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綾瀬はるかに宿る、観る者を惹き付ける“エンタメ性”を1本のアクション作品から紐解く

映画ライターSYOさんによる連載「 #やさしい映画論 」。SYOさんならではの「優しい」目線で誰が読んでも心地よい「易しい」コラム。今回は『リボルバー・リリー』(’23)で、すご腕の殺し屋を演じた綾瀬はるかが醸し出すエンターテインメント性を紐解いていきます。
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文=SYO @SyoCinema

 国民的女優、綾瀬はるか
 彼女には、どの作品で出会うかで、こちらのイメージが変わるところがある。映画『ハッピーフライト』(’08)、『おっぱいバレー』(’09)、ドラマ「ホタルノヒカリ」(’07)、「義母と娘のブルース」(’18)などだったらコメディエンヌだろうし、「八重の桜」(’13)、「JIN-仁-」(’09)、『レジェンド&バタフライ』(’23)ほか時代劇でのイメージもあるだろう。また、「世界の中心で、愛をさけぶ」(’04)、「白夜行」(’06)、「わたしを離さないで」(’16)、「あなたのそばで明日が笑う」(’21)といったドラマではシリアスな役も演じている。作品のテイストに合わせて、キャラクター性の強い作品では大きめな「動」の演技で、『海街diary』( ‘15)のような作品では繊細な「静」の演技で応えてきた。

 そのため、一言で称することは難しいものの、一つ共通するのは“際立つ存在感“だ。綾瀬はるかという俳優は、画面でどうしようもなく目立つのだ。それは彼女の特質であり、天性のオーラともいえる。僕が初めて彼女の作品をしっかりと観たのは「世界の中心で、愛をさけぶ」だったが、透明感と芯の強さ、確かな演技はいまだ脳裏に焼き付いているほど。綾瀬の姿をスクリーンで観たくて、同年公開の映画『雨鱒の川』(’04)に足を運んだ覚えがある。

 とはいえ「存在感」という言葉は、その名の通り不定形でともすれば具体性がなく、やや乱暴だ。もう少々具体的に言語化できないか――と改めて思索を進め、行きついた言葉が「エンタメ性」だった。これまでのキャリアで多岐にわたるテイスト、ジャンルの作品に出演し、それぞれの物語に染まりながら、どの世界でも“個”が立っている。つまり綾瀬はるかの演技、そして存在自体には観る者の好奇心をかき立て、画面に惹き付ける力――エンタメ性が宿っているのだ。

 そのことを再認識させたのが、身体の躍動で魅せるアクション作品。『ICHI』(’08)、「精霊の守り人」(’16)、「奥様は、取り扱い注意」(’17)、『レジェンド&バタフライ』などなど、現代劇/時代劇を問わずキレのあるアクションもまた、綾瀬はるかの大きな武器だ。剣術、拳闘、ガンアクションと多彩で、そこに「盲目の演技」、「(丈の長い)着物で動く」、「バトルになると豹変する」といった要素を追加した状態で魅せ切る表現力。画面に映る彼女そのものが一大エンターテインメントであればこそ、その華麗な一挙手一投足がとかく映える。その系譜にあるのが、1924年帝都、東京を舞台に暗躍する元凄腕スパイを演じた『リボルバー・リリー』だ。

 本作で綾瀬が演じた小曾根百合/リボルバー・リリーは、任務で各国の要人57人を殺害したといわれる人物。その異名通り、拳銃「S&W M1917 リボルバー」の使い手であり、劇中でも流麗な銃さばきを見せつける。早撃ちの機敏なモーションも、照準を合わせる際や拳銃を構える際の型もいちいちキマっており、動画としても静止画としても完成されている。つまり、本作の綾瀬は「達人である」という説得力(動)に加えて、観る者を魅了する画の美しさ(静)も追求する必要があったということ。

 衣装も実戦的ではなく当時の流行を取り入れたファッショナブルなテイストでデザインされており、ただ「動作が速い」や「他を寄せ付けないほど強い」では足りない。髪の乱れすらも意味が付いてしまうキャラクターで、体すべてをコントロールする難しさがあったのではないか。姿勢の美しさや顎の角度、目線、銃に弾丸を装填する際の指先の動きなど、『リボルバー・リリー』の綾瀬からは神経が張り巡らされている感を受ける。

 そうした身体の使い方は、百合が放つ威圧感にも波及していく。彼女は周囲に余計な情報を与えないプロフェッショナルであり、感情をほぼ面に出さず、日常会話をしている際にも容易には近づき難い“ただ者でなさ”がある。

 それもこれも、演じる綾瀬が凜とした佇まいを崩さないが故だ。見た目や表情、声色でハードボイルドな世界観に即した(ある種フィクショナルな)キャラクターを創り上げたとしても、体はなかなか嘘のつきようがないもの。どうやっても多少は“役者その人”が出てきてしまう状況下で、こうした綾瀬の体の末端への意識がアクションシーン以外でも小曾根百合という人物を確立している。

 ススキが生い茂る草むらで、敵の兵士の背後にいつの間にか立っている神出鬼没な動きもそうだし、その後の静から動への転換(地面に倒れた敵の姿が見えない中、拳を激しく振り上げて下ろす綾瀬の動きで「これはやられる」と観る者が納得できる)、狭い汽車の中でかんざしやキセルを使って戦うシーンの素早い動き(バトルのさなか、乗客に流れるようにキセルを返すシーンの細かさがニクい)、ジェシー扮する兵士との荒々しい殴り合いなどなど、要所にアクションが収められているが、百合/綾瀬の集中力が途切れない。

 アクションの魅せ方の一つに「緩急」があるが、本作での彼女は「緩」がなく、常に「急」であり続ける。様式美のアクションという新たな技を獲得した綾瀬はるか。その覇道は拡大し続ける。

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クレジット:©2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ

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