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【早川書房×WOWOW note特別コラボ企画】世界的ベストセラーSF小説「三体」のドラマ版をWOWOWで日本初放送! 原作翻訳者・大森望がその魅力を語る

「SF界のノーベル文学賞」といわれるヒューゴー賞の長編部門をアジア圏作品として初受賞。世界累計発行部数2,900万部超え、20カ国以上の言語で翻訳された世界的大ベストセラーである「三体」(早川書房刊)。そのドラマ化作品(テンセント版)が10月7日(土)より、WOWOWで日本初放送される。その放送に先駆け、今回【早川書房×WOWOW note特別コラボ企画】として原作の翻訳者である大森望さんにインタビューを実施!
 コラボ第一弾として、大森さんに原作の翻訳者という視点からドラマ版の魅力について語ってもらった。
※この記事は【早川書房×WOWOW note特別コラボ企画】の第一弾として、10月7日に早川書房のnoteに掲載された記事を転載したものです。

▼【早川書房×WOWOW note特別コラボ企画】第二弾、第三弾はこちら!
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SF超大作『三体』」あらすじ
 2007年、北京オリンピック開催間近の中国。ナノ素材(マテリアル)の研究者・汪淼 ワン・ミャオは、突然訪ねてきた警官・史強シー・チアンによって正体不明の秘密会議に招集される。そこで、世界各地で相次ぐ科学者の自殺と、知り合いの女性物理学者の死を知らされた汪淼。一連の自殺の陰に潜む学術組織“科学境界(フロンティア)”への潜入を依頼された彼は、科学境界の主を探るべく、史強とともに異星が舞台のVRゲーム「三体」の世界に入る。しかしそこにはある秘密が…。

大森望(おおもり のぞみ) 翻訳家・書評家
1961年生まれ、京都大学文学部卒。SF作品を中心とした翻訳・評論を長く手掛ける。訳書に『クロストーク』(コニー・ウィリス著、早川書房)、著書に『21 世紀SF1000』(同社) など多数。


テンセント版ドラマ制作の裏には相当なプレッシャーが……!?

──テンセントがドラマ化すると知って、どう思いましたか?

 中国のインターネット大手のテンセントがドラマ版を制作すると聞いて、これは大変なことになるだろうなと思いましたね。何せヒューゴー賞受賞を果たした「三体」の世界的大ヒットは、日本で言えば村上春樹がノーベル賞を取ったくらいの大事件です。そんなコンテンツを自国でドラマ化するとなれば、プレッシャーも相当なはずです。

 実は、「三体」のマルチメディア化の取り組みは、このドラマが初めてではないんです。映画版は完成までこぎ着けたもののお蔵入りになっています。だからこそ「今回は失敗できない」という思いがあったはずです。テンセント版のドラマの少し前には、中国の動画サービスbilibiliで3Dアニメ版の配信もスタート。こちらもすごく期待されてたんですが、原作とは異なる部分が多く、キャラクターの描き方にも問題があると原作ファンから酷評の嵐で…。一方で、Netflix版ドラマの制作も進んでいましたから、「自国で実写ドラマを作るからには負けられない!」という意地もあったことでしょう。

 中国のSF映像産業でいえば、2019年に「三体」と同じ劉慈欣 りゅうじきんの小説が原作の映画『流転の地球』が大ヒットし、中国の歴代興行収入第4位になるという大成功を収め、中国映画史上初のSFブロックバスター映画となりました。それまでは、SF映画はハリウッドにかなわないし、アニメ映画は日本にはかなわないと、ある種のコンプレックスを抱いていたところがあったと思いますが、『流転の地球』の成功は中国映像産業に自信をもたらしました。これからもっと中国SFを盛り上げていこうという気運の中、ドラマで失敗するわけにはいきませんよね。見守るこちらも、ドラマの配信が始まるまでハラハラドキドキでした(笑)

ドラマならではのシーンの数々、過去パートの映像表現は必見!

──実際にドラマを見た感想を教えてください

 今回、WOWOWで放送されるテンセント版のドラマは全30話。原作のエピソードを忠実に盛り込みながら、最初はゆったりとしたペースで進んでいきます。見始めたばかりの頃は「この調子で大丈夫か!?」と思いましたが、見進むうちにハマっていくんですよね。5話あたりになると、主人公の汪淼 ワン・ミャオと警官・史強シー・チアン の関係性が変わってブロマンス的な要素も出てきて一段と面白くなります。

 そんなドラマ版の見どころは、全30話だからこそ描ける原作にはないオリジナルシーンの数々ですね。見せ場の一つであるVRゲーム「三体」のシーンにも、原作にないスペクタクルが存分に盛り込まれていて見応え十分です。「どうして原作のココを使ってくれなかったのか」と言いたくなる部分がある一方、原作では省略されているところが丁寧に補われているので、ドラマ版では分かりやすさが増している面があります。たとえば、原作では息子として描かれる汪淼の息子・豆豆ドウドウ を、ドラマ版では娘に置き換えてたびたび登場させることで、汪淼の一人の父親としての顔がより印象深くなっています。かわいらしい豆豆と汪淼のちょっぴりコミカルなやり取りは、視聴者の箸休めにもなると思います。

 また、サスペンス色が強まっているところもドラマ版の魅力ですね。小説では文化大革命の時代を描く過去パートから始まりますが、ドラマ版は女性物理学者の自殺について描く現代パートからスタート。犯罪捜査モノを見ているような感覚でスッと入り込めます。原作では説明が省略されている部分を膨らませることで、サスペンス色を強める演出も効果を発揮しています。

