スピードワゴン・小沢さんが「この連載で最も感情移入したキャラクター」と語る大物が登場! 心を撃ち抜かれたセリフとは?
取材・文=八木賢太郎 @yagi_ken
──今回は『男はつらいよ』ということで。小沢さん、あまり寅さん好きのイメージなかったんですが。
小沢一敬(以下、小沢)「そう? たしかに、若い頃はそんなに観てなかったのよ。先輩に勧められて1本観たぐらいで。なんかさ、自分が若かったせいもあって、温かいホーム・コメディだな、っていう感じでしか捉えられてなかったんだ。ところが、これは自分が歳を重ねたせいだと思うけど、今はもう、寅さんが大好き(笑)」
──大好きっていうレベルなんですね。
小沢「どの作品を観ても面白い。あと、寅さんを観るようになってから、人に対して寛大になった気がするよね」
——それは、よく分かります。
小沢「実は昔ね、劇団ひとりの川島さんに言われたことあるの、『小沢くんは、ホントに寅さんだね。すぐ恋してすぐフラれて』って(笑)。確かに寅さんを見てると、自分に似てるなって思うときがあるのよ。勇気がなくて告白出来ずに、ごまかして逃げちゃうところとか。今回の映画にも出てきた、リリー(浅丘ルリ子)が寅さん(渥美清)と結婚したいみたいな話になったときに、『冗談なんだろ?』って逃げちゃうやつ(第15作『~寅次郎相合い傘』(’75))。まさにあの通りね。傷つくのが怖いんだよ。それはこの前、最上もがちゃんにも言われたんだ。『小沢さんは、相手が本気になったら逃げちゃって、ホントのこと言わない人だもんね』って」
──みんなにバレてるんですね(笑)。そんなところも、まさに寅さん。
小沢「でも、寅さんみたいな生き方は本当に素晴らしいと思ってて。寅さんを反面教師だと思う人もいるけど、俺にとっては“全面教師”だよ(笑)。一つだけ俺と違うのは、寅さんは計算とかじゃなく、自然と周りの人を応援したり背中を押したりしてあげるから誰にでも好かれるけど、俺の場合はそこに計算が見えちゃうんだよね、たぶん。だから、ああいう風にはなれないなぁ」
──そういう寅さんの自然体の優しさみたいなものが、歳を重ねて分かってきたという感じですか。
小沢「うん。でもね、それは『若者には寅さんの良さが分からない』って意味じゃないのよ。俺が若いときには分からなかっただけで、今の若者にもあの面白さ、素晴らしさは当然伝わると思うよね。そういう意味で今回の作品は、今まで寅さん映画を観たことない人にも、その魅力がとてもよく伝わる映画になってたと思う。なんていうか、寅さん映画の“いいとこどり”みたいなね」
──そうですね。過去の作品の名場面もいろいろ見られますし。
小沢「寅さんシリーズの名場面と言われるシーンは、ほとんど入ってたんじゃないかな」
──恐らくこれが最終作なのに、入門編みたいになってますよね。
小沢「あ、それはいい言葉だね。そうだね、これをきっかけに寅さんを観始める人もいるもんね、きっと」
──ということで、『男はつらいよ お帰り 寅さん』から名セリフを選んでいただきたいんですが、一つだけ選ぶのも難しそうですね。
小沢「そうなんだよ。名場面をいっぱい集めた映画だから、名セリフも多い。たとえば、若い頃の満男(吉岡秀隆)が、寅さんに『伯父さん、人間は何のために生きてんのかな?』って聞くところ(第39作『~寅次郎物語』(’87))。『何というかな“あぁ、生まれて来てよかったな”って思う事が何べんかあるんじゃない。そのために生きてんじゃねえか』って寅さんが答えるやつ」
──ホント、いいセリフです、あれは。
小沢「あれはさ、フラワーカンパニーズの『深夜高速』って曲の『生きててよかった そんな夜を探してる』っていう歌詞でも歌われてることで。別にフラカンは寅さんにインスパイアされてるわけじゃなくて、中島らもがエッセイに書いてたことを歌ってるみたいなんだけどね」
──中島らもの「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」に出てくる一節ですね。
小沢「中島らもと寅さんと、どっちが先かは分からないけど。とにかく、みんながたどり着く結論の一つだよね。なんで生きてるのかなんて、正直俺にも分からないんだけど、正解だと思える答えがいくつかあって、そのうちの一つだろうね」
