外見から年齢を判断しない地平へ『Arc アーク』 #山崎ナオコーラによる線のない映画評
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外見から年齢を判断しない地平へ『Arc アーク』 #山崎ナオコーラによる線のない映画評

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 作家の山崎ナオコーラさんが綴る、映画をテーマにした連載エッセイ。今回は、作家ケン・リュウのSF短編小説を原作に、史上初めて不老不死となった女性が辿る心の旅路を描いた『Arc アーク』('21)について書き下ろしてもらいました。

(※初回放送 5/3(火・祝)後9:00)

文=山崎ナオコーラ @naocolayamazaki

 映画や小説は、時間を描く芸術だ。
 鑑賞者や読者は、始まりや終わりを感じて、「時間の流れ方って、こういう形にもなるのか!」と感動する。

Arc アーク』の原作は、中国系アメリカ人の作家ケン・リュウによる短編小説だ。
 ケン・リュウは今大人気のSF作家で、日本語に訳されている作品も多いため、読んだことのある人もいるだろう。
 原作はかなり短いので、石川慶監督は多くの変更を行なって映画化している。とはいえ、「不老不死が可能になった世界での、社会の分断や親子関係の変化が描かれる」という大筋は同じだ。
 ちなみに、アークというのは円弧のことで、生と死で円弧を描いて人生を完成させる、という現代人の人生観を示している。
 不老不死が可能な時代が来たら、その円弧はなくなる。人生の捉え方が今とはまったく異なっていくだろう。

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 昔のSF作品というものは「夢のような科学の発展!」といったところが描かれがちだったと思う。でも、最近のSFは、「科学に挑む!」というより「モラルに挑む!」、「技術はどうなる?」というより「文化はどうなる?」といったところが描かれているものが多くなってきているみたいだ。
『Arc アーク』でも、その時代が訪れたときの人生観は? 家族関係は? といった面を捉えて問題化している。
 不老不死が可能になっても、すべての人がそれを選択するわけではない。また、経済的な理由や、体質的な理由から、選択したくても選択できない人もいる。

 始まりや終わりを意識して生きる人たちと、意識せずにまっすぐな線を生き続ける人たち、2種類の人間は共存できるものなのだろうか?

 私自身は、周囲のみんなと一緒に1年、2年、と歳を取っているつもりで生きてきたので、なんとなく、不老不死を選んだ人たちを受け入れるのが難しいようにまずは感じた。もしも、未来に不老不死を選べるようになっても、自分は選ばないのではないか? そのとき、不老不死を選んだ人たちと仲良くできるだろうか? 家族内でも、それを選ぶか選ばないかは分かれるに違いないが、それでも家族関係を維持できるだろうか? どうも不安だ。

 けれども、よくよく考えてみれば、現代だって、様々な人間がいる。
 化粧や整形手術などで見た目を変えることが昔よりグッと簡単になってきていて、年齢から自由になっている外見やファッションを楽しんでいる人もいる。
 医学や健康意識も進んでいて、人によっては体つきも実年齢よりも下に見える。
 年齢に対する考え方は人によって大きく違っていて、思想や心も人それぞれだ。
 時間は平等に流れていく、と思い込んでいたけれども、本当は、人によって時間は違うふうに流れているのではないか?
 たぶん、私が思っている以上に、現代人だって、人それぞれ人生観は大きく異なっている。
 もしかしたら、今だって、始まりや終わりを意識しない生き方をしている人がいるかもしれない。
 作家としても、「小説や映画は、始まりと終わりを意識して当たり前」という考えは捨てなければならない。

 自分と他人の差を強く感じながら、共存していきたいものだ。

 それを、映画は考えさせてくれる。
 映像というものが面白いのは、すべての登場人物を、生身の人間が演じていることだ。
 人と人との差を、映し出す。

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 リナ(芳根京子)や天音(岡田将生)の整った顔立ちに圧倒されているところに、「普通の人」と思われる人々のインタビューの連なりが挿入されたり、寺島しのぶ小林薫風吹ジュン倍賞千恵子らベテランの俳優陣が画面に出てきたりすると、「あ、人生だ」「あ、時間だ」という、うわあ、っという胸に湧き上がるものがあった。
 やはり、小説とは違うものが、映画にはある。

 リナはボディワークスの仕事をしている。プラスティネーションという、死体をプラスティック化する技術によって、まるで芸術作品のように死体を保存していくのだ。
 そのときの、「死体」を、生身の俳優が演じていて、そこにもグッときた。この感じは、言葉だけの芸術である小説にはあまりない。
 親しい人が死んでしまったとき、死を受け入れられない。そのときに、「体だけでも……」と思う感じが、ひしひしと伝わってくる。

 その後、物語は死体の保存だけでなく、不老不死へ向かっていくのだが、そこで生じる、「不思議な年齢差」を、ぐわあっと感じ取ることができるのも、映像ならではだと思う。
 生身の俳優が、シワを浮かべながら表情を作っているのを見て、自分の心が動くのを感じ、「そうか、私は、外見で年齢を判断して、人と接してきたんだなあ」と省みることになった。
 私は、性差や年齢差からできるだけ自由になりたい、と思って生きてきた。そのはずなのに、映画を観ているときに、俳優の外見から感じられる年齢を意識しないで物語を追うことができなかった。
 外見にとらわれて、人を見て、社会を認識して、人生観を作ってきている部分が、私の中にある。
 外見によって、生に近い人と、死に近い人を分けて見ているところもあるかもしれない。

 外見から年齢を判断しない地平に自分も行けたらなあ、と思った。

 そして、一度だけでいいので、始まりも終わりもない世界に行ってみたい。

ナオコーラさんnoteプロフ220118~

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クレジット:(C)2021映画『Arc』製作委員会

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