サッカーファンのニーズを徹底調査して生まれた「シーズンパス」

—まず桃井義生さんの経歴と現在のお仕事内容を教えてください。

　2020年1月に中途採用でWOWOWに入社し、現在は営業部でWOWOWサッカー全体のマーケティングを担当しています。市場調査をベースにマーケティング戦略を組み立て、施策に落とし込んでお客さまにプロモーションするのが主な仕事です。いろいろな部署を横断して、WOWOWサッカーを盛り上げる役割なので、社内外の多くの方からサポートいただいて、WOWOWサッカーを目的に加入してくださる人を増やすのが最終的なミッションになっています。

　WOWOWのサッカーコンテンツとしては、2020-21シーズンから「UEFAチャンピオンズリーグ（以下CL）」「UEFAヨーロッパリーグ（以下EL）」を中継しています。その権利獲得の前から、加入シミュレーションや収益シミュレーションを行なっていたので、このCL・ELとの付き合いも丸4年くらいになります。

—そんな中で昨年からスタートした「CL・ELシーズンパス」ですが、概要と企画した経緯をお聞かせください。

　まず2023年9月にCL・ELの「2023-24シーズンパス」という新サービスを導入しました。WOWOWオンデマンドでCL・ELやその関連番組のみが視聴できるPPV形式の配信サービスです。今年1月22日に販売を開始した「決勝トーナメントパス」はその後継サービスです。「シーズンパス」を販売するまでの経緯なんですが、発案に至った理由は大きく3つあります。
　1つ目は、以前より多くのお客さまからWOWOWサッカーに対して「サッカーのみのプランを販売してほしい」という強いご要望をいただいていたことです。
　2つ目は、例えばYouTubeやほかの動画配信サービスなどでは、特に若年層を中心に視聴コンテンツの“専門化”…「好きなものしか見ません」という方が多くいるというトレンドが市場調査で把握できていたこと。
　そして3つ目は、CL・ELだけでなくスポーツ全体に言えることなのですが、日本人選手や自分が推しているチームの敗退によって、シーズンの途中で解約してしまう方が非常に多いという傾向に、何とか歯止めをかけたいと思っていたことです。
　20代、30代といった若い世代を中心に、サッカーだけを見たいという非常に強いニーズがあるということが分かってきた。であれば、その年代の方に向けては「見られるのはこれのみ」というサービス（＝シーズンパス）を販売できれば、新規の顧客を獲得できるのではないかと考えました。また「シーズンパス」であれば、最初に視聴料をいただいた時点でシーズンの最後までご視聴いただけることが確定し、途中の解約がなくなる。つまり解約リスクを極限まで減らすことができるんです。
　そのため、通常加入より低い設定の価格で販売しても、トータルでは収益が上がるのではないか…。最初の企画を出してからは、もうとにかくシミュレーションを何度も重ねましたね。

—「シーズンパス」の販売数は10,000名限定でした。その数に理由はありますか。

　「シーズンパス」を販売するに当たり、初めは販売数を2,000名程度にしてテスト販売のような形式で、告知もそこまで大きくすることは考えていなかったんです。しかし社内で直前まで議論を重ねた結果、より大きな反応が得られると判断し、上長からも「10,000でいこう！」と背中を押していただけたので、告知もしっかり行なうオープンな形で販売しようと決まりました。
　事前に何度もシミュレーションしていたので、「たぶん大丈夫だろう…」という想いはありましたが、やはりローンチ（発売開始）前はおびえてました（笑）。新しいサービスをローンチした時に、お客さまの反応がどう出るかというのは誰にも分からないことなので、本当にずっとドキドキしていましたね。発売後間もなく完売したときには、とにかくホッとしました。

―完売してしまい買えなかったお客さまもいたと思うのですが、そこで販売数を追加するという考えはなかったのでしょうか？

　シーズンパスの追加販売は考えていませんでした。数を増やすというよりは10,000名のお客さまに対して、しっかりと向き合い、効果検証して、収益性があるのか？ をジャッジするのが最大の目的だったからです。
　「シーズンパス」販売後の反響は、SNSなどを見る限りは非常に好意的に受け止めていただけたと思っています。価格の面や、以前からサッカーだけを見たいと思っていたのでうれしい、という声を多数いただきました。
　また、実際にご購入いただいたお客さまにアンケート調査にご協力いただきまして。その中の「満足度」については、80％を超える高い数字だったんです。新サービスとしては、大変良い数字だと思っています。また、来季以降も継続希望とアンケートに答えてくれた方が実に90％以上。WOWOWオンデマンドの利用率も高く、シーズンパスを購入してくれた方々は、“ロイヤルなお客さま”という認識です。