──中島らもと寅さんが同じ答えにたどり着いてるわけですから、間違いなく正解の一つでしょう。
小沢「あと、その他に面白い場面の名セリフでいえば、あのメロンのくだりの『訳を聞こうじゃないか』もあるよね」
──“メロン騒動”と呼ばれてる名場面のセリフですね(『~寅次郎相合い傘』)。
小沢「あれはもう、映画としてどうとか、人生がどうとかじゃなく、単純に言い方が面白い。『訳を聞こうじゃねえかよ』って(笑)。あの場面は、まさに寅さんらしい場面だよね」
──どうでもいいことをグダグダと説教するのが、まさに寅さん。
小沢「どうでもいいことに熱くなって、ムキになるのが寅さんね。あれぐらいムキになれたらいいなって思うよ。寅さんは、他人のことでもムキになって世話を焼いてくれる。それなのに、自分の色恋沙汰とか、誰かの人生を背負う決断をしなきゃいけないような場面になると、いつも逃げ出しちゃうんだ」
——その代表が、さっきも話に出たリリーとの結婚話のシーンですね。
小沢「とにかく俺はリリーが好きだから、リリー絡みの昔のシーンは全部好き。寅さんはリリーのことが好きで、リリーも寅さんのことがずっと好きなのに、いざ結婚という形にしようとすると、寅さんは形にするのが怖いから『冗談なんだろう?』って逃げちゃう。リリーもそこで『本気よ、結婚してよ』って言えばいいのに、言えないもんだから、『そう、冗談に決まってるじゃない』って言って、元のままの2人の関係に戻ろうとする。あの場面なんて、観てて苦しくなるほどの名場面だよ」
──小沢さんは、自分に重ねて観てるから、余計に苦しくなるんじゃないでしょうか(笑)。
小沢「そうだね。あ、だからさ、俺が今回の作品からひとつだけ名セリフを選ぶとしたら、そのときの思い出話をリリーから聞いた満男が言い放った一言かもしれないな」
──そのセリフとは?
小沢「『それがおじさんのダメなとこなんだよ』」
小沢「あれはもうね、寅さんのことじゃなく、俺のことを言われてる、ほぼ(笑)」
──まさに小沢さんの心に刺さった名セリフだと。
小沢「刺さったねぇ。結局、何も分かっちゃいないのよ、寅さんも、俺も(笑)。分かったフリをしてるけど、結局は何も分かってない」
──分かってないからこそ、そこがみんなに愛されちゃうんです。
小沢「でもね、極端なことを言うと、みんなの中に寅さんはいるよ。寅さんの一部分みたいなものは、誰もがみんな持ってると思う。いいカッコしたくてさ、小学生の満男の運動会の応援に張り切って行こうとするんだけど、満男から嫌がられてるのが分かると、『忙しい中をやりくりして、面白くもない運動会に行ってやろうっつってんだぞ』って怒り出す(~第31作 『旅と女と寅次郎』(’83)) 。もう自分勝手、極まりない(笑)。でも、みんなどこかにそういう部分をもってるじゃん。だからこの作品はみんな、寅さんの映画を観てるんじゃなく、自分の中の寅さんに会ってるんだよ。『お帰り 寅さん』じゃなく、『お帰り 自分』だね」
──なるほど~、いい話になりました。
小沢「うん、なんとかまとめようと頑張った(笑)」
──でも、小沢さんが、こうやって自分自身に刺さる映画っていうのも、なかなか珍しいですね。
小沢「そうね。今まで2年ぐらいやってきたこの連載の中で、最も感情移入した登場人物かもしれない。すべてのセリフが俺のことを言われてるみたいに感じちゃったから。実際、俺もこの歳だから、みんなにいろいろ言われるよ。『自分の家を買うべきだったんじゃないの?』とかさ。でもね、家は買わない。俺はフラフラしていたいって思うから。いつまでも“フーテンのオザさん”でいたいんだもん(笑)」
──—そんなオチでよろしいでしょうか?(笑)
小沢「うん、あ、でもこれさ、ホントは“フーテンの竜さん”のほうがよかったね。寅さんだと阪神タイガースになっちゃうんだけど、俺は中日ドラゴンズのファンだから」
——え~と、それはちょっと何を言いたいか伝わらないですけど…
小沢「(急にムッとして)…訳を聞こうじゃねえかよ」
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