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【6月の激レア映画!】濱口竜介監督の実験的短編『天国はまだ遠い』や、石井裕也監督の長編第1作『剥き出しにっぽん』をはじめ、廃盤・未ソフト化など貴重な映画を“レア度”とともにご紹介!

 こんにちは。WOWOW加入者向けに配布しているプログラムガイドで「見逃し厳禁!録画のチャンス!今月の激レア映画」の作品選定を行なっている映画ライターの飯塚です。

 6月もプログラムガイドで掲載している通称「激レア映画」企画をコラムにしてnoteでも掲載いたします。プログラムガイドで選定された作品がどれほど貴重な映画なのか、その選定理由とともに作品の魅力について語っていきたいと思います。

文=飯塚克味


【6月の激レア映画9作品】

①[廃盤]『川の底からこんにちは』/②[廃盤][HDテレシネ]『剥き出しにっぽん』

『剥き出しにっぽん』:ⓒ石井裕也

レア度…★★★★☆

<『川の底からこんにちは』あらすじ>
上京5年目のOL佐和子は、仕事も恋も長続きしない毎日。さらに父親の忠男が病に倒れたため、ひとり娘の自分が実家のシジミ工場を継がざるを得なくなる事態に。当初は渋った佐和子だが、妻と別れて自分で子どもを育てる恋人の健一は、地方暮らしのよさを積極的に受け止め、結局佐和子は健一とその幼い娘、加代子を連れて帰郷。工場は業績不振で倒産寸前な上、自己主張が強い年上の女性従業員たちの中、困り果てる佐和子だが……。

WOWOW公式サイトより

<『剥き出しにっぽん』あらすじ>
何をやっても思うようにいかず、情緒不安定な青年・太郎。高校を卒業したが進路未定の彼は、自給自足の生活をするため郊外に畑の付いた格安の一軒家を借りる。その勢いで、以前から想いを伝えられずにいた洋子を共同生活に誘うと、意外にも彼女はあっさりと話に乗ってくる。ところが引っ越し当日、リストラによる失職で家に居づらくなった父親までついてくることに。ぼろぼろの一軒家で畑仕事をしながら暮らし始める3人だが……。

WOWOW公式サイトより

 最初に紹介するのはDVDが[廃盤]になっている石井裕也監督の商業デビュー作『川の底からこんにちは』です。監督デビュー作といえば、その後の方向性を決めてしまうほど、本人にとっても周囲にとっても重要な作品です。この映画、一応ジャンルはコメディとなっていますが、とにかく主人公のどん底ぶりが徹底していて、笑っていいのか迷ってしまうほどビターなテイストになっています。生まれ育った地域ならではの居心地の悪さ、人間関係の複雑さ、いろいろなものが胸に刺さってくると思います。
 そして同じく[廃盤]『剥き出しにっぽん』は、その前の自主映画時代の作品で、ソフトは[廃盤]に加え、今回は[HDテレシネ]*での放送となります。PFF(ぴあフィルムフェスティバル)に応募して、応募総数780本の中からグランプリを受賞した作品とのことなので、かなり気合の入った映画になっているはずです。メジャーになった監督の自主映画時代の作品って、どんなものか観てみたくなるものです。

※HDテレシネ…フィルムの情報をビデオ信号に変換して映像を収録した作品

③[廃盤]『火まつり』

レア度…★★★★☆

海と山に挟まれた熊野の小さな町で、きこりとして暮らす達男。彼は、尊い神木であるさかきを使って山バトを生け捕りにする仕掛け罠を作るなど、神をも恐れぬ所業で周囲を驚かせる荒くれ者の野生児。折しも町では海中公園の建設が予定され、その利権争いが始まる中、何者かによって海に重油がまかれて養殖のハマチが台無しになる事件が発生。既に妻子がありながら、町へ戻ってきた幼なじみの女性・基視子と自由に遊び回る達男に対し、町の人々はきっと彼の仕業に違いない、とますます厳しい視線を向けるようになる。

WOWOW公式サイトより

 こちらもソフトが[廃盤]になっている『火まつり』という作品です。『さらば愛しき大地』('82)が単館上映で成功して注目を浴びた柳町光男監督が1985年に放った異色作。北小路欣也演じる木こりを軸に開発に揺れる小さな町に暮らす人々を描いています。黒澤明監督作品も担当した武満徹の音楽や、神秘的な映像も見どころです。『漂流』('81)や『空海』('84)といった大作に連続出演していた北大路欣也にとっても、実話がベースということで忘れ難い体験だったようです。

④[廃盤]『フェリックスとローラ』/⑤[廃盤]『ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール』

レア度…★★★☆☆

『ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール』:ⓒ 2000 - KATHARINA / PATHE RENN PRODUCTION - TF1 FILMS PRODUCTIONS

<『フェリックスとローラ』あらすじ>
郊外の空き地に移動遊園地を設営しながら、各地で定期的に興行を打つ移動遊園地のオーナーのフェリックス。ある日彼は、ひとり寂しげに遊園地で漫然とたたずむ若い女性ローラの姿を目にして彼女に心惹かれる。私をここで雇ってくれる? という彼女の問いに彼も即座に応じ、かくして遊園地でともに働くうち、フェリックスはすっかりローラに恋するようになる。しかし彼女は誰かに追われているらしく、謎めいた男性が彼女の周囲に付きまとうようになったある日、ローラはフェリックスの前から不意に姿を消してしまう。