顧客のニーズを見極め、こちらも変わっていくことが必要

—通常の放送・配信サービスでWOWOWを楽しんでもらいたい！ というジレンマや、既存の加入者が離脱してしまうのではないか？ といった懸念はなかったのでしょうか。

　当然、そこは大きな議論ポイントでした。ただ、先ほども申し上げたように、本当に何度もシミュレーションをしていたので、加入者からの離脱は限定的だろうという予測はしていました。
　また、WOWOWは33年の歴史の中でずっと総合ジャンル編成を行なってきたので、一つのジャンルを切り出して販売することが、企業の姿勢としていいのか？ という議論もありました。
　総合ジャンル編成はこれからもWOWOWの中核を担うと思いますが、国内のコンテンツ全体を見たときに総合ジャンル編成が好きな人もいれば、そうじゃない人もいる。特に、そうじゃない人が若年層を中心に増加傾向にあり、中でもサッカーは競合サービスでもよく見られていて、販売価格もWOWOWに比べると低価格のものが多い。そんな状況の中でWOWOWを選んでいたくためには、サッカーだけを深掘りした独自のコンテンツをどれだけ用意できるか、というところが勝負になるのではないかと思っています。従来の顧客層とはターゲットが違いますし、ニーズも違いますから、それに合わせて私たちもマーケティングを変化させる必要がある、ということですね。
　結果、こうして「シーズンパス」を完売することもできましたし、その後の効果検証もしっかり行ない、収益的にもプラスになりそうなことは見えてきた。その確認ができたからこそ、現在も発売中の「決勝トーナメントパス」の販売につなげることができたんです。

—「決勝トーナメントパス」の反応はいかがでしたか？

　おかげさまで、「決勝トーナメントパス」の販売も順調です！ 今回は販売数に上限もありません。SNSを拝見する限りは、大好評をいただけていると感じています。サッカー関連の他媒体さんともお付き合いがあるんですけど、皆さんから「WOWOWさん、やりましたね！」というお声をいただきます（笑）。
　CL・ELの視聴を希望されている方々の流れで言うと、シーズン開幕の9月、決勝トーナメント開幕の2月、最後に決勝が行なわれる6月と、大きく3回の加入の波があります。やはり皆さん「決勝トーナメントは見たい」という方が多いんですよね。販売価格についてもお客さまへのアンケートから導きましたが、SNS上でも「イイ線ついてる」などの書き込みを見るとうれしくなります。

日本代表がW杯で優勝する未来のために貢献したい

—サッカーコンテンツを中継するメディアの担当者として、現在の国内のサッカーコンテンツ市場をどう思われますか。

　日本のサッカーファン、サッカー視聴者にとって、今はあまり良くない環境が続いていると認識しています。例えば、日本代表の試合が地上波で視聴できなくなっていたり、昨年のサッカーワールドカップ（W杯）予選が、日本のすべてのサービスで視聴できないっていう異常事態も発生していました。世界的にサッカーの権料の高騰もありますし、地上波やサブスクサービスを含めたビジネスモデルの“転換期”が来ていることも挙げられます。
　また、サッカーコンテンツのサブスクサービスはWOWOWも含めて複数あって。いろいろなリーグを見ようとするといろいろなサービスとの契約が必要なため、非常に高額になってしまうというのが大きな問題かなと思っています。
　こういう難しい事業環境の中でのWOWOWの役割というのは、やはり自分たちが持っているコンテンツの権利を最大限に使って、多くの人に魅力を発信すること、実際に見てもらうよう努力することだと思っています。その結果の一つが今回のシーズンパスやトーナメントパスだと思っています。われわれも他社もビジネスですから権利を独占で囲うこともありがちですが、権利を保有する側の責任、そこを見失ってはならないのだろうと思っています。
　昨年、われわれはラ・リーガ（の権利）を失いました。その際にリーガの担当プロデューサーだった瀧口創さんが別れのコラムの中で書いていたことなんですが、「サッカーを中継することは種まき」であると。これは本当に私もそう思いますし、WOWOWスポーツの根底にあるマインドだと思っています。

