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「三谷幸喜」作品とセットで読みたい本5選!

10月の番組テーマは「三谷幸喜」

東京の新生パルコ劇場にて上演された、三谷幸喜が書き下ろした新作舞台「大地」。三谷幸喜と箭内道彦が異色のタッグで送るWOWOW「劇場の灯を消すな!PARCO劇場編」。

今回は劇場をきっかけとした「三谷幸喜」の世界をより楽しんでいただくため、WOWOWブッククラブのテーマとして5冊の本をセレクトしました。

選書・コメント=幅允孝(WOWOWブッククラブ部長)

★大地キャスト組み写真

三谷幸喜「大地」(Social Distancing Version)
10/24(土)午後5:00

組み写真6人_PARCO劇場編

劇場の灯を消すな!PARCO劇場編
三谷幸喜×箭内道彦~Road to PARCO THEATER“劇場に灯あれ!”

10/31(土)よる7:00
撮影:宮川舞子

それでは番組とセットで読んでほしい5冊をご紹介します。

1冊目:むかつく二人

三谷幸喜、清水ミチコ(著)
幻冬舎

2005年4月1日から2014年3月31日まで放送していた三谷幸喜さんと清水ミチコさんのラジオ番組をまとめた対話集の第1弾。プログラムをまとめた書籍として『むかつく二人』、『いらつく二人』、『かみつく二人』、『たてつく二人』という4冊の本が出ているのですが、この「〇〇の二人」の「二人」というのは、ニール・サイモンの『おかしな二人』から取っているそうです。

プロの芸を持つ清水さんと、プロの考え方を持つ三谷さんの邂逅!という崇高な目標とは裏腹に、毎回日々気になっていることを好い加減でゆるりと話しているうちに、その会話は思いもよらぬ方向へ流れ着きます。とはいえ、そこで披露される独特な視点や軽やかな言葉遊びが、読めば読むほどクセになってくるのです。

加えて言うなら、誰もが通り過ぎるようなことに急に立ち止まって凝視し、そのズレを笑いにまで転化するポイントが少しだけ見えるような気もします。ちなみに、その落差に対して本人は至って真面目に考えている部分が三谷流なのですが。

各章の対談後に書き加えられた「ついでの話」(例えば、和田誠さんについて)を読めば、三谷さんが当時考えていたことの背景まで透けて見えるかもしれません。

2冊目:書いては書き直し ニール・サイモン自伝

ニール・サイモン(著)
酒井洋子(訳)
早川書房

三谷幸喜さんが最も敬愛していると公言している戯曲家の自伝。400ページ強ある厚い本なのですが、ニール・サイモンのファンのみならず、三谷ファンも興味深く読めると思います。

学生時代に西武劇場で観た福田陽一郎さん演出によるニール・サイモンの「おかしな二人」の衝撃が今の三谷幸喜を作ったのだとしたら、果たしてその「おかしな二人」という作品がどうやってできあがったのか知ってみたいと思いませんか?

また、三谷さんが学生時代に結成した「東京サンシャインボーイズ」という劇団はニール・サイモンの代表作「サンシャイン・ボーイズ」から来ているのですが、その登場人物のモデルとなったウィリー・ハワードと出会った瞬間の思い出や、ずっと「ボツの新作」リストに入ったままで陽の目を浴びる可能性が少なかったあの脚本をもう一度書きすすめることになったきっかけなど、今や伝説的ともいえるサイモン脚本が色々な紆余曲折を経て出来あがったことを知るのです。まさに、書いては書き直し、ですね。

語り口のユニークさは読者をちっとも退屈させず、しかも自伝によくある自慢が鼻につく感覚は皆無。自身を客体化しながら、ユーモラス且つ謙虚に語るニール・サイモンの自分史をぜひお楽しみください。

3冊目:いろいろな人たち チャペック・エッセイ集

カレル・チャペック(著)
飯島周(訳)
平凡社

パルコ劇場で上演された「大地」の主人公の名前に着目して、こんな本を選びました。彼の名はチャペック。どこのチャペックから取ったのかは分かりませんが、僕の中で「チャペック」といえば、チェコの作家&絵描きのチャペック兄弟、一択なのです。

