人生のヒントが詰まった2作品。“今”を変えるために必要なものは何か――
見出し画像

人生のヒントが詰まった2作品。“今”を変えるために必要なものは何か――

 映画アドバイザーのミヤザキタケルさんが、オススメの作品を1本ご紹介するのと同時に、その映画に合う作品をもう1本ご紹介する連載「シネマ・マリアージュ」。つまり<これを観てから、これを観るとさらに楽しめる>というコンセプトのもと、組み合わせの良い2作品を皆さまにお届けします! 今回は、自分以外、誰もザ・ビートルズを知らない世界でチャンスをつかむ青年の姿を描いたファンタジー・コメディ『イエスタデイ』と、自らの過去と対峙した男が、今ある自分を見つめ直す人間ドラマ『ペイン・アンド・グローリー』をマリアージュ。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

『イエスタデイ』('19)

イエスタデイAカット

ビートルズの存在が消えた世界で唯一ビートルズを知る男

 『トレインスポッティング』('96)、『スラムドッグ$ミリオネア』('08)などで知られるダニー・ボイル監督作。ヒメーシュ・パテル演じる売れないミュージシャン、ジャックが夢を諦めたその夜、世界規模の大停電が発生し、彼は交通事故に遭う。彼が目を覚ますと、そこは自分以外誰もザ・ビートルズを知らない世界になっていた! ザ・ビートルズの楽曲を自作の楽曲として歌い、一躍スターダムへと駆け上がっていくジャックであったが…。

 老若男女世代を問わず、誰もが一度は耳にしたことがあるであろうザ・ビートルズとその楽曲たち。そんなザ・ビートルズの存在そのものがこの世から完全に消え去った世界で、自分だけが彼らのことを覚えており、楽曲の演奏&歌唱もできるという状況。「自分だったらどうするか」と考えずにはいられない魅力的な設定が目を引く本作ですが、見どころはそこだけではない。真の見どころとなるのは、それぞれが抱く“夢”との向き合い方。

他人は騙せても、自分だけは騙せない

 努力の末に夢を叶えられることもあれば、夢を軌道修正せざるを得ない状況に追い込まれることもある。ミュージシャンとしての成功を夢見ていたジャックの場合、まさに後者。そんな折に訪れた奇跡的な機会をフル活用することでメジャー・デビューを果たし、多くの機会・名声・富を得ていくことに。初めのうちは状況に翻弄されていく彼の姿と、ザ・ビートルズの存在が消えた世界が面白く描かれており、きっと楽しみながら見ていられる。けれど、そんな風に見ていられるのはおそらく途中まで。他力本願でつかみ取った成功と、本来思い描いていた夢との乖離が、次第にジャックの心をむしばみ、あなたの心にも影響を及ぼしていくだろう。

イエスタデイCカット

 ザ・ビートルズの楽曲でスターの座に上り詰めても、自らの努力や才能によってつかみ取ったものではないため、向けられた賞賛を受け止め切れない。他人は騙せても、自分は騙せない。嘘を自覚している以上、どこかで向き合わなければならない時がやってくる。ジャックにはザ・ビートルズの楽曲を楽譜なしで弾けるだけの確かな腕と歌唱力があり、それらは彼自身が培ってきた技術であり努力の賜物。彼が夢を叶えるためには、あと1ピースが欠けていた。その最後の1ピースをザ・ビートルズの存在がかりそめに担ってしまい、「ジャック」という名のパズルは一時の完成を迎える。が、本来のラスト1ピースは他にあったはず。

 高望みをして今の自分を認められないうちは、きっと多くのものを見落としている。高みを目指すことは決して悪いことではないが、そのせいで大切なものをないがしろにしてしまっているのなら本末転倒。何のため、誰のため、何を成すための夢なのか。一人の男に訪れたとても素敵なファンタジーを通し、今一度ザ・ビートルズの偉大さとともに、夢との向き合い方を見つめ直すキッカケを得られると思います。

『ペイン・アンド・グローリー』('19)

