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10月のWOWOW初放送映画 厳選3作品

 映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし!のはず...。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

 今月は、2019年に公開されたタイプの異なる3本の邦画作品を紹介します。

『カツベン!』(’19)

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今はもうなくなった活動弁士の世界

 『舞妓はレディ』(’14)以来5年ぶりとなる周防正行監督作。『愛がなんだ』(’18)、『窮鼠はチーズの夢を見る』(’19)など話題作への出演が続く成田凌を主演に迎え、しゃべりのスーパースター“活動弁士”に憧れる青年の奮闘劇を通し、いつの世も変わらぬ映画の魅力と、人の心の在り方を描いた作品です。

 映画にまだ音がなかった時代、上映中に物語の説明や解説、登場人物の声を当てていたのが活動弁士。各館に専属の活動弁士が付くようになり、「映画を観に行こう」ではなく、「○○弁士の説明を聴きに行こう」といった日本独特の映画観賞文化が発展し、大正末の活動写真全盛期には、8,000人近くの活動弁士が活躍したという。

 スター弁士ともなると、時の総理大臣と同等の年収を得ていたというから驚きだ。100年ほど前には当たり前のように存在していたものの、活動弁士は映画のトーキー化(現在の音付きの形態)に伴ってその役目を終えた。
つまり、今となっては知り得ない世界を本作において体験できる。知らないことを知る喜びを味わえる。それを描くのが周防監督なのだから、楽しめないはずがない!

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 活動弁士の魅力と並行して主人公、俊太郎(成田凌)を中心に人間模様が描かれる本作。基本的には笑えてドキドキハラハラもできて、最高に楽しめるのだが、そのドラマの根底に宿るのは人としてとても大事な心の在り方。

 人間誰しも過ちは犯す。その都度、痛い目に遭うなり償うなりして多くを学び、より良き道や正しい道を模索する。時に許されぬ罪というものもあるが、大抵のことならば乗り越えられる。

 とはいえ、世の中に嘘や理不尽は付き物。正直者が損をして、卑怯者が得をするなんてことがザラにある。きれい事と言われればそれまでだが、それでもやはり人は正しき道を歩んでいくべきである。

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 幼少期の俊太郎が万引きしたり、不本意ながらもニセ弁士として悪事の片棒を担がされたりするシーンがあるのだが、しっかりとけじめをつけた罪と、そうでない罪が描かれる。

 言うまでもないが、一つ一つケリをつけていかなければ、前へ進むことなど許されない。逃げたり目を背け続けたりしても、必ずどこかで対峙しなければならない時がやってくる。仮に目を背けたまま進むことができたとしても、絶えずその事実が胸をむしばみ続け、心が保たなくなる時がやってくる。

 青年が歩んでいく人生の道筋には、活動弁士の魅力と共に、しっかりと筋を通して生きていくことの大切さが示されている。


『MANRIKI』(’19)

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名作? 迷作? 観る者の心次第で変わる奇想天外な世界観

 俳優のみならず、「齊藤工」名義で監督やプロデューサーとしても活躍する斎藤工が、永野金子ノブアキ、映像作家の清水康彦と結成した映像クリエイティブ集団「チーム万力」による初の長編映画作品。

 さまざまなコンプレックスを抱えた人々と、謎の美しき整顔師の猟奇的哲学、そして彼の商売道具である万力によって、この世の中にはびこる数多のかせを、そのかせを断ち切るために必要な姿勢や願いを映し出す。

 「顔がでかい」というコンプレックスを抱き、仕事欲しさに小顔矯正を決意する駆け出しのファッション・モデル。そんな彼女の葛藤を軸に展開していく物語序盤。

 一見普通に見えるも独特の空気感をまとうその世界観は、フィクションのようでどこかノンフィクション。トリッキーな描写の数々にあなたは面食らってしまうかもしれないが、そこには誰もが共感し得るリアルが、世の中にはびこる悪しき風潮や風習が、抜け出すことのできないしがらみが見え隠れしてくることだろう。

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 いつの時代もその時々の流行や常識が存在するが、それらに従わなければならないというルールはない。であるにもかかわらず、僕たちはそれらのことに囚われてばかりいる。

 それはなぜか。皆がそれを善しとしているから。では、「皆」とは誰か。それは漠然とした「世間」。結局は大多数が善しとすることから外れてしまうことを恐れているにすぎない。

