クリスマスがやってくる! 恋愛映画から学ぶ“幸せを引き寄せる恋愛術”

マガジン「映画のはなし シネピック」では、映画に造詣の深い書き手による深掘りコラムをお届け。今回はWOWOWで12月に放送される恋愛映画から、映画パーソナリティで心理カウンセラーでもある伊藤さとりさんに、恋愛映画のひと味違う楽しみ方を分析してもらいました!

文=伊藤さとり @SATORIITO

 街中がキラキラとしたイルミネーションで輝きを増すクリスマスシーズンが到来。肌寒さとともに人恋しさも募り、さらにクリスマスの雰囲気も相まってロマンチックな恋に憧れるこの時期。でも、できるなら恋愛で痛い思いはしたくないし、好きな人から受けた傷ほど深く心に突き刺さる…ということも、失恋経験のある人ならば知っているはず。

 それでもやっぱり恋がしたい! と思う人にお伝えしたいのは、「付き合う」とは、ズバリ「他者との親交」であり、相手を知って自分も知ってもらうという人間学そのものだということ。だからこそ「恋愛」は奥が深く、自己成長にもつながっていきます。

 恋愛において、一番の天敵は己の“固定概念”であり、その思い込みを排すためには、時には恋愛関係を客観的に見る能力が重要で、まさに、“行動学”といえます。このコラムでは、恋愛において人の認知を学べる心理学的恋愛映画3本を教材とし、“幸せを引き寄せる恋愛術”を考えていきます。

恋に臆病になった心に効く映画『イン・ハー・シューズ』(’05)

 姉のローズ(トニ・コレット)は頭脳明晰だけど外見にコンプレックスを持っていて、妹のマギー(キャメロン・ディアス)は美人だけれど難読症に悩んでいるという、真逆の姉妹が主人公。ある日、ローズの恋人を寝取ってしまったマギーは絶縁され、ある手紙を頼りに疎遠だった祖母(シャーリー・マクレーン)に会いに行くことに…。

 実はこの映画、「模倣行動」=好きな人のまねをしてしまう行動心理を映し出しています。その心理が行動として表われているのが、マギーは姉ローズに深層心理では憧れを抱いていて、ローズの靴や恋人までをも共有してしまうシーン。

 その行動の裏には、自己肯定感の低さが影響していて、実はローズ自身も失恋の痛手から、恋愛においても、外見への自信のなさや家庭環境においても、負い目を感じている様子が受け取れます。確かにコンプレックスは自分ではなかなか直せないし、同じ過ちは犯したくないと思ってしまうもの。そんな時は無理せずローズのように、気軽に食事に誘ってくれる相手とリハビリ気分でご飯を食べに行くのも良いでしょう。じっくりお互いの話をし、弱さも見せられる相手であると知ったら、自然と恋愛関係に発展するかもしれません。

 この映画から学ぶのは、恋愛において大切なのは、自分の欠点と思うことも愛してくれる相手であるかどうかということ。ローズがしたように、弱い自分も受け入れて初めて、本当に自分を大切にしてくれる人に気付くものです。特に結婚においては、映画の象徴である「靴は体型が変わっても履ける」という考えのように、「自分の感情が多少変化しても変わらず受け入れてくれる人」が自分にフィットする相手ともいえます。


モテるテクニックが詰まった映画『ラスト・クリスマス』(’19)

ノリも良いしチャーミングなのに男運がないクリスマスショップの店員ケイト(エミリア・クラーク)が主人公。そんな彼女に声を掛けてきたのは好みではないけれど、やたらと相談に乗ってくれる優しくてミステリアスな青年トム(ヘンリー・ゴールディング)だった。

 全世界でヒットしたワム!の名曲「ラスト・クリスマス」から生まれた物語であり、出会いが人生を変えるラブストーリーです。人生で一度はぶち当たる「自分探し」の時期。一体自分は何者なのか? そう思いながらもラクな方、楽しい方を選んで生きてしまうのが人間というもの。

 本作では、フィーリングだけで肉体関係を結んでしまうケイトの姿を通して、自分の身体を大切にしない空虚さを埋めるように、会話だけで親密になっていく恋愛模様を描いていきます。恋愛って「セックス」をする関係ではなく、互いの身体を大切にし合える関係というのが重要なポイントの一つ。そんな中、お手本にしたいのがトムの対応。彼は相手の話をしっかり聞いて、一緒にいろんなことに挑戦して、時にはすべてを見せないミステリアスさでいつの間にかケイトの気になる存在になっていきます。

 愛されたいのなら劇中のトムのような聞き上手になること、そしてダラダラと一緒に居ようとせずに去り際はサラッと。また、自分のことを語るのは後、という対応が相手の好奇心を刺激するのです。


忘れられない存在になれる映画『私の頭の中の消しゴム』(’04)

 社長令嬢スジン(ソン・イェジン)と工事現場監督のチョルス(チョン・ウソン)はひょんな出会いから大恋愛へと発展、格差を乗り越えて結婚するも、ある時、スジンが若年性アルツハイマー病に侵されていることが判明。愛する妻の記憶から自分が消えていく未来への不安を抱きながらも、チョルスはスジンを支えようと誓うのだが…。

 日本のTVドラマ「Pure Soul ~君が僕を忘れても~」の韓国リメイク。公開当時、日本でも大ヒットを記録し、日本公開の韓国映画では『パラサイト 半地下の家族』(’19)が公開されるまでは興行成績歴代第1位を記録していた作品。

 ここまで多くの人を惹きつけた理由は、とにかく献身的な夫チョルスの姿から、妻への深い愛情を感じられる行動にありました。けれどチョルスは最初から愛情表現が豊かだったわけではなく、実は病に侵される前のスジンの方が、積極的に愛情を表情や行動で見せていました。この展開は、よくいる愛情表現が苦手で不器用な男性が、別れた彼女の優しさに後から気付いて恋しくなるパターンに近いものがあります。

 本作には「ミラー効果」という行動心理に近いシーンがあります。最初の出会いでチョルスのコーラをスジンが奪い取って目の前で飲み干し、ゲップをする。そして次の偶然の出会いでチョルスがスジンに対して同じ行動でやり返す、というシーン。好きな人に好意を持たれたいなら、相手のしぐさをまねしてさりげなく合わせていくことで同調が生まれ、相手が自然と好意を持つという「ミラー効果」を使うのも恋愛における効果的なテクニックなのです。

 さらにロマンチックな恋愛関係を持続させるためには、自分がされて嫌なことはせず、うれしいことをするというのがあります。相手を気持ちよくさせる愛情表現は、相手に安心感と自信を与え、気付けばチョルスにとってのスジンのようにかけがえのない存在に発展していくものなのです。

 いかがでしたか? 恋愛映画といえども内容によって違う学びや発見があるのが映画の面白さ。結局のところ、ただ恋愛を描いているのではなく、人と人との交流をじっくり客観的に見ることができ、登場人物を今の自分と照らし合わせることで、明日の自分を変えるきっかけを与えてくれるのが恋愛映画なんですよね。

 実は行動心理学の勉強にもなる恋愛映画。クリスマス前にWOWOWで特集されるこれらの映画から得たことを実践してみるのも、素敵な人生経験につながっていくのではないでしょうか。

伊藤さとりさんプロフ20211212~

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