どんな人間であったとしても、もう一度人生を「生き直す」権利はある――バラ作りの映画から読み解く思い
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どんな人間であったとしても、もう一度人生を「生き直す」権利はある――バラ作りの映画から読み解く思い

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 SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2015年9月の国連サミットにて全会一致で採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す17の国際目標。地球上の「誰一人取り残さない(Leave No One Behind)」ことを誓っています。
 フィクションであれ、ノンフィクションであれ、映画が持つ多様なテーマの中には、SDGsが掲げる目標と密接に関係するものも少なくありません。たとえ娯楽作品であっても、視点を少し変えてみるだけで、われわれは映画からさらに多くのことを学ぶことができるはず。
 フォトジャーナリストの安田菜津紀さんによる「観て、学ぶ。映画の中にあるSDGs」。映画をきっかけにSDGsを紹介していき、新たな映画体験を提案するエッセイです。

文=安田菜津紀 @NatsukiYasuda

 今回取り上げるのは、バラ育種家の主人公が、素人3人を頼みの綱に、世界最高峰のバラ・コンクールに挑んでいく映画『ローズメイカー 奇跡のバラ』('20)。(※初回放送 3/28(月)後7:15、以降リピート放送あり)

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 のどかなバラ園で繰り広げられるドラマから、SDGsの「目標8:働きがいも経済成長も」「目標16:平和と公正をすべての人に」を考えていきます。

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(SDGsが掲げる17の目標の中からピックアップ)

「家族の絆」という型からこぼれ落ちてしまい、そんな自分を責め続けている人もいる

 「世の中はさ、家族円満を前提にしたものであふれてるんだよね。“親子割”とか、“ファミリープラン”とか、サービスもそう」

 友人がふと、そんなことをもらしたことがある。彼女は幼い時に、実の親からの虐待を受けていた。「がたがたな家族、暴力の絶えない家族は、そんなサービスからさえもどんどんこぼれ落ちていく」と彼女は切実な想いを語っていた。

 最近になって「親ガチャ」という言葉が広がっている。どんな玩具カプセルが当たるのか分からない「ガチャガチャ」のように、どんな親の元に生まれるかは運次第、ということを意味する。この言葉がメディアで取り上げられ始めた頃、ネット上には否定的な反応も少なからずあった。「親に失礼だ」「ガチャガチャに例えるのは不謹慎だ」――。

 ただ、虐待を過去に受けた友人たちからは、この言葉を知って「楽になった」という声が上がった。それまでは、虐げられたり暴力を受けたりするのは、どこか自分に落ち度があるかのように思わされてきたけれど、この言葉に触れて、その呪いを少し解いてもらったように思う、と。もちろん、親たちが虐待を繰り返さないための支援は不可欠だが、被害を受けてきた子どもたちの「逃げ場」を無為に奪ってはならないとも思う。

 思えばメディアの中は、「家族の絆」という物語であふれている。日頃から仲のいい家族、つながりの深い家族のことを否定したいわけではない。ただ、型にはめこまれることに窮屈さを感じる人、型からこぼれ落ちてしまい、そんな自分を責め続けている人がいることも、何かを発信する上で心に留めている。

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子どもたちが発する精一杯のメッセージに関心を寄せないこともまた精神的な暴力である

 映画『ローズメイカー 奇跡のバラ』にも、実の親から突き放されて生きてきた1人の青年が登場する。

 舞台はフランス郊外にある美しいバラ園だ。のどかな田園風景の真ん中に咲き誇る色とりどりのバラたちは、このバラ園の主であるエヴ(カトリーヌ・フロ)が精魂込めて育ててきたものだ。新種の開発にも才能を発揮するエヴだったが、数年前から巨大企業の進出により、経営は傾き続けていた。危機的な状況を脱しようと、助手であるヴェラ(オリヴィア・コート)は職業訓練所に掛け合い、仕事を探していた無職の3人を新たに雇うことを決める。彼らの「社会復帰」を後押ししようという「善意」ではなく、「安価な労働力」を得たいという動機からだった。そのうちの1人が、窃盗など、数々の犯罪に手を染め、刑務所から出所してきたフレッド(メラン・オメルタ)だった。

 エヴはバラ作りにかける情熱が人一倍あふれている一方、それゆえに暴走することもある激しい性格の持ち主だった。社会復帰の途上にある3人に、時に暴言を吐き、また巨大企業のバラを盗む手伝いまでさせる様子にはあきれ返ってしまったが、見進めるうちに、彼女の心の奥底に秘められた繊細な揺れ動きも見えてくる。

 そんな心の機微が少しずつあらわになるのは、フレッドもまた同様だった。他者を拒むような態度を崩さなかったフレッドだが、絶えずスマホに目を落とすのは、自分を見放した親からの連絡をどこかで期待しているからだった。エヴは、そんな彼が持つ、香りを嗅ぎ分ける卓越した才能を見いだしていた。人と比べられ、「底辺」を生きてきた彼は、そんなエヴの言葉さえ、当初はかたくなに受け入れることを拒否していた。恐かったのかもしれない。期待をしてはまた突き落とされることの繰り返しの人生に、また引き戻されてしまうことが。それでもエヴの熱意は、フレッドの心を徐々に解きほぐしていく。

 自分を見放した母親に偶然街中で会い、「仕事で見込まれてる」と語った彼の顔は、それまで見せたことのない輝きを放っていた。そんな彼の心を再び打ち砕いたのが、くるりと背を向けて足早に去っていく母の「無関心」だった。

 この映画では、バラ作りに打ち込み、フレッドが家族との距離を縮めていった、という安易なストーリー展開に逃げ込まない。むしろフレッドが、「家族の絆」という呪縛を振り切り、1人の人間として、自分自身の足で歩み出す道のりを描いている。

 SDGsの「目標16:平和と公正をすべての人に」の中には、子どもに対する虐待の撲滅が掲げられている。虐待とは殴る蹴るといった身体的な暴力に留まらない。子どもたちの発する精一杯のメッセージに関心を寄せないこともまた、精神的な暴力であり、フレッドがそうであったように、青年になってもなお、その傷は色濃く刻まれ、人生を左右することがある。

 もうひとつ、「目標8:働きがいも経済成長も」という目標の中身そのものも考えてみたい。もしも巨大企業の「ベルトコンベアー」の中に放り込まれていたら、フレッド含め3人はどこまで人間的なつながりを育み、自分がこの場にいることの意義を見いだせただろうか。エヴが求めていたのは右肩上がりの「成長」ではなく、ささやかでも、父の農場を守り生きていきたいという、等身大の「働きがい」だったのではないだろうか。

 最後に、この映画は「才能」がひとつの鍵になっている。新種のバラを生み出すエヴ、嗅覚が鋭いフレッド、2人の能力は目を見張るものがあった。ただ、人の価値を決めるのは「才能」の有無ではない。どんな道のりを経てきた、どんな人間であったとしても、もう一度人生を「生き直す」権利はあるのだと、改めて心に刻みたい。

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安田菜津紀さんプロフ220304~

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クレジット:THE ROSE MAKER (C)2020 ESTRELLA PRODUCTIONS-FRANCE 3 CINÉMA-AUVERGNE-RHÓNE-ALPES CINÉMA

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