『火山高』から20年! 第一線で活躍し続ける男、クォン・サンウの魅力

マガジン「映画のはなし シネピック」では、映画に造詣の深い書き手による深掘りコラムをお届け。今回は、韓国のスター俳優クォン・サンウ主演作3作品を特集する「特集:クォン・サンウに魅せられて」の放送に合わせて、彼の魅力を徹底紹介するコラムをお届けします。

文=渡邊玲子

 “元祖モムチャン(筋肉美)俳優”こと、クォン・サンウの名を耳にして思わず「懐かしい~!」と声をあげそうになった人もいるだろう。何を隠そう、筆者もそのひとり。「冬のソナタ」を皮切りに、2000年代初頭の日本で社会現象を巻き起こした「第一次韓流ブーム」のど真ん中を駆け抜けたサンウは、その後どんな年の重ね方をしているのだろう…。

 5月31日(月)にWOWOWで特集放送される、サンウ主演作『ラブ・アゲイン 2度目のプロポーズ』(’19)、『ヒットマン エージェント:ジュン』(’20)、『鬼手(キシュ)』(’19)の見どころとともに、デビューから20年経ってもなお、輝きを放つクォン・サンウの魅力について、改めて紐解いてみたい。

 学生時代の友人のFacebookに出くわしたかのような、不安と期待がかすかに入り混じった気持ちでリサーチを開始してみたところ、「へぇ~!そうなんだ」と目からうろこが落ちるような新情報が次から次へと飛び出し、恥ずかしながらここ10数年もの間、自らの「クォン・サンウ観」がほとんど更新されていなかったことを、深く反省させられた。

 身近に居そうでなかなか居ないビジュアルと、筋肉ヲタクでなくとも「すごい!」と感嘆せずにはいられない腹筋バキバキの肉体美は、44歳の今も健在! 2008年に女優のソン・テヨンと結婚し、2児の父となった現在もファンの人気は根強く、俳優業のみならず、洗車場を経営する実業家としても活躍しているというから驚かされる。

 クォン・サンウといえば、CG&ワイヤーアクションを駆使した痛快学園バトルアクション『火山高』(’01)。影の主役ともいえる元学園No.1のカリスマ高校生役にオーディションで抜擢され、映画デビューを果たしてから早20年となる。

 一躍その名を有名にしたのは、韓国で最高視聴率45.3%を記録し、日本でもたびたび地上波で再放送され話題を集めた、チェ・ジウとの共演メロドラマ「天国の階段」での“涙の貴公子”こと、悲恋の御曹司役だろう。モデル出身で24歳と、決して早いデビューとは言えないながらも、その美肌と童顔を活かし、デビュー直後は『ひとまず走れ!』(’02)やキム・ハヌルとの共演作『同い年の家庭教師』(’03)、『マルチュク青春通り』(’04)といった青春映画で立て続けに高校生役を演じ、「天国の階段」での大ブレイクをきっかけに、韓国では多数のCMにも出演。爆発的な人気を誇っていた。

 ヨン様こと、ぺ・ヨンジュンを筆頭に「四天王」と呼ばれた、イ・ビョンホンやチャン・ドンゴン、ウォンビンといったいわゆる“正統派”とはまたひと味違う親しみやすさで、ソン・スンホンコン・ユらとともに「新四天王」のひとりとなったクォン・サンウ。181㎝の長身に恵まれ、どんなアクションもお手の物の鍛え抜かれた肉体と、女性もうらやむ美肌の持ち主ではあるものの、正直一見しただけではその奥深い魅力を捉え切れずに「かっこいい…のだろうか?」と惑わされそうになったりもする。

 だが、ある意味その“分かりにくさ”こそが、クォン・サンウ最大の強みともいえるのではないだろうか。いたずらっ子のような茶目っ気たっぷりの表情と、良い意味でアンバランスな肉体とのギャップを武器に、野性味あふれる男の色気や繊細さ、不遜さ、頼りなさを同時に併せ持つ俳優として、作品ごとに異なる一面を見せ、「飽きのこない俳優」として長く愛されているのだ。

 『ラブ・アゲイン 2度目のプロポーズ』では、いま流行り(!?)の「離婚式」を経て、晴れて独身生活を満喫しようとするも、突如現れたワガママな元妻(イ・ジョンヒョン)に振り回され、次々と災難に見舞われるアラフォー男性をコミカルに好演。『マルチュク青春通り』以来、15年ぶりの共演となるイ・ジョンヒョクが、なぜか元妻を巡って火花を散らすことになる「恋のライバル」役で登場。息の合った演技を見せているのも見逃せない。デビュー当時、数多く出演していた青春コメディの印象はそのままに、いい感じにくたびれた40オトコの役が妙にはまっていて、等身大のクォン・サンウが堪能できる。

 一方、韓国で大ヒットを記録したスパイ・アクション・コメディ『ヒットマン エージェント:ジュン』では、切れ味鋭いアクションと爆笑ギャグを繰り出し、硬軟自在の持ち味を遺憾なく発揮しているサンウ。事故で両親を失い、国家の秘密スパイとして養成されて伝説的なヒットマンへと成長するも、自ら死を装って隠遁(いんとん)。憧れの「漫画家」として第2の人生を歩み始めるが一向に売れる気配もなく、妻子からも半ば愛想を尽かされ腐っていたところ、酔った勢いで描いた自伝的漫画が大評判になり、再びスパイとして組織に追われることになる…という、なんとも数奇な運命をたどる主人公ジュンを熱演している。

 そして、韓国映画の十八番とも言うべき、“復讐”という血生ぐさいテーマと、怒濤の囲碁バトルをミックスさせ、仁義なき戦いを描いたバイオレンス・アクション『神の一手』(’14)のスピンオフ作品『鬼手(キシュ)』では、孤高の囲碁棋士役に扮しているサンウ。撮影前に3カ月以上かけてトレーニングを行ない、6㎏以上の筋肉を増量。体脂肪率9%という驚異的な肉体を獲得したばかりでなく、プロ棋士の指導のもとで囲碁をも体得。一匹おおかみの棋士の教えを胸に、かつて姉を自殺に追いやったプロ棋士への復讐に挑む男の執念を、見事に演じ切っている。

 かつては「長く俳優を続けるつもりはない」と発言しながらも、40代半ばを迎えた現在でも現役バリバリのスター俳優として、デビュー当時と変わらず、幅広いジャンルを行き来するクォン・サンウ。『ラブ・アゲイン 2度目のプロポーズ』『ヒットマン エージェント:ジュン』『鬼手(キシュ)』という、まったくジャンルの異なる3本を一気見すれば、クォン・サンウが醸し出す不思議な魅力の沼に、またもやはまってしまうであろうこと請け合いだ。

渡邊玲子さんプロフ20210519~