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“今”この瞬間に宿る価値を知る。実話が示す他者とのつながりがもたらすもの

 映画アドバイザーのミヤザキタケルさんが、オススメの作品を1本ご紹介するのと同時に、その映画に合う作品をもう1本ご紹介する連載「シネマ・マリアージュ」。つまり<これを観てから、これを観るとさらに楽しめる>というコンセプトのもと、組み合わせの良い2作品を皆さまにお届けさせていただきます! 今回は、ともに実話をもとにした作品であり、他者とのつながりがあってこそ、生きていける日々があることを自覚させてくれる『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』『Fukushima 50』をマリアージュ。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』(’18)

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33年もの時間を一つのことに費やした男の夢と女の愛情

 フランスで重要建造物に指定される宮殿を、たったひとりで造り上げた男の半生を描いた実話ベースの物語。寡黙な郵便配達員のシュヴァル(ジャック・ガンブラン)は、配達先で夫を亡くした女性、フィロメーヌ(レティシア・カスタ)と運命の出会いを果たして娘を授かるも、子どもとの接し方が分からない。そんな折、奇妙な形の石に魅せられたシュヴァルは、娘のために世界に二つとない“おとぎの国の宮殿”を造ることを思い付くのだが...。33年もの歳月をかけて理想宮を完成させた男と、それを支えた妻の愛を通し、最良の理解者がいることで充実した人生を送ることができることを教えてくれる作品です。

“水”を通して描写する男の心模様

 本作を観るに当たり、劇中の“水”の描き方に注目してほしい。冒頭、道を歩くシュヴァルの姿と同時に、川面に映る彼の姿が映し出される。その時点で確信した。この作品は寡黙な男の内面を綴る物語なのだと。立て続けに水たまりに石が投げ込まれ、波紋が広がる。それはつまり、彼の揺れ動く心模様を描いていくことを予感させる。

 後に妻となるフィロメーヌとの出会いも、パン作りや宮殿造りも、死に匹敵するほどの絶望に直面した際も、常に何かしらの形でさまざまなシーンに水が関与し、いかようにも形や性質を変える水の在り方は、さまざまな感情をはらむ人の心の在り方とよく似ており、不器用で言葉足らずなシュヴァルに代わって多くのことを代弁してくれる。その辺りをうまく捉えることができたのなら、本作の面白さは何倍にも跳ね上がる。

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他者の支えがあってこそ切り開ける道がある

 家族・恋人・友人、誰にでもひとりは信頼できる人がいると思う。その相手との関係性について考えてみてほしい。何をもって“信頼”が成り立っていると判断できるだろう。言葉にせずとも理解してくれる。多くを伝えずともくみ取ってくれる。信頼し合っていることの一つの定義として、そういった側面があると思う。互いにそれができれば、長い年数をともにできるだけのかけがえのない存在になっていく。

 無論、時には衝突することもあるだろう。シュヴァルとフィロメーヌの場合もそう。でも、相手を理解しようとするフィロメーヌの姿勢はいつだって変わらない。シュヴァルの執念じみた行動の数々に疲弊もしていくが、常に根底には愛がある。理解し合うことを諦めない彼女とだから、シュヴァルは宮殿造りを続けられたはずだし、耐え難い現実をも乗り越えていった。重要建造物に指定されるだけの宮殿を造り上げたのは、間違いなくジョゼフ=フェルディナン・シュヴァルであるが、彼を理解し、支え、愛し抜いたフィロメーヌの存在なくして果たされなかったことだろう。

 言わなくても通じる、分かってもらえる。それが成立している間は良いが、その甘えやおごりが時に関係を破綻させてしまうこともある。本当に大事なことは声に出して伝えるべきだし、相手への感謝を決して忘れてはならない。信頼に値する相手と巡り会い、多くの助けや支えを得られるからこそ切り開ける道が人生にはきっとある。実話という絶大な説得力を持ち合わせた一例を目の当たりにすることで、大切な人たちとの関係性を見つめ直し、自らの実人生に多くの気付きをもたらしてくれることだろう。

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『Fukushima 50』(’20)

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もう10年、まだ10年、東日本大震災を描いた実話

 門田隆将のノンフィクション書籍「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」を、『沈まぬ太陽』(’09)、『空母いぶき』(’19)の若松節朗監督、佐藤浩市渡辺謙のW主演で映画化。東日本大震災発生直後、危険を顧みず福島第一原発にとどまった作業員や、奮闘した約50名の姿を通し、ニュースや新聞やネットでは知り得なかったあの日の真実を、今この瞬間の価値を映し出す。

 東日本大震災から間もなく10年の時がたつ。もう10年、まだ10年。人それぞれにあの日に対する想いも、向き合い方も、心や体に負った傷も、実生活に及んだ被害の程度も異なるため、うかつなことは言えない。でも、僕は本作を観ることができて良かったと思っている。

 物語冒頭からあの日を、あの日々を思い出してつらくもなるけれど、海外メディアが報じた「Fukushima 50」という名称にはいまだにピンとこないけれど、映画という作り物であるとはいえ、TVのニュースや新聞などでは知り得ぬ、あの場にいた人々の葛藤を目の当たりにできたことに価値があった。

 自然災害が引き起こした出来事とはいえ、電力会社の仕組みや政府の対策にも問題はあったのだろうが、あの日あの時あの場にあの人たちがいてくれたおかげで、あれ以上の大惨事には至らなかったのだということを、僕たちの“今”があるのは、あの人たちができ得る限りの責任を果たしたからなのだということを理解できた。

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すべての日本人が知るべきあの日の真実

 誰もが経験したことがないであろう未曽有の危機。マニュアル通りの対応ではうまくいかず、ネットで検索したところで答えも得られない。現場における独自の判断や決断を迫られる場面のオンパレード。たった一つのミスが命取りで、時間がたてばたつほどにリスクが増し被害も拡大していく。

 逃げ出した方が、投げ出してしまった方が、自分や自分の家族を優先して行動した方が楽な場面で、彼らはそれをしなかった。それは自分の仕事に責任や覚悟を持っていたから。一般に出てくる情報だけでは決して知り得ぬ生身の人間の感情や事実が、この作品にはたくさん秘められている。

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 『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』を通して、あなたは知る。身近にいる人たちの支えが自分を生かし、今在る現実を形作っていることを。そして、『Fukushima 50』において、縁も所縁もない見知らぬ他人でさえも自分を生かしているのだということを、誰もが生きるこの世界を形作っているのだということを実感する。

 常日頃、理屈では分かっていながらも、顔も名前も分からぬ他人に思いをはせることなどできないため実感を得難いが、少なくとも本作を目にしている間だけは実感できる。信頼に値する人も見知らぬ他人も突き詰めれば等価値であり、自分が生きていく上でなくてはならない存在なのだと痛感する。日常においてないがしろにしてしまいがちなこれらの感覚を味わわせてくれるのもまた、映画の価値であり、存在意義である。

 身近にいる人はもちろんのこと、見知らぬ他人との距離感にも影響をもたらしてくれるであろう2作品、ぜひセットでご覧ください。

ミヤザキさんプロフ

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クレジット
『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』:©2017 Fechner Films - Fechner BE - SND - Groupe M6 - FINACCURATE - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema
『Fukushima 50』:©2020『Fukushima 50』製作委員会

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