(フジテレビ)、「泣くな、はらちゃん」(日本テレビ)、「この世界の片隅に」(TBS)、映画「いま、会いにゆきます」「世界から猫が消えたなら」「8年越しの花嫁 奇跡の実話」「雪の華」などがある。2019年7月には、銀杏BOYZの楽曲を元に原作・脚本を手掛けた映画「いちごの唄」が公開された。
https://ufocreators.com/creator/yoshikazu_okada/

ーー岡野さんは視聴者のことを「お客さま」と呼んでいるのが印象的なのですが、その背景にある思いをお教えください。

岡野:私はもともと地上波で仕事をしていたのですが、WOWOWに転職してきたとき、大先輩の青木泰憲(※2)さんに「WOWOWはペイチャンネルだから、前金をもらっているつもりで覚悟して作ってね」と言われたのが印象的で。観てもらわなきゃ意味がないし、それだけお金を払ってもらっている、というプレッシャーはすごいんだと気づかされました。「君たちが食べているロケ弁の一つ一つもお客さまからもらっている、という意識を持ちなさい」と言われたのが自分の中の軸になっています。

その裏側には、伝え続けないと、届け続けないと、(お客さまが)離れて行ってしまうのではないかという不安もある。なので、私は「視聴者」という言葉を全く使わなくなりました。なので、新しい商品をあの手この手でどうやって届けようか、とデパートのような気持ちになっていますね。

※2 青木泰憲:1999年にWOWOWに入社。WOWOWの社会派ドラマを数多く世に送り出してきたプロデューサー。主なプロデュース作品は、井上由美子さんが脚本を手がける『パンドラ』シリーズや、池井戸潤さん原作の初の連続ドラマ化作品として各賞に輝いた「空飛ぶタイヤ」、山崎豊子さんの傑作小説を初めてテレビドラマ化した『沈まぬ太陽』など。

発信したいテーマさえあれば、いくらでも届けられる方法はある

ーー『五月の恋』(※3)はコロナ禍の東京が舞台のリモート制作ドラマですが、コロナがエンターテインメントに与えた影響について岡野さんはどのように考えられていますか?

※3 『五月の恋』:吉田羊さんと大泉洋さんをW主演に迎え、リモートで制作したショート連続ドラマ。舞台は2020年5月の東京。ユキコ(吉田羊)とモトオ(大泉洋)は4年ほど前に離婚した元夫婦。慣れないリモートワークに奮闘していたモトオは、ひょんなことからユキコに間違い電話をしてしまう。
https://www.wowow.co.jp/drama/original/gogatsunokoi/

岡野:今回の『五月の恋』にしてもそうですが、コロナ禍を経験したときとしていないときでは、伝えるべきものや作るものが変わってくるかもとは感じました。私たちが考えて作ったものをお客さまに届けることが、どれほど責任あるものなのかを実感しました。なぜかといえば、私たちも今ニュースを観てすごく右往左往するし、いかに今観るものに影響されるのかを自粛期間中に感じたからです。1日を楽しく過ごせるのも過ごせないのも、観たもののパワーが影響したりしています。だからこそ、「中途半端なものを作れない」といった思いや、「今は嫌な思いや苦しい思いになるものを作るべきじゃないんじゃないか」と、テーマに対して考え直してしまいました。

ーー『五月の恋』を通じて新しく得られた考え方はありますか?

岡野:今回の『五月の恋』のようなリモートドラマが作れたとき、しっかりと自分がやりたいテーマさえ見つかっていれば作品は届けられるという実感を得ることができました。スタッフがたくさんいてエキストラが大勢いなければ成立しないとか、カメラが良いとか撮り方とかの問題ではない。今許される環境のなか、発信したいテーマさえあれば、いくらでも届けられる方法はあるのだと実感させてくれたのが『五月の恋』でした。

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Twitterを見ていると、「『五月の恋』を観て、元夫に連絡しました」とか「母親に電話しました」といったコメントが結構多かったんです。お客さまが『五月の恋』を観て「テレフォン(電話)」の重要性を感じてくれたんですね。まさにコロナ禍でしか届けられないテーマだったと思いますし、世の中の離婚した夫婦が「(関係を)修復できるかも?」とときめきを持ってくれたとしたら、それはそれでとても素敵なことだと思います。やはり私たちには常にその時代その時期に届けるべきテーマがあるのだと再認識できました。

もう一つ印象的だったのが、新型コロナウイルス感染症の影響で撮影を止めなくてはいけなくなったとき、スタッフの一人が私にこんなことを言ったんです。「車屋が車を作るのと、俺たち映像屋が映像を作るのは、何が違うんですか?なんで止めなきゃいけないんですか」と。そう言われたのが私にはすごく響きました。その言葉が自分のなかで『五月の恋』に結実し、発散できたことが自信につながりました。私たちはどんな状況であれ、映像を作り続けるのが使命なんだと。

ーーコロナ以前と以後では作るものが変わってきたとのお話でしたが、コロナ以降に挑戦してみたいと今現在考えられているものがあればお教えください。

岡野:今までは「会う」ことでしかシーンを作れないと思っていたんです。いつもドラマのシナリオを作るときは、登場人物たちがどうやったら偶然出会えるのかばかりを考えていた。それが『五月の恋』を通じて、会わなくてもドラマは作れると思ったんです。なので、登場人物同士が会わないなかで、つながっていく物語を作ってみたいと思いました。

あとは、全世界の人たちがこれほど同じ状況に直面していることはないと思うので、例えばブラジル、アメリカ、中国、日本にいる人をリモートでつないでドラマを作れると思っています。どこかの国に監督さえいれば、コロナ禍の世界を電話でつなぐ物語を作ってみたいです。


吉田羊さんからの1本の電話をきっかけにすべてが動き出した「2020年 五月の恋」。そんな制作の裏側をより詳しく語った後編の記事はこちら。
https://note.wowow.co.jp/n/nc3ba6d4fb932

▼「2020年 五月の恋」の作品詳細はこちら
https://www.wowow.co.jp/drama/original/gogatsunokoi/



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