日本の歴史的名作『東京物語』とアカデミー賞受賞作『ミナリ』に見る、いつの時代も変わらぬ家族のつながり
新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
新型コロナウイルス感染症やコロナワクチンについては、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
見出し画像

日本の歴史的名作『東京物語』とアカデミー賞受賞作『ミナリ』に見る、いつの時代も変わらぬ家族のつながり

WOWOW
 映画アドバイザーのミヤザキタケルさんが、オススメの作品を1本ご紹介するのと同時に、その映画に合う作品をもう1本ご紹介する連載「シネマ・マリアージュ」。つまり<これを観てから、これを観るとさらに楽しめる>というコンセプトのもと、組み合わせの良い2作品を皆さまにお届けします! 今回は、国内外で高く評価されている小津安二郎監督の名作『東京物語』と、第93回アカデミー賞においてユン・ヨジョンが助演女優賞を受賞したリー・アイザック・チョン監督作『ミナリ』をマリアージュ。

文=ミヤザキタケル @takeru0720

『東京物語』('53)

ph東京物語a

名匠・小津安二郎が描く、家族の果て

 黒澤明溝口健二と並び、世界的に高く評価されている名匠・小津安二郎監督の代表作。東京で暮らす子どもたちに会うべく、広島から上京してきた老夫婦・周吉(笠智衆)ととみ(東山千栄子)。医者の長男・幸一(山村聰)や、美容院を営む長女・志げ(杉村春子)の元を訪れるも、子どもたちはそれぞれに忙しく、まともに両親の相手をしていられない。そんな中、戦死した次男の妻・紀子(原節子)だけが、精一杯2人をもてなすのだが…。

 映画の世界に目覚めたのなら、やがてはたどり着くであろう(もしくは、避けては通れない)昭和の名作映画たち。古くさく感じたり、知っている俳優が出演していないといった理由から、興味を抱けず敬遠している人もいるかもしれない。そんな人にこそ、“家族”という普遍的なテーマを扱い、比較的入門しやすいであろう本作にぜひ触れていただきたい。コロナ禍の影響で気軽に帰省ができなくなったこんな時代だからこそ、離れて暮らす家族に対して、さまざまな想いを巡らせるきっかけを得られることだろう。

ph東京物語c

時の流れが変えていく家族のつながり

 家族と仲の良い人もいれば悪い人もいるため、“家族”に対する価値観や思い入れもまた人それぞれ。だが、親元を離れることでさまざまな変化が生じるのは、万人共通だろう。高校や大学の卒業、就職や結婚などを機に実家を出るケースが一般的かと思うが、離れて初めて気付ける親への感謝、日々生活していくことの険しさ、自らの家庭を築くことで理解が及ぶ親の苦労など、何かしら思い当たるものがあなたの中にもあると思う。ただ、本作で目にすることになるのは、そういった気付きや変化の果てにたどり着く一つの現実だ。

 家族に優劣を付けるというと聞こえは悪いが、離れて暮らす両親との関係と、自らが築いた家庭を維持させていく責任を比べたら、どうしたって優先順位は変わってくる。忙しい日々を送り、遠路はるばるやって来た両親を邪魔者かのように扱う幸一と志げの言動にいら立ちを覚える人もいるかもしれない。だが、一概に彼らを否定することもできやしない。また、否定できたとしても、その感覚が今後も変わらずに続いていくとは限らない。いずれ家庭を持てば自分もこうなるのだ、人間とはそういうものなのだと、劇中の家族たちの姿を目にしていく中で、さまざまな思いが駆け巡る。そんな葛藤を代弁するかかのごとく、次女の京子(香川京子)と紀子によって繰り広げられる終盤の会話は、深く心に染みるに違いない。

 時の流れがもたらす家族の関係性、その変化を、とても丁寧に、どこか物悲しく描いた本作は、あなたの心に一体どんな想いをもたらすことだろう。公開から70年近く経た作品ではありますが、色あせることのない人間ドラマがそこには宿っています。

