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年末年始はこの映画で決まり! 自らの足で立つ勇気を与えてくれる感動の2作品

 映画アドバイザーのミヤザキタケルさんが、オススメの作品を1本ご紹介するのと同時に、その映画に合う作品をもう1本ご紹介する連載「シネマ・マリアージュ」。つまり<これを観てから、これを観るとさらに楽しめる>というコンセプトのもと、組み合わせの良い2作品を皆さまにお届けさせていただきます! 今回は、一見何のつながりも見えませんが、実は大事な部分で共通点を持つ『ジョジョ・ラビット』『男はつらいよ お帰り 寅さん』をマリアージュ。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

『ジョジョ・ラビット』(’19)

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勇気と狂気とユーモアをはらんだ戦争映画

 『マイティ・ソー バトルロイヤル』(’17)のタイカ・ワイティティ監督作。第2次世界大戦下のドイツで、空想上の友達であるヒトラーの助けを借りて立派な兵士になることを目指す10歳の少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイヴィス)が、母親と2人で暮らす自宅の隠し部屋に身を潜めていたユダヤ人の少女エルサ(トーマシン・マッケンジー)との出会いを機に、戦争の愚かしさや自分自身の弱さと向き合っていく。

 主人公の少年にしか見えない、空想上のヒトラーが登場する少し不思議な世界観。監督のワイティティ自身が演じるヒトラーのキャラクター性も相まって、穏やかかつコミカルにも思える時間が流れつつ、人の心を巧妙に支配する戦争の恐ろしさ、戦時下における人の心理状況なども、10歳の少年の視点を主軸にユーモアを交えながら描いていく本作。

 戦場での鬼気迫る殺し合いや、軍内部の体制、食糧難に苦しむ人々、戦争反対を掲げる者の勇姿など、戦争映画において目にしがちな要素は極力省かれており、少年にとって心の支えであるヒトラーとのやり取りや、少年の心に変化をもたらす少女とのやり取りに焦点が当てられる。

 そのため、エグさが伴う描写は控えめで、主人公と同じ10歳前後の子どもであっても、きっと本作の本質的なテーマを受け止め切れる作品になっている。少年少女にとって戦争と向き合うための“はじめの一歩”にもなり得ると思う。そういった意味でも、他の戦争映画とは一線を画する作品なのかもしれない。

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いつの世も、人の在り方までは変わらない

 生まれた時代は異なれど、戦国時代の武将も、中世の騎士も、ヒトラーのような独裁者も僕たちも、皆同じ人間。大虐殺を行なった人間と自分が同じ存在だとは思いたくもないが、同じ時代、同じ価値観、同じ状況下のもとで生きていたのなら、同じような行動を取っていたのかもしれない。

 令和の今を生きているから「戦争反対」と当たり前のように口にできるが、かつての時代を生きた人々より僕たちの方が優れているということは決してない。時代を問わず、人は自分より立場の弱い者や格下だと思える相手がいることで自尊心を保つことができるし、どんなに惨めで情けない状況だろうと、自分よりひどい状況に陥っている人を認識できれば安心もできる。

 ユダヤ人を忌み嫌い、自分たちより劣った人種であるとヒトラーが位置付けたことで、当時のドイツでは格下の相手(=ユダヤ人)が公のもとに生み出された。それが戦時中の人々にとってガス抜きになっていた部分もあるのだろう。

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 訓練でウサギを殺すことができず、「ジョジョ・ラビット」とばかにされようと、ナチスの象徴とも言うべき空想の友達がジョジョを励ましてくれる。自分より劣るユダヤ人がいることで多くをごまかせる。ヒトラーに植え付けられた固定観念が少年の心をいびつな方向へと差し向ける。

 だが、幸か不幸か、不慮の事故で重傷を負い、虐げられる側の気持ちを味わうことになったジョジョは、ユダヤ人の少女と出会い、植え付けられた価値観から徐々に解き放たれていく。他人を見下していたことの愚かしさを、対話なくして相手を理解することなど叶わないということを、他者を思いやる心の大切さを、葛藤しながら、涙を流しながら、周囲の大人たちに支えられながら学んでいく。

 そして、自身の弱さや脆さが生み出した幻影と決別する道を選んでいく。そんな少年の心の変化が、並行して描かれていく戦争の恐ろしさや愚かしさが、今ある自分を、この現実社会を見つめ直すきっかけを与えてくれる。