「大地」は、反政府主義のレッテルを貼られた俳優たちがある俳優収容施設に送られ、演じることを徹底的に禁じられるという物語。そして、実際のチャペック兄弟の弟、カレル・チャペックも民主主義のために闘った書き手でした。

元新聞記者だった彼は、チェコスロバキア共和国の初代大統領トマーシュ・マサリクとの対談集を出すなど政治と社会に対して問いを続けた人。プラグマティズムを研究し、多種多様な人間性や平凡だけれど懸命に生きる日常生活を大切にするべきと説きました。

そんな彼の記者時代のコラムを集めた『いろいろな人たち』は人々の「日常」、「文化と社会」、「政治」という3つの要素で成立しています。ちなみに可愛らしい挿画は兄のヨゼフ・チャペックによるものです。

4冊目:劇場

ミハイル・ブルガーコフ(著)
水野忠夫(訳)
白水社

ミハイル・ブルガーコフは1891年にウクライナで生まれた劇作家であり、小説家。近年は『巨匠とマルガリータ』という作品が池澤夏樹 個人編集による『世界文学全集』にも収録され、注目度があがってきている書き手です。

ところが、政治的理由で黙殺されていた期間が長く、実際のブルガーコフも決して幸福とはいえない生涯を過ごしました。そんな彼の自伝的要素が強い最後の作品が、この『劇場』なのです。

「演出家の不条理な介入、進まない舞台稽古。劇場の複雑な機構に翻弄される作家の悲喜劇」という帯の言葉に偽りなく、しがない記者のマクスードフという主人公は、昼間に新聞の仕事をしながら夜は小説や戯曲を書く男。自分の作品を劇場で上演したいと夢見る彼の姿は、実際にブルガーコフが劇作家として深く関わったモスクワ芸術座での出来事を連想させ、作品上演の困難を描く端々からリアリティが感じられます。

劇場への愛はもちろん、その場の恐ろしさもよく知るブルガーコフは、一本の戯曲が観客の拍手を浴びるまでの長い長い苦労を細やかに伝えますが、それを悲劇ではなく一種の喜劇として紹介したところは彼の意地でしょう。多くの三谷作品からも劇場への愛とその地場に対する尊さを感じますが、デジタルではなく生身の人間が交錯する場所だからこその引力なのだと痛感します。

5冊目:パルコ劇場30周年記念の本 プロデュース!

扇田昭彦、長谷部浩、パルコ劇場(編集)
パルコ エンタテインメント事業局

1973年にその歴史がスタートしたパルコ劇場。その30周年を記念した資料性も高い1冊がこちらです。2003年の本なので、昔の書物だと思う方がいるかもしれませんが、ファンだったら是非とも手元に残して欲しいのです。

パルコ劇場が西武劇場と呼ばれていた時代の演劇事情から始まり、この劇場が渋谷の町の、そして時代の何を変えてきたのかが俯瞰できます。

今となっては伝説といえる武満徹のオープニング公演「MUSIC TODAY 今日の音楽」を皮切りに、井上ひさし、寺山修司、つかこうへい、蜷川幸雄、美輪明宏、福田陽一郎、青井陽治などなど劇場の歴史を刻んできた面々が、パルコ劇場について語り下ろします。

そんな中に若かりし日の三谷さんも交じり、次世代ウェルメイドプレイの担い手として話しているのですが、彼の初期衝動が垣間見えつつ現在の三谷作品ともきちんと繋がっていることが分かります。

「458」のダイナミズム と書かれているように、458席しかない=458人しか1つの舞台を観られないこの密室が、熱を帯びて大きな文化のムーブメントになっていく様をきれいな装丁で包み込んだ本です。

これまで紹介した本

先に番組を観るのもよし、本から入るのもまた一つの楽しみ方。あなたにとって番組や本との新しい出会いになることを願っています。