『ミナリ』('20)

phミナリa

アカデミー賞6部門ノミネートを果たした家族の物語

 第36回サンダンス映画祭でグランプリと観客賞、第93回アカデミー賞では6部門にノミネートされ、ユン・ヨジョンが助演女優賞に輝いた作品。1983年、農業で成功することを夢見て妻子とともにアメリカ南部へ越して来た韓国系移民のジェイコブ(スティーヴン・ユァン)。妻のモニカ(ハン・イェリ)は荒れた土地と住まい代わりのトレーラーハウスに不安を抱くも、しっかり者の長女アン(ノエル・ケイト・チョー)と心臓を患う好奇心旺盛な弟のデビッド(アラン・キム)は、新しい土地に希望を見いだす。そこに毒舌で破天荒な祖母スンジャ(ユン・ヨジョン)も加わり、デビッドと一風変わった絆を結んでいくのだが、やがて一家に思いもしない事態が降り掛かり…。

 新進気鋭の映画制作スタジオA24と、ブラッド・ピットが2001年に設立した映画制作会社PLAN Bの強力タッグによって生み出された本作。監督を務めるのは、アメリカの映画メディア・インディワイヤーにおいて2020年に「今年最高の監督10人」にも選出されたリー・アイザック・チョン。彼の幼少期における体験を織り交ぜた半自伝的作品でもある本作は、世界各国の映画祭で受賞を重ね、「韓国のメリル・ストリープ」ともいわれるユン・ヨジョンはオスカーにも輝き、彼女のユーモアあふれる受賞スピーチは話題を呼んだ。

phミナリc

過ぎ去りし日々に宿る家族のつながり

『東京物語』を通して突き付けられる一つの現実。それを目の当たりにした直後にご覧いただきたい本作は、ある韓国系一家の姿を通して、在りし日の家族の時間を呼び起こす。同時に、子ども時代では理解が及ばなかった両親の苦悩や苦労にも触れ、違った角度から“家族”を考えるきっかけを与えてくれることだろう。本作のタイトルになっている「ミナリ」とは、日本では春の七草の一つ「セリ」のことであり、たくましく地に根を張り、2度目の旬が最もおいしいことから、子ども世代の幸せのために、親の世代が懸命に生きるという意味が込められている。そして、本作で目にするような家族の時間を経て、今この瞬間があるのだと、たどり着く果てが仮に『東京物語』のようなものであろうとも、悲観的になるのではなく、そこへ至るまでの過程にあった時間や幸福を、強く実感させてくれるはず。

 移民、宗教、アメリカン・ドリームなど、人によってはリアリティを抱きづらい要素や葛藤もあるかもしれないが、たとえそれらを的確に捉え切れずとも問題はない。物語の軸が“家族”である以上、共感できる部分や胸打たれる部分は大いにある。時の流れや環境の変化に伴い、風化したり失われたりする想いや記憶があることは否めないが、こういった作品に触れて刺激されることで、ふと過去の記憶や感覚が呼び起こされることが往々にしてある。それもまた映画の魅力の一つであり、その魅力が本作には存分に宿っています。

 往年の名作『東京物語』と近年の話題作である『ミナリ』。いつの時代、どの国の作品であろうと、“家族”というものの重みは変わらず、そこに宿るドラマはいつまでも色あせない。あなたにとっての“家族”を見つめ直すきっかけを与えてくれるであろう2作品。ぜひセットでお楽しみください。

ミヤザキさんプロフ20210917~

▼作品詳細はこちら

▼WOWOW公式noteでは、皆さんの新しい発見や作品との出会いにつながる情報を発信しています。ぜひフォローしてみてください。

クレジット
『東京物語』:(C)1953/2017 松竹株式会社
『ミナリ』:(C) 2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.

この記事が参加している募集

私のイチオシ

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!
素敵なエンターテインメントの出会いがありますように!
WOWOW
WOWOW公式アカウントです。 noteでは、さまざまなエンターテインメントの魅力を丁寧に、時には“主観”を交えながら発信していきます。