【6月の激レア映画!】濱口竜介監督の実験的短編『天国はまだ遠い』や、石井裕也監督の長編第1作『剥き出しにっぽん』をはじめ、廃盤・未ソフト化など貴重な映画を“レア度”とともにご紹介!
文=飯塚克味
【6月の激レア映画9作品】
①[廃盤]『川の底からこんにちは』/②[廃盤][HDテレシネ]『剥き出しにっぽん』
レア度…★★★★☆
最初に紹介するのはDVDが[廃盤]になっている石井裕也監督の商業デビュー作『川の底からこんにちは』です。監督デビュー作といえば、その後の方向性を決めてしまうほど、本人にとっても周囲にとっても重要な作品です。この映画、一応ジャンルはコメディとなっていますが、とにかく主人公のどん底ぶりが徹底していて、笑っていいのか迷ってしまうほどビターなテイストになっています。生まれ育った地域ならではの居心地の悪さ、人間関係の複雑さ、いろいろなものが胸に刺さってくると思います。
そして同じく[廃盤]の『剥き出しにっぽん』は、その前の自主映画時代の作品で、ソフトは[廃盤]に加え、今回は[HDテレシネ]*での放送となります。PFF(ぴあフィルムフェスティバル)に応募して、応募総数780本の中からグランプリを受賞した作品とのことなので、かなり気合の入った映画になっているはずです。メジャーになった監督の自主映画時代の作品って、どんなものか観てみたくなるものです。
※HDテレシネ…フィルムの情報をビデオ信号に変換して映像を収録した作品
③[廃盤]『火まつり』
レア度…★★★★☆
こちらもソフトが[廃盤]になっている『火まつり』という作品です。『さらば愛しき大地』('82)が単館上映で成功して注目を浴びた柳町光男監督が1985年に放った異色作。北小路欣也演じる木こりを軸に開発に揺れる小さな町に暮らす人々を描いています。黒澤明監督作品も担当した武満徹の音楽や、神秘的な映像も見どころです。『漂流』('81)や『空海』('84)といった大作に連続出演していた北大路欣也にとっても、実話がベースということで忘れ難い体験だったようです。
④[廃盤]『フェリックスとローラ』/⑤[廃盤]『ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール』
レア度…★★★☆☆
続いては、どちらも[廃盤]になっているシャルロット・ゲンズブール主演の2作品です。
『フェリックスとローラ』はパトリス・ルコント監督作。最近でも『メグレと若い女の死』('22)で健在ぶりを見せてくれたルコント監督らしさがあふれたラブストーリーです。一方の『ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール』は、実生活でも夫婦であるイヴァン・アタルが監督と夫役を演じたコメディで、30歳前後のシャルロットの魅力が全開の貴重な作品であることは間違いないです。『ジェーンとシャルロット』('21)で、老いた母親との日常を監督したシャルロットの魅力を感じてほしい2本です。
⑥[未ソフト化]『永遠に君を愛す』/⑦[未ソフト化]『天国はまだ遠い』
レア度…★★★★★
濱口竜介監督の初期作品の[未ソフト化]になっている『永遠に君を愛す』と『天国はまだ遠い』です。いずれも東京藝術大学の課題や、自主制作であることから、ソフトになっていなかったり、ソフト化されていてもすでに廃盤だったり…。観ようと思った時に簡単に観られなかったりします。ミニシアターなどで特集上映があると、どこも観客が詰めかけますが、私もポレポレ東中野というミニシアターでの特集上映の時にやっと観ることができました。観ると、やはり濱口監督ならではの緊張感が張り詰められていて、中編や短編でも鑑賞後の満足度がかなり高いです。ぜひ、この機会に録画してお宝にしてほしいものです!
⑧[未ソフト化]『ファースト・カウ』
レア度…★★★★☆
こちらも[未ソフト化]の『ファースト・カウ』という作品です。一部に熱狂的なファンを持つケリー・ライカート監督がA24とタッグを組んだ新作。西部開拓時代、地主の牛の乳を内緒で搾って、ドーナツを売り始める料理人と中国人移民のお話なのですが、スタンダードサイズで作られていて、ちょっと昔の映画風な感じがとてもいいんです。有名なスターは出ていませんが、それを逆手に密度の濃いドラマに集中できるはず。いつかケリー・ライカート監督特集の実現も期待したいところです。
⑨[未ソフト化]『6月0日 アイヒマンが処刑された日』
レア度…★★★☆☆
最後は『6月0日 アイヒマンが処刑された日』という[未ソフト化]の作品です。イスラエルでナチスの戦犯アイヒマンを処刑後、遺体は焼却して海に灰をまくことが決定。だがイスラエルでは火葬が法律により禁じられており、今回のためだけの焼却炉を造ることになる。映画は、この焼却炉造りに関わる人々の姿を丁寧に追っていきます。世界中が情勢不安定な今の状況にやきもきし、明るい未来像が描けないこの時代。やはり過去をきちんと見つめてさまざまな視点を知ることはとても重要なことだと感じさせてくれます。
次回、7月号激レア映画もレアな映画が盛りだくさんです。
どうぞお楽しみに!
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トップ画像(クレジット):『天国はまだ遠い』:ⓒ 2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト.LLP