それでも生きていくんだし、生きてる以上はやるべきことが何かあるんだなって――二宮和也、北川景子、松坂桃李、中島健人ら出演『ラーゲリより愛を込めて』を観てスピードワゴン・小沢さんが心撃ち抜かれたセリフとは?

 映画を愛するスピードワゴンの小沢一敬さんが、映画の名セリフを語る連載「このセリフに心撃ち抜かれちゃいました
 毎回、“オザワ・ワールド”全開で語ってくれるこの連載。映画のトークでありながら、時には音楽談義、時にはプライベートのエピソードと、話があちらこちらに脱線しながら、気が付けば、今まで考えもしなかった映画の新しい一面が見えてくることも。そんな小沢さんが今回ピックアップしたのは、第2次世界大戦終結後、シベリアの強制収容所に抑留された実在の日本人たちを描いた『ラーゲリより愛を込めて』('22)。二宮和也、北川景子、松坂桃李、中島健人、桐谷健太、安田顕ら豪華キャストが共演した伝記ドラマから、どんな名セリフが飛び出すか?

(※初回放送 8/12(土)後8:00、以降リピート放送あり)

取材・文=八木賢太郎 @yagi_ken

──今回の作品は『ラーゲリより愛を込めて』です。

小沢一敬(以下、小沢)「うん。まず正直言うと、俺は普段から、戦争映画というのはほとんど観てこなかったのね。好きじゃないとかじゃなくて、どうしてもつらい内容になるから観てるとしんどくなっちゃうというか。ただ、戦争のことを後世に伝えていくという意味で戦争映画にはすごく存在意義があると思うし、こういう機会がないと観なかったかもしれない作品だったと思うから、今回観させてもらって本当によかったと思う。作品としてとても面白かったし興味深かったので」

──この作品は、第2次世界大戦後にシベリアの強制収容所に抑留されていた日本人たちの実話をベースにした物語でしたね。

小沢「これが実話だと思うと、ホントにすごいよね。実際にこんなことがあったんだって驚いた。犬のクロの話とかさ、『ちょっと演出過剰なんじゃないの?』って、つい疑ってかかっちゃったところもあったんだけど(笑)。あれも大部分が実話なんだよね?」

──そうらしいです。物語の終盤での船のシーンの描写も、実際にあったことのようです。もちろん、物語の全てが実話通りではなく、一部は映画のために分かりやすくしてる部分もあるみたいですけど。

小沢「それはそうだよね。実話を基にした映画だからといって、実話をそのまま描くことが必ずしも正義ではないからね。何かを伝える時には多少の演出は必要だもん。だから、俺らがバラエティ番組で話すエピソード・トークも、多少は中身を盛っていても許してほしいよ(笑)」

──それは面白ければ、多少は問題ないと思います(笑)。

小沢「とにかくこの映画は、役者さんたちがすごいラインナップで。主演の二宮(和也)くんはもちろん、北川景子さんに松坂桃李くん、中島健人くん、安田顕さん、桐谷健太さん、もう、誰に注目して観ても面白いと思うよ」

──それぞれにちゃんと見せ場がありますからね。

小沢「というか、この二宮くんが演じている主人公の山本幡男さんが、本当に素晴らしい人だよね。周りの仲間たちに対する接し方とかを見ても、できた人だなぁって。だって、実際のシベリアの収容所なんて、映画で描かれてるよりもっともっと汚くて過酷な環境なはずだから。そういうなかでも、ああやって仲間のためを思って行動できるっていうのは、ものすごいことだと思う」

──実際には、映画に描かれてない部分でも、仲間たちが希望を失わないようにいろいろな活動をしていたみたいですよ。

小沢「ああいう極限状態になるとさ、誰かを密告することで自分を守ったり、軍隊の階級を利用して弱い立場の兵隊にマウントを取ったり、必ずそういうことが生まれるじゃん。同じ抑留者という立場なのに、人間ってどうしてああなっちゃうんだろう? と思ってさ。とても見るに堪えないというか」

──小沢さん自身がああいう環境に置かれたら、どういう行動をすると思います?

小沢「いや、俺だって分かんないよね。極力良い人間でありたいとは思ってるけど、自分がどうするかは想像もつかない。山本さんみたいな行動をしたいけど、なかなかできないよ、あれは。たぶん、俺も含めて世の中のほとんどの人は、松坂桃李くんが演じた松田みたいになっちゃうよね。山本さんみたいに生きなきゃいけないのに、それができないし、困っている山本さんを助けることもできずに、『俺は卑怯者だ』って自分を責めてしまうと思うよ。でも、『俺は卑怯者だ』なんて思えること自体は正しいことだし、もしもそれに気付いた時には何かしらの行動を起こさなきゃいけないんだよ、ということを学ぶために、この映画は全員に観てほしいと思うね」

──そういう部分では、現代に生きる我々にとっても大事な教訓がたくさん詰まってました。

小沢「ちなみに余談なんだけどさ、俺はこういう収容所とかに監禁される映画を観ると、いつも『お風呂とかトイレとかどうしてるんだろう?』ってことが気になるんだよね。ゾンビ映画とかでもさ、何日も同じところに閉じ込められているなかで、仲間同士でラブ・ロマンスが生まれて男と女が抱き合ったりするじゃん。ああいうのを観ると『うわっ、汗臭くないのかな〜』って(笑)」