—サッカーに対する個人的な想いがあればお聞かせください。

　地上波やWOWOW以外のサブスクサービス、他のサッカーメディアやユーチューバーさんなど、サッカーに関するメディアは日本にたくさん存在します。WOWOWにとってそれらは「競合」でもあるんですけど、大きな意味で言うと「日本のサッカー界を盛り上げよう！」っていう「同士」だと思っているんです。WOWOW単体でできることはどうしても限られているので、他社サービスといい形で連携しながら、最終的に日本のサッカー視聴者にとってより良い環境をつくっていきたいと思っています。

　ちなみにプライベートでもサッカーが大好きで楽しんでいます。以前は海外サッカー好きが高じてオールド･トラッフォード（イングランド）、カンプ・ノウ（スペイン）、マラカナン（ブラジル）などの海外スタジアム巡りもしていました。最近は息子のサッカースクールのコーチをやったり、同じ部のメンバーとフットサルをして楽しんでいます。　

　実は、日本サッカー協会（JFA）は2050年までの目標として、日本のサッカー男子代表のW杯優勝を掲げているんです。私もサッカーコンテンツを扱う立場として、大好きな日本代表のW杯優勝に少しでも貢献したいと思っています。自分が小さい頃TVでCLを見ていたように、今WOWOWのCL・ELを見て、私と同じようにサッカーに魅了された子どもたちが、いつか日本代表になってW杯優勝に導いてくれる「第2の久保建英選手」のような世界で活躍する選手になるかもしれない。そんな日本のサッカー全体に貢献することは”夢”ですね。

サッカーの新サービスが2月9日（金）より続々登場！

—最後に、これからの「WOWOW×サッカー」について教えてください。

　WOWOWのサッカーへの取り組みはまだまだ発展途上だと思っています。カスタマーセンターに届くご要望やご意見は全部見ていて、サッカーの関係者全員が集まる会議では、お客さまの声を課題化してどうアクションを取っていくかと毎回議論し、一つずつ解決しようと努力しています。
　その中で、2月9日（金）より「FANUP（ファナップ）」というCL・ELの予想ができるサービスのスタートが決まりました。お客さまの声から「サッカーの“予想バトル”のような楽しみ方をしたい」という声が以前から多くあったんです。それを満たすサービスがこの「FANUP」です。

　ぜひ、登録してファン同士で熱く盛り上がっていただきたいです。

　そしてもう一つ、これは「シーズンパス」や「決勝トーナメントパス」の販売ができるようになったからこそ実現できたことですが、2月14日（水）より、スポーツ観戦のイベントなどを行なっている英国風PUB「HUB」とのコラボレーションが決まりました。
　店舗は限定されますが、HUBでWOWOWのCL・ELを視聴できるようになります。仲間と一緒に、またおひとりでも、おいしいビールやご飯とともにCL・ELの決勝トーナメントをHUBのスクリーンで楽しんでいただけます。
（対象店舗や放映予定などの詳細は以下の「HUB公式HP」をご確認ください）

　WOWOWのサッカー中継やサッカー関連の番組制作のクオリティーは、日本国内でもトップクラスだと自負しています。WOWOWサッカーに関わっているスタッフも社内外に大勢いて、信じられないくらいのレベルで準備をして、魂を込めた映像をお届けしています。そのクオリティーと“熱い魂”に、少しでも多くの人が触れていただける機会が増えるといいなと思っているので、こういった新サービスが増えていき、広がりを見せていることは、本当にうれしく思います。
　これからもWOWOWサッカーと、日本のサッカーに貢献できるように頑張ります！

▼「UEFAチャンピオンズリーグ UEFAヨーロッパリーグ – 2023-24決勝トーナメントパス」の購入期限は2月13日（火）午後5：00まで！ 急いでチェック！

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クレジット（トップ画像）：Getty Images、写真／AP/アフロ