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草野マサムネを撃ち抜いた一曲、スピッツの原点について〈特集:スピッツ、バンド史の行間にあるもの 第1回〉

音楽ナタリーとWOWOW公式noteが特集コラボ、スピッツ30年の軌跡を振り返る。現在、バンドの歩みを年表で振り返る記事を音楽ナタリーで掲載中。こちらnoteでは、その年表の‟行間“を綴った連動コラムを3回にわたりお届けします。

今回は年表の記事の中で記した一節、「初期はブルーハーツに影響を受けていた」という部分を紐解きます。

文=石井恵梨子(音楽ライター) @Ishiieriko

若き日の草野マサムネを撃ち抜いた一曲

 パンクに憧れながら、王道のロックやポップス、ハードロックにサイケデリックも好んでいた当時20歳の草野マサムネ。生粋のパンクスとして暴れるような衝動は持っていないと自覚しつつ、それでも何か尖ったもの、はみだした部分があるはずだという自負もあり、バンド活動にいそしむ日々。そんな彼を撃ち抜いた一曲が、ブルーハーツの「人にやさしく」でした。

 良質なメロディと日本語の歌詞を、激しいビートに乗せて歌うバンドが理想だと思っていたのに、その理想がすでにいる……。そう感じたマサムネはいったんバンド活動を辞め、音楽から離れようとさえ考えたそうです。しかしいざ決意しても、音楽が好きで、何かを表現をしたい気持ちが抑えられない。そんなふうに揺れる気持ちの中で新たに始まったのがスピッツだったのです。

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©ユニバーサルミュージック

 スタジオでの曲作り。口では「ブルーハーツみたいにならないように」と言いながら、どんどんブルーハーツのような音楽性になっていく。出演したライブハウスの店長からも「ブルーハーツの二番煎じ」と言われてしまう。今では想像もつかないですが、必死で自分たちらしさを模索したバンドの思春期と呼べる時期なのでしょう。

 打開策のヒントになったのはアコースティック・ギター。当時、ボーカリストがアコギを持っているバンドというのはほとんど例がなく、試しに持ってみれば声との相性もすこぶる良く、アコギのストロークに合う曲が次々と生まれていきます。普通のギターロックよりも柔らかに響くエレキ+アコギの組み合わせ。これは確かに、あまり例のないサウンドでした。事務所と契約を結ぶためのミーティングを交わした場所は南阿佐谷のデニーズ。ここから、スピッツの青年期は始まっていきます。

スピッツの原点

 パンクではないが、人とは違う、はみだしたものを持っていたい。そんなスピッツの原点は、オリジナルのスタイルを確立した後も続くことになります。

 たとえばコンサート。新宿ロフトでインディーズ時代を過ごし、デビューした後は日本青年館や渋谷公会堂に立ち、そのあとはステップアップして日本武道館を目指す。そんな常識が昔の音楽業界には根付いていましたが、スピッツはそのレールに乗るのを良しとしませんでした。デビュー後もあえて劇場をライブ会場に選んだり、大きなホール会場はなるべく避けようとしたり。もちろん、テレビに出ることも極力避けていたようです。

 のちに「ロビンソン」や「チェリー」のヒットで国民的バンドになるスピッツですが、テレビ露出のイメージがあまりないのは彼らのこのような原点に基づくものでしょう。バンドブームでデビューした同期のバンドたちが、テレビ出演で一気に消費され、飽きられていくのを見ていたことも大きいかもしれません。

 音は柔らかくポップでも、芯はちゃんとロックバンドでありたい。そして、いつだって少し尖っていたい。そんなスピッツイズムは、その後、30年も続くことになるのです。


■WOWOW公式noteで短期連載
<特集:スピッツ、バンド史の行間にあるもの>

今後の公開予定は下記の通りです。
第2回の記事はこちら
https://note.wowow.co.jp/n/n77e8b6d1d1d9
第3回の記事はこちら
https://note.wowow.co.jp/n/na3b6c5bccec9


■番組情報
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