『ビューティフル・ボーイ(2018)』『甘いお酒でうがい』『ノマドランド』―10月のWOWOW初放送映画 厳選3作品
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『ビューティフル・ボーイ(2018)』『甘いお酒でうがい』『ノマドランド』―10月のWOWOW初放送映画 厳選3作品

 映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし! のはず...。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

 今月は、感動の実話、人気芸人が原作・脚本を手掛けた作品、世界で注目の監督作と、タイプの異なる3本の作品を紹介します。

『ビューティフル・ボーイ(2018)』('18)

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ドラッグに溺れる息子と、息子を信じ続けた父親の8年間

 ドラッグ依存症の息子と彼を支える父親の姿をつづったベストセラー回顧録を原作に、スティーヴ・カレルティモシー・シャラメが親子役で共演した人間ドラマ。将来を期待されながらも破滅の道を歩んでいく青年ニック(ティモシー・シャラメ)と、何度裏切られても息子を信じ続けるデヴィッド(スティーヴ・カレル)。8年にも及ぶ依存症克服までの親子の道のりを映し出す。

 ジョン・レノンが当時5歳の息子に捧げた楽曲「ビューティフル・ボーイ」の名を冠する本作。楽曲自体が物語とリンクしている部分もあり、劇中を彩る他の楽曲もまた、登場人物の心模様を表現するのに一役買っている。描かれるドラマも上質だが、ジョン・レノン、ニルヴァーナ、シガー・ロスなどの楽曲にもぜひ注目してご覧いただきたい。ちなみに、ジョン・レノン生前最後のロング・インタビューを担当したのが、フリーの音楽ライターであるニックの父、デヴィッド本人である。

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 ドラッグが蔓延まんえんしていないとされる日本においては、どこかリアリティを抱きにくい題材に感じられる人もいるかもしれないが、真に見据えるべきはそこではない。ドラッグに依存してしまう人の心の弱さやもろさ、金さえあればドラッグを手に入れられる環境への憤り、支えてくれる人の存在なくしては乗り越えられない依存症の恐怖。そして、親子の絆。時に道を踏み外してしまうことがある僕たちだからこそ、響き得るものが本作には宿っている。

 人の心が弱いからいけないのか、ドラッグがこの世に存在するからいけないのか。原因はどちらにもあると思う。仮にドラッグが簡単に入手できたのなら、依存症で苦しむ人が日本でもあふれるかもしれない。支えてくれる者の存在や揺るぎない愛情、己自身の確かな勇気がなければ、絶対に乗り越えられないだろう。ドラッグに溺れていく息子の悲しみと、それを支え続ける父親の愛情、2人が過ごした8年もの歳月が、そのことを教えてくれると思います。

『甘いお酒でうがい』('20)

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原作・脚本はキングオブコント王者のシソンヌじろう

 『勝手にふるえてろ』('17)、『私をくいとめて』('20)の大九明子監督と、松雪泰子主演でつづられる40代独身OLの517日の物語。自由気ままなお一人さまライフを送る派遣社員、川嶋佳子(松雪泰子)。毎日日記をつけ、同僚の若林ちゃん(黒木華)と過ごす時間に楽しみを見いだし、日々の中でささやかな変化を追い求めていた佳子であったが、ある日彼女に大きな変化が訪れる。それは、ふた回り年下の岡本くん(清水尋也)との恋だった。

 40代独身OLが抱える孤独・葛藤・喜びをとても繊細に捉えている本作。それは監督・俳優・スタッフの技量や情熱が結集されているからこそ成り立っているものだと思うが、本作の原作者であり映画の脚本も手掛けている人物の恩恵も大いに受けている。その人物とは、第7回キングオブコントで王者に輝いたお笑いコンビ、シソンヌじろう。彼がネタの中で演じる代表的キャラクター“川嶋佳子”が、もし日記を書いたらというコンセプトのもと執筆された小説を映画化したのが本作なのである。日頃お茶の間に笑いを届けているシソンヌしかご存じなければ、コントではなく真面目なドラマである本作に驚くこと間違いなし。そして、シソンヌじろうの才能はお笑いの世界だけにとどまらず、映画の世界でも輝いていることを思い知る。