ペイン・アンド・グローリーAカット

名匠アルモドバル監督の自伝的作品

 『オール・アバウト・マイ・マザー』('99)、『ジュリエッタ』('16)などで知られるスペインの名匠、ペドロ・アルモドバル監督の自伝的作品。第72回カンヌ国際映画祭にて、長年彼とタッグを組むアントニオ・バンデラスが男優賞を受賞。
 体の不調により引退同然の生活を余儀なくされていた世界的映画監督、サルバドール(バンデラス)。ある日、32年前に撮った作品の上映依頼が届き、仲たがいしていた俳優アルベルト(アシエル・エチェアンディア)と再会を果たした彼は、閉ざしていた過去の記憶を徐々に開いていくことになるのだが…。

 『イエスタデイ』を観たのなら、大切なことであればあるほど付け焼き刃ではどうにもならないこと、今を根底から変えたいのであれば自身の奥底に秘められたものと向き合うしかないことを、痛感できると思う。閉ざしていた己の過去と向き合っていくサルバドールの姿は、『イエスタデイ』で痛感したそれらをより深く掘り下げたものとなっており、垣間見たドラマのさらにその先へとあなたの心を導いてくれることだろう。

過去に宿る“痛み”と“栄光”

 映画監督として成功を収めながらも、ある日を境に脊髄の痛みに悩まされ、4年前の母の死も受け入れられず、引退同然の生活を送っていたサルバドール。身体的な痛みであれ精神的な痛みであれ、痛みは人の心を縛り付けるもの。彼の心と体は自由でいられた時間、かつての栄光、つまりは過去に捕らわれ、今や未来を見据えることができなくなっていく。本作のタイトルが示す“痛み(ペイン)”と“栄光(グローリー)”、それは過去の忘れ難い出来事がもたらす“痛み”と過去の輝かしい出来事がもたらした“栄光”。過去に宿る多くの思いがサルバドールの中で渦巻き、心をきつく締め付ける。そんな中、閉ざしていた過去と徐々に真正面から向き合い、果てに彼が見出す答えや心持ちにこそ、本作の醍醐味が詰まっている。

ペイン・アンド・グローリーCカット

過去と向き合い、過去を受け入れる

 「過去と向き合い、過去を受け入れる」。言葉にするのはたやすいが、一朝一夕でどうにかできるものではない。アルベルトとサルバドールのように、向き合うためには、それ相応の理由や覚悟が必要になってくる。あなたにも何かしら思い当たることはないだろうか。サルバドールがたどる心の旅路を目にすれば、何かしらのヒントはつかめるはず。

 過去を過去のまま止めていれば、後悔や負い目も拭い切れない。止まっていた時計の針を動かすことができたのなら、きっと何かが変わってくる。己の心をむしばむ元凶は、果たして他の誰かにとっても苦い過去と化しているのだろうか。思い違いなだけで、後悔する必要のないことだって中にはあるのかもしれない。変化を迎えていくサルバドールの姿を通じて、後悔を後悔でなくしていくこと、過去を力に変えていけること、失ったものを嘆くのではなくかつて存在したことに喜びを抱くこと、それらの可能性が丁寧に示されていく。70代に突入し、円熟期を迎えたアルモドバル監督だからこそ描ける奥深い人間ドラマで、人生に宿る価値や素晴らしさを感じさせてくれると思います。

 ザ・ビートルズが消えた世界というユニークな魅力を放つファンタジーと、ある映画監督の過去と現在が織り成す重厚な人間ドラマを通し、真に向き合うべきものは、いつだって自分自身の中にあることを気付かせてくれる2作品。ぜひセットでご覧ください。

画像5

▼作品詳細はこちら

▼WOWOW公式noteでは、皆さんの新しい発見や作品との出会いにつながる情報を発信しています。ぜひフォローしてみてください。

クレジット
『イエスタデイ(2019)』:(c) 2019 Universal Studios. All Rights Reserved.
『ペイン・アンド・グローリー』:(C)El Deseo.

素敵なエンターテインメントの出会いがありますように!
WOWOW公式アカウントです。 noteでは、さまざまなエンターテインメントの魅力を丁寧に、時には“主観”を交えながら発信していきます。