「ラグビー テストマッチ 2022 オータム・ネーションズシリーズ」とセットで読みたい4冊!
ラグビーワールドカップ2023の前哨戦となる、「オータム・ネーションズシリーズ」がいよいよ開幕。WOWOWでは10月30日(日)より全21試合を放送・ライブ配信する。今回のブッククラブは、ラグビー観戦とともに読みたい本をご紹介。
1冊目:ラグビーって、いいもんだね。 2015-2019ラグビーW杯日本大会
藤島大(著) 鉄筆文庫
元ラグビープレーヤーの藤島大さんが書かれた、2015年~2019年までのラグビー日本代表の活動を巡るエッセイ集です。藤島さんの選手としての目線、ラグビーを取り巻く社会の目線、そして試合を観戦するファンの目線と、いろいろな目線からラグビーというスポーツの背後にある物語をあぶり出す、名人技が光るエッセイです。ラグビー日本代表の歩みをまとめた本は何冊も出版されていますが、この本は単なる年表にとどまっていないのが面白いところです。2015年の奇跡的な南アフリカ戦の勝利から、2019年のW杯自国開催に至るまで、その時々の情景がよく浮かぶ描写が細かく盛り込まれています。
当時のどんな選手がどんな戦術を選び、どんな形でトライを決めたのか、選手たちはどんな言葉を漏らしていたのか、当日の天候、ファンの歓声、選手の気持ちなど、記録に残らない情報までをもをつぶさに紹介することで、「記憶の再生装置」 のような読み物として完成されています。肩肘の張ったラグビー論ではなく、気楽に「ラグビーって、いいもんだね。」と言えるような文章でありつつ、藤島さんのラグビーに対するきらめくような愛の深さを感じ取ることもでき、世界に対して前向きになれる文章です。
私のように、ラグビーは代表戦を観戦したことがある程度で、自分でプレーしたことはないという方でも、ラグビーというスポーツの美しさに心を打たれ、その情景がワーッと目の前に浮かんでくる、そんな一冊です。
2冊目:エディー・ジョーンズ わが人生とラグビー
エディー・ジョーンズ(著) ダイヤモンド社
ラグビー日本代表をセンセーショナルな存在へと押し上げた、エディ・ジョーンズ元日本代表ヘッドコーチの自叙伝です。W杯でオーストラリア、日本、イングランドの3カ国を率いた、世界で最も経験豊富なヘッドコーチといえるジョーンズさん。彼がどんなキャリアを歩みながら自分のラグビーを形作っていったのかについて、ラグビーだけでなく家族の歴史も絡めつつ、自分の仕事を完遂するための哲学を紹介する一冊でもあります。
「全力を尽くしたとて、負けていい試合などない」という感情をベースに「じゃあどうすれば勝てるのか」というロジカルな問題解決ができることがジョーンズさんの強みでもあるわけですが、2015年の南アフリカ戦における日本代表のプレーが、その考え方に大きな影響を与えたことを本書では語っています。論理的な判断はコーチとして重要であるものの、選手たちの心の奥底から湧き出るものを信じ、たたえることの大切さを学ぶなど、ジョーンズさんの人生が日本代表時代を含め、世界中の経験を糧にして形作られていることが分かります。
そんな日本代表の経験を活かして、現イングランド代表チームではどんな取り組みが行なわれているのか、強いと言われながらも成果が出せなかった同チームをどう改革しているのかについて、これまで語られてこなかった裏側も含めてフラットに描かれ、あっという間に読み終わってしまう一冊です。
3冊目:運命のタックル
荒川慶(著) 幻冬舎
スポーツ番組のディレクターである荒川慶さんが、自身で手掛けた番組で取材を重ねた2人のラガーマンの話を、より多くの人に知ってほしいと思い立ったことから出版に至ったノンフィクションの一冊です。とある大学ラグビーの試合にて、タックルを受けた選手が脊髄を損傷し、ハンディキャップを背負うこととなります。ただ、その時にタックルをした選手もまた、生存率50%といわれる肺ガンを患ってしまいます。そんな2人の人生を振り返りながら、その行く末