 けれど、それらに従ったとて上手くいく保証はどこにもない。そう、人生に絶対はないのだから。その上で、ありとあらゆるものに囚われてしまいがちな現代人に対し、本作はさまざまなアプローチで問いを投げ掛けてくる。
基本的に変化球ばかりなので困惑してしまうと思うが、心構え次第では打ち返しやすいストレートになる。その一球を捉えられた時、本作は観る者によって大いに化ける。

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 「万力」。それは既存のものを加工したり成形したりするために使う道具。腕力がなければネジを強く締められず、固定する際の力加減を見誤れば亀裂が生じ、一度加工すれば二度と元には戻せない。

 扱う者(物)次第で異なる結果を生み出すその在り方は、僕たち人間にもこの社会にも当てはまる。物事に向き合う際、半端な力では何も変えられず、状況を見極められぬ心では多くを見誤り、生半可な覚悟では変革が訪れた先の未来を真っ直ぐには歩めない。

 自らが身を置く現状の世界や環境において理不尽さや違和感を覚えている者ならば、それらと対峙する姿勢をわずかでも有している者ならば、見出すことのできる何かがきっとある。破壊と再生の中からしか生み出すことのできないものを模索する意義が垣間見えるはず。

 劇中の整顔師のように自己欲求や快楽に溺れればどうにもならないが、果たすべきことのため、より良き未来を呼び込むため、正しく力を行使することができたのなら、目の前の現実はガラッと形を変えていく。

 あなたの心は、この奇想天外な物語から何を汲み取ることができるだろう。


『初恋』(’19)

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三池崇史ワールド全開の極上ラブ・ストーリー

 ドラマ「ケータイ捜査官7」(’08)以来となる三池崇史監督×窪田正孝のタッグが実現し、カンヌ国際映画祭など世界各地の映画祭で注目を浴びたラブ・ストーリー。

 窪田演じる余命いくばくもないプロボクサー、レオが、ある少女モニカ(小西桜子)を助けたことから追われる身となり、ヤクザやチャイニーズ・マフィア、警察組織入り乱れての大騒動へと発展していく一晩の出来事を描いている。

 これから本作を観るあなたの楽しみを奪いたくないので、ストーリー展開やネタバレに直結しそうなことには触れたくないのだが、カタギvsヤクザvs中国マフィアvs警察の構図で繰り広げられていく一癖も二癖もある“ブツ”を巡る争奪戦は、大いに笑えることだろう。

 ただ、その笑いはコメディ作品だからというわけではなく、それぞれがそれぞれの目的を果たすために本気で生き、それぞれに抱く目的が衝突し合うからこそ生じるズレが笑いを生んでいるにすぎない。

 あくまでもタイトルが示す通りの物語であり、それがどんなにくだらなくてエゲツなくて反社会的な描写であったとしても、目の前のことに本気で向き合っている人間の姿は観る者の胸を打つ。その理は僕たちが生きる現実においても同じこと。

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 余命わずかとなりボクサーとしての道が絶たれたレオと、借金やドラッグのせいで先行きが見通せないモニカ。だが、道が途絶えたように思えても、生きる目的や希望を失ったとしても、そこで全てが終わるわけじゃない。

 一朝一夕でどうにかできることでもないが、目的も希望もまた探し出せば良いだけのこと。人生における選択肢は一つではないのだから。

 自らの内側ではなく外側に目を向けてみれば、可能性の片鱗はいくらでも転がっている。それらに気が付くためのきっかけが、2人にとっては互いの存在であり、予期せぬ事態に巻き込まれていく中で直面する数多の出来事。

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 レオは言う、「死んだ気になりゃ、やれるはず」と。諦めなければ夢は叶うとか言うつもりはないし、人生は時に非情であるけれど、どうあがいたところで叶わなかったり手が届かなかったりするものであふれているけれど、生きていくための理由や目的だけならば、誰もがきっと手に入れられる。

 怒濤の展開と笑いが続くのと並行して、誰もが直面する人生の問題が、死ぬ気で向き合うことさえできれば大抵のことは乗り越えられるのだという教訓が、骨太で壮大な人間ドラマが、圧倒的熱量をもって描かれていく。

 コンプライアンスが厳しい今の世の中で精一杯戦っており、かつてあった日本映画の良さを未来へ繋いでいこうとしている。そんな東映イズムに溢れた快(怪)作です。

 映画の歴史、映画の奥深さ、映画に宿る情熱。それぞれに異なる映画の良さや面白さを宿した3作品と共に、10月も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。

ミヤザキさんプロフ

▼作品詳細はこちら

クレジット:
©2019「カツベン!」製作委員会
©2019 MANRIKI Film Partners
©2020「初恋」製作委員会

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