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 あっと驚くような急展開も、とびっきりの非日常が訪れるわけでもない佳子の日常。そんな彼女の日々を目にしていくうちに、「あ~、あるある」「分かる」「まったく同じこと思った」など、チラホラ共感できる部分が顔を出す。一人の時間をもんもんと過ごしてきた経験がある人ならば、彼女の抱える飢えや渇き、喪失感にも近しい感覚に寄り添えるはず。たとえお一人さまを卒業済みの方であっても、身に覚えのある自問自答や、過ぎ去りし日々のアレコレ、払拭し難い記憶の数々が、佳子の姿を通して思い起こされることだろう。

 冒頭において、鏡に映る自分と周囲から見られている自分、そこに違いはあるだろうかと思いを巡らす佳子。それは、現状の自分に納得できておらず、より良い自分を追い求めている現われだとは思うが、どうあがいたところで現状の自分がすべて。何の努力もなしに人は変われないし、抱えた生きづらさも解消できない。今の自分を認めてあげることができたなら、人生に対する向き合い方は大きく変わるだろう。理想と現実のギャップを埋めていく過程であり、鏡に映る自分と周囲から見られている自分を合致させていくまでの心の揺らぎ。佳子が過ごす517日が、ありのままの自分を受け入れることの大切さを示してくれると思います。

『ノマドランド』('20)

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注目の新鋭監督、クロエ・ジャオ

 第77回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞、第45回トロント映画祭観客賞、さらには第93回アカデミー賞において作品賞・監督賞・主演女優賞の三冠に輝いたクロエ・ジャオ監督作。長年住み慣れた住居を失い、季節労働の現場をキャンピングカーで渡り歩く、60代の女性ファーン(フランシス・マクドーマンド)。ままならぬ日々の中で出会う現代の遊牧民=ノマドたちと交流を重ねながら旅を続けていく彼女であったが…。

 中国生まれ、イギリス育ち、現在はアメリカを拠点に活躍するクロエ・ジャオ監督の存在は映画ファンならご存じだろう。長編2作目となる『ザ・ライダー』('17)もまた、カンヌ国際映画祭をはじめ世界中で高い評価を獲得しており、2021年11月5日に日本公開されるマーベル・シネマティック・ユニバース最新作『エターナルズ』('21)の監督にも抜擢され、今後目が離せない監督の一人である。ロケ地に住む一般人を俳優として起用するなど、一貫して行なわれる彼女独自の撮影スタイルが面白い。あくまでも本作はノンフィクション本を原作とした物語なのだが、実在のノマドが本名のまま多数出演しており、ノマドたちの実社会にキャスト&スタッフが溶け込んでいく形で撮影が行なわれている。つまり、フィクションの世界でありながらも、ドキュメンタリーのようにもなっており、新たな映画体験へといざなってくれることだろう。

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「ノマド」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろう。日本におけるそれは、型に捕らわれない生き方としての意味合いが強く、人によってはクリエイティブな印象すら抱くかもしれない。しかし、本作のそれは違う。「遊牧民」を意味するその言葉が示すのは、家を持たず、季節労働の現場を転々とする人々のこと。ファーンのような状況と無縁の人は多いと思うが、年々経済格差は広まる一方で、2008年のリーマン・ショックに端を発する経済危機を背景とした本作が示すように、不測の事態に見舞われる可能性は誰にだってある。自分事とは思えずとも、他人事と割り切ることも難しい。どんな立場の者であろうと、住む家を失ったファーンの人間模様に引き込まれることだろう。

 差し伸べられた手や善意を、絶えず拒むファーン。その姿に疑問を抱く人もいると思う。その理由はやがて明らかになるが、仮に明かされずとも、彼女の人間模様を通して垣間見えてくるものがある。安息できる住まい、安定した仕事、安心できる人間関係などは、自らの手でつかみ取ってこそ意義がある。施しや手助けありきで築いたものでは、ささいなことで破綻するリスクが付きまとう。自らの意志や選択でこの人生を切り開いてこそ得られるものの価値をファーンは知っていた。自身の選択や生き方に「納得」できるかどうかはとても重要なこと。彼女の生き方を前にして、あなたの心は一体何を思うだろう。

 描き方は異なれど、現実に根差した問題と向き合う3作品とともに、10月も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。

ミヤザキさんプロフ20210917~

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クレジット
『ビューティフル・ボーイ(2018)』:(C)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC.
『甘いお酒でうがい』:(C)2019吉本興業
『ノマドランド』:(C) 2019 tbd, Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

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