──気持ちは分かりますけど、そこは言わないであげてください(笑)。

小沢「そういうの、すっごい気になっちゃうのよ」

──その話を膨らますと脱線しそうなので、ここまでにして(笑)。では、今回の作品の中で小沢さんが一番シビれた名セリフを教えてください。

<※ここから先はネタバレを含みますのでご注意ください>

小沢「うん。まず、物語の展開として好きだったのは、『どうやら、私が最初に遺書を届けに来たようですね』っていうセリフだね」

第2次世界大戦直後の1945年。身に覚えのないスパイ容疑でシベリアの地獄のラーゲリ(強制収容所)に収容された山本幡男(二宮和也)。劣悪な環境下では誰もが心を閉ざしていたが、山本は分け隔てなくみんなを励まし続け、そんな彼の行動と信念が凍っていた抑留者たちの心を次第に溶かしていく。やがて終戦から8年がたち、誰もがダモイ(帰国)の日が近づいていると感じていたが、その頃、山本の体は病魔に侵されていた。それでも妻(北川景子)や子どもたちとの再会を決して諦めない山本に対して、彼を慕う仲間たちは、遺書を書くように進言する。震える手で家族への想いを込めた遺書を書き上げた山本だが、仲間に託されたその遺書は無残にもソ連兵に没収されてしまう。死が迫る山本の願いを叶えようと、仲間たちは驚くべき行動に出る。

──帰国後、最初に山本の家族を訪れたラーゲリの仲間の原(安田顕)が言うセリフですね。

小沢「あのセリフで、『おっ、ここから何かが始まるぞ』って感じが伝わるから、あのセリフは見事だったよ。また、遺書の中身もいいんだよね。どんな遺書がどうやって届けられたかは映画を観てほしいんだけど。妻に宛てた遺書に出てくる『妻よ、よくやった。実によくやった』っていう言葉もいいし、子どもたちに宛てた遺書の『立身出世など、どうでもいい。最後に勝つのは道義だぞ』っていう言葉もすごかった。特にあの時代の話だからさ。成功すること、出世することばかりを考えてる人が多い時代のなかで、『それよりも道義が大事だ』って言える山本さんは素晴らしいと思ったね」

──ものすごく進歩的な考えを持った人だったんですよね、きっと。

小沢「まあ、映画としてはすごく大事な、お約束というか、みんなの期待を裏切らないようなセリフも多い作品だったんだけど、そんななかでも俺が一番好きだったのは、『しないわけないでしょ、絶望!』だね」

──収容所内の病室で、ずっと山本に反感を抱いていた元軍曹の相沢(桐谷健太)に対して、山本が言うセリフですね。

小沢「山本さんががんで余命3カ月だと知った相沢が、山本さんに『それでもおまえは絶望しねえって言うのかい!』って言うと、悔しそうに『しないわけないでしょ、絶望!』と。いつも『どんな時にも希望はあるんです』って言ってた山本さんでも、自分が生きて家族に会えないと悟った時には、やっぱり絶望するんだと。ここでもし、いつも通りに山本さんが『絶望しませんよ。必ず家族に会えると思ってます。希望だけは捨てないんです』って言ったら、さすがにそれは嘘にしか聞こえないもんね」

──確かに、そうですね。途端に安っぽくなっちゃう。

小沢「ただ、絶望はしてるんだけど、かといって自暴自棄になるわけでもない、という生き方じゃん、これは。もう生きて家族には会えないけど、生きてる間にできることをやろうと。我々だって、生きてりゃ絶望的なことも、もうダメだと思う日もたくさんあるのよ。それでも、生きていくんだし、生きてる以上はやるべきことが何かあるんだと。そういう意味で、あれはすごくいいセリフだと思ったよ」

──実在の山本さんがそうやって書き残したメッセージが、現代の我々にもこうやって届いているわけですからね。

小沢「そうなんだよ。すごいきれい事になっちゃうけど、自分の肉体が死んだところで、自分の想いとかメッセージが残っていけば、それは死んだことにはならないというか。例えば、ジョン・レノンは死んじゃったけど、彼が歌ってきたメロディやメッセージは、みんなの心の中になんとなく生き続けていくじゃん。そのバトンは次の世代にも伝わっていく。山本さんにしても、あの遺書がある限り、彼の子どもたちにはそのメッセージは伝わっているはずだし、この映画を観た人たちにも何かが残ったわけで。あの時の山本さんは生きられないことに絶望したかもしれないけど、その絶望のなかで遺書を書き残したことによって山本さんの想いはちゃんと生き続けて、こうやって現代の俺にもそのバトンは伝わってきたし、またこのバトンを、次はWOWOWを通して皆さんにお届けすることができるわけだから(笑)」

──ちなみに、小沢さんは何か後世に残したいメッセージはあるんですか?

小沢「それが、俺は何もないのよ。俺は、死んだ瞬間に存在そのものを全員に忘れられたいって思ってるから。だから、この連載で語ってきたいろんなことも、どうか俺が死んだら全てきれいさっぱり忘れてほしいね(笑)」

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クレジット:(C)2022「ラーゲリより愛を込めて」製作委員会 (C)1989清水香子