 たとえば、史強の部下として作戦センターに配属される徐冰冰 シュー・ビンビンというキャラクターは原作の設定をベースに大胆に脚色されていて、そんな彼女と史強、汪淼が3人で捜査状況を整理するシーンは刑事ドラマのようです。捜査会議が開かれると、情報が整理されるので、視聴者にとってはわかりやすくなるメリットもありますね。

 そして、過去パートの表現は、完璧なキャスティングはもちろんのこと、当時の中国の雰囲気が感じられる映像美がとにかく見事です。美術センスが素晴らしい! 2023年の上海テレビ祭マグノリア(白玉蘭)賞で最優秀美術賞を受賞しただけのことはあります。開業前の博物館を徴収したという作戦センターの本拠地のセットなんかも気が利いていますよね。

ドラマ版で見えてくるキャラクターの新たな魅力

──お気に入りのキャラクターを教えてください

 特に好きなキャラクターは天体物理学者の葉文潔イエ・ウェンジエ ですね。さまざまな顔を持つ深みのある女性キャラクターです。ダイバーシティの重要性が叫ばれる中、「三体」における女性の描き方には若干の問題があるんじゃないかと言われがちですが、葉文潔には、それらの批判を一気に吹き飛ばすような存在感がある。原作のイメージを見事に再現した、見る者を引き込むチェン・ジンの演技にも魅了されました。

 原作でも大人気の史強は、ますます愛着の湧くキャラクターに仕上がっています。汪淼とのブロマンス的な見どころもドラマ版のほうが多いですね。きっと、史強と汪淼が食事するシーンを見るだけで胸が熱くなるはずです(笑)。 原作にはまったく出てこない場面ですが、史強が汪淼の娘・豆豆と絡むコミカルなシーンも大好きですね。

 一方で、ドラマの汪淼は原作より少し神経質に見えるかなと思ったのですが、見ているうちになじんできます。史強の上司の常偉思 チャン・ウェイスーもドラマの中で“顔”を手にしたことで、より魅力が増していますし、それぞれのキャラクターが見事にドラマの中にハマっているところがスゴいです。

 また、ドラマ版にはジャーナリストの慕星 ムー・シンといったオリジナルキャラクターも登場します。ドラマだから女性キャラクターをもう少し増やさないと……という事情があったのかも。劉慈欣の小説には、登場人物が男性ばかりという戦争モノや軍事モノがたくさんありますが、英訳版だと一部の男性のキャラクターが女性に置き換えられたりしている。それに限らず、往年の名作SFが映像化される際に主人公が男性から女性になったり、女性の登場人物が増えたりすることはよくあります。「三体」も男性のキャラクターが多い作品ですから、女性の新キャラクターを加えたり、既存の女性キャラクターの出番を増やしたりしてバランスを取ったことにより、現代のドラマらしくまとまっているような気がします。

SFファンならずとも、サスペンス好きにもオススメ!
ドラマの続編にも期待

──テンセント版ドラマの魅力とは?

 テンセント版「三体」の良さは、原作で取り上げなかった部分を丁寧に描いているところにあります。活字として書かれていない部分や映像化が難しそうな部分も、きちんと拾い上げているところがすばらしい。
 一方、後発のNetflix版についてはスポット映像を見ただけで詳細はよく分かりませんが、テンセント版よりももっと大胆に、派手に脚色されているんじゃないかなという印象です。

 いずれにせよ、全30話というスケールで描かれるテンセント版「三体」は、SFでありながらサスペンスとしても楽しめるエンターテインメントとして見事に完成されています。SFファンならずとも楽しめること必至です!

 主人公の身近なところで事件が起き、それを調べていくうちに巨大な陰謀にぶち当たるという展開は、まるで海外ドラマのよう。原作小説も、前半については、読み始めた人が「全然SFにならないんだけど?」と言い出すほどSF色は控えめで、ストーリーは徐々に盛り上がりを見せながら真相へと近づいていきます。その雰囲気が忠実に再現されていますね。サスペンス色だけでなくホラー色もあり、捜査ドラマ、ヒューマンドラマとしても楽しめる要素もあって、見ているうちにどんどんハマって、続きが見たくてたまらなくなるはずです。

 すでに続編の制作も決定しているということなので、そちらも今から配信が楽しみですね。第二部以降は第一部に比べてドラマ化が難しい部分が増えていくので、CGを含め映像的にどこまで表現できるか期待が膨らみます。…が、まずはその前に、WOWOWで放送・配信される全30話を、ぜひお楽しみください。

■番組情報
・「SF超大作『三体』」(全30話)
[WOWOWプライム]で、3カ月連続放送!
10月7日(土)、8日(日)後0:00から第1話~第10話放送(各日5話ずつ)
11月4日(土)、5日(日)午後0:00から第11話~20話放送
12月9日(土)、10日(日)午後0:00から第21話~30話放送
[WOWOWオンデマンド]で配信
第1話は無料放送・放送後WOWOWオンデマンドで1週間無料配信

※第11話以降は11月以降に放送・配信

・「『三体』完全ガイド 【みどころ編】」
WOWOW公式YouTubeでも配信中


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クレジット「SF超大作『三体』 」:(c) TENCENT TECHNOLOGY BEIJING CO., LTD.

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