『男はつらいよ お帰り 寅さん』(’19)

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喜びと感動のシリーズ第50作

 かつて日本中を笑いと涙で包んだ渥美清主演の国民的映画「男はつらいよ」シリーズ。第1作の公開から50周年、22年ぶりとなるシリーズ50作目。成長し小説家になった満男(吉岡秀隆)や「くるまや」の面々の現在と過去を通し、渥美演じる寅さんの魅力や、脈々と受け継がれていく想いの重さを再認識させてくれる作品です。

 第2次世界大戦下のドイツが舞台の『ジョジョ・ラビット』と、葛飾柴又育ちの渡世人、車寅次郎が主人公の「男はつらいよ」シリーズに、一体どんなつながりがあるのか疑問だと思われるでしょうが、そのつながりとは、空想上のヒトラーを頼って生きるジョジョと、伯父である寅さんを頼って生きてきた満男にある。

 どんなに苦しい状況下でも、心の支えがあったからこそやって来られた。しかし、多くを経験する中でその支えを手放すときが訪れ、自らの足で目の前の壁に立ち向かうようになる。そんな2人のあり方が酷似しているのです。

 ただ、ジョジョとは違い、満男はもういい大人。であるにもかかわらず、劇中で「伯父さんがいてくれたら」と絶えず嘆き続けている。とはいえ、大人になっても支えを欲してしまう人間の心理は誰もが理解できると思う。だからこそ、『ジョジョ・ラビット』とはまた違った後味を、大人視点で描く物語だからこそ感じることができる。

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『男はつらいよ』初心者でも大丈夫!

 寅さんのおい、満男を主軸に物語が展開していくシリーズ50作目。この世を去った命もあれば、新たに生まれた命や途切れることのないつながりがそこにはあり、懐かしさと年月を経たからこその驚きを感じながら物語をかみしめられる。

 その合間合間にかつての名シーンが回想という形で盛り込まれ、彼ら家族の関係性や、寅さんという人物がどういった存在であったのかを紹介していく形式になっているため、「男はつらいよ」シリーズを観たことがない人であっても、寅さんの魅力に触れられる入門編としての役割も担っている。回想シーンを通して伝わってくる寅さんの人柄や魅力も相まって、本作をきっかけにかつての作品を観てみようと思う人もいるだろう。

自らの足で立つ勇気と覚悟

 寅さんの後押しで勇気を振り絞れていたかつての満男。今回もまた、幾多の壁に直面することになるのだが、そこに寅さんの姿はない。𠮟咤激励してくれる男気も、共に涙を流してくれるあの優しさももうない。

 だが、寅さんと過ごしてきた時間が、寅さんが掛けてくれた言葉の一つ一つが、満男の心には刻まれていた。それが支えとなり、既に彼自身の意志や行動理念として昇華され、満男は自分ひとりで勇気を振り絞れる男になっていた。託されたバトンやエールを無意識のうちに自分のものにできていた。

 子が親元を離れて旅立ち、一人前になるように、寅さんに頼らずとも生きていけるだけの自信や覚悟の種は既に心の中に植えられ育まれていた。その自覚が欠けていたからこそ右往左往してしまうのだが、劇中の出来事を経て、満男はその種を開花させていく。多くを経験し成長していく中で“決別”の道を選んだジョジョとは異なり、かつての支えを“道標”とすることで成長し自分の道を歩んでいく満男。

 似て非なる2人の道筋だが、向き合い方一つでいくらでも変わっていけることを、その可能性を僕たちに示してくれる。あなたは今、自らの足で立つことができているだろうか。自信をもって答えられないのであれば、この2作に触れてほしい。今すぐには無理でも、いつかきっとそのときは訪れる。その確信を持てるはずだから。

 年末の締めくくりに放送される『ジョジョ・ラビット』、新年の門出に放送される『男はつらいよ お帰り 寅さん』、ぜひセットでご覧ください。

ミヤザキさんプロフ

[放送情報]
ジョジョ・ラビット
12/27(日)よる9:00 WOWOWシネマ
12/31(木)よる6:50 WOWOWプライム ほか

男はつらいよ お帰り 寅さん
1/2(土)よる8:00 WOWOWシネマ
1/3(日)午後4:00 WOWOWプライム ほか

▼作品詳細はこちら

クレジット
『ジョジョ・ラビット』:© 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
『男はつらいよ お帰り 寅さん』:©2019松竹株式会社

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