WOWOW公式サイトより

<『ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール』あらすじ>
スポーツ記者のイヴァンは、人気スターのシャルロットをパートナーにしたばかりに、何かと気苦労が絶えない。せっかく2人きりで外出してもすぐにファンに邪魔され、プライバシーなどないも同然な上、彼女はさまざまな場所に顔パスで入れるのに彼だけではだめで、彼の面目はすっかり丸潰れ。しかも次の彼女の新作映画では、名うてのプレイボーイとして知られるジョンが共演者に決まり、イヴァンは嫉妬しまくって気が気でなく……。

WOWOW公式サイトより

 続いては、どちらも[廃盤]になっているシャルロット・ゲンズブール主演の2作品です。
 『フェリックスとローラ』はパトリス・ルコント監督作。最近でも『メグレと若い女の死』('22)で健在ぶりを見せてくれたルコント監督らしさがあふれたラブストーリーです。一方の『ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール』は、実生活でも夫婦であるイヴァン・アタルが監督と夫役を演じたコメディで、30歳前後のシャルロットの魅力が全開の貴重な作品であることは間違いないです。『ジェーンとシャルロット』('21)で、老いた母親との日常を監督したシャルロットの魅力を感じてほしい2本です。

⑥[未ソフト化]『永遠に君を愛す』/⑦[未ソフト化]『天国はまだ遠い』

レア度…★★★★★

『永遠に君を愛す』:ⓒ 2009 竹澤平八郎

<『永遠に君を愛す』あらすじ>
結婚式当日を迎えた永子と誠一。独身最後の前夜、仲間と飲んで、二日酔い気味の誠一を部屋に残して、永子はひとり先に結婚式場に向かうが、彼女の表情はどこか浮かない。実は彼女は、元カレの寿志との間に、人には言えないある事情を抱えていた。一方の寿志も、彼女から披露宴の招待状を受け取っていたが、式に出席するかどうか迷っていた。絵のヌードモデルのバイトをする寿志は、なぜかエリナという少女からつきまとわれ……。

WOWOW公式サイトより

<『天国はまだ遠い』あらすじ>
「小さいころママが、死んだら天国に行くんだよって言った。信じてたわけじゃないけど、天国はまだずいぶん遠い」という冒頭の独白に続いて、17歳の女子高生・三月が登場する。彼女は、アダルトビデオの画面にモザイク処理をするのを仕事にしている34歳の独身男性・雄三と、なにやら奇妙な同居生活を送っているらしい。そんな雄三に、三月の妹の五月が、今は亡き姉に関するドキュメンタリーを撮りたい、と申し込んでくる。

WOWOW公式サイトより

 濱口竜介監督の初期作品の[未ソフト化]になっている『永遠に君を愛す』『天国はまだ遠い』です。いずれも東京藝術大学の課題や、自主制作であることから、ソフトになっていなかったり、ソフト化されていてもすでに廃盤だったり…。観ようと思った時に簡単に観られなかったりします。ミニシアターなどで特集上映があると、どこも観客が詰めかけますが、私もポレポレ東中野というミニシアターでの特集上映の時にやっと観ることができました。観ると、やはり濱口監督ならではの緊張感が張り詰められていて、中編や短編でも鑑賞後の満足度がかなり高いです。ぜひ、この機会に録画してお宝にしてほしいものです!

⑧[未ソフト化]『ファースト・カウ』

レア度…★★★★☆

『ファースト・カウ』:ⓒ2019 A24 DISTRIBUTION, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

1820年、アメリカ北西部のオレゴン・カントリー。金鉱掘りの一行とともにこの地にやって来た料理人のクッキーは、中国人移民のキング・ルーと出会い、2人は意気投合。そんな折、裕福な仲買商がこの地に初めて1頭の牛を船で運んでくる。クッキーとキング・ルーが、その牛から盗んだミルクを隠し味にした特製の甘い菓子を作って売り出すと、それが一躍評判となってバカ売れするように。やがて、2人の悪事がついにばれ……。

WOWOW公式サイトより

 こちらも[未ソフト化]『ファースト・カウ』という作品です。一部に熱狂的なファンを持つケリー・ライカート監督がA24とタッグを組んだ新作。西部開拓時代、地主の牛の乳を内緒で搾って、ドーナツを売り始める料理人と中国人移民のお話なのですが、スタンダードサイズで作られていて、ちょっと昔の映画風な感じがとてもいいんです。有名なスターは出ていませんが、それを逆手に密度の濃いドラマに集中できるはず。いつかケリー・ライカート監督特集の実現も期待したいところです。

⑨[未ソフト化]『6月0日 アイヒマンが処刑された日』

レア度…★★★☆☆

ナチス親衛隊の中佐としてユダヤ人の大量虐殺に深く関わり、1961年末、イスラエルの裁判で死刑宣告を受けたアイヒマン。イスラエル国家が死刑を行使する唯一の時間として、処刑の執行日は翌年の5月31日から6月1日に日付が変わる真夜中(6月0日)に定められる一方、処刑後、遺体は火葬されることに。しかし同国では、宗教的・文化的理由により火葬が禁じられていて、火葬設備自体、これまで存在していなかった……。

WOWOW公式サイトより

 最後は『6月0日 アイヒマンが処刑された日』という[未ソフト化]の作品です。イスラエルでナチスの戦犯アイヒマンを処刑後、遺体は焼却して海に灰をまくことが決定。だがイスラエルでは火葬が法律により禁じられており、今回のためだけの焼却炉を造ることになる。映画は、この焼却炉造りに関わる人々の姿を丁寧に追っていきます。世界中が情勢不安定な今の状況にやきもきし、明るい未来像が描けないこの時代。やはり過去をきちんと見つめてさまざまな視点を知ることはとても重要なことだと感じさせてくれます。

 次回、7月号激レア映画もレアな映画が盛りだくさんです。
 どうぞお楽しみに!

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トップ画像(クレジット):『天国はまだ遠い』:ⓒ 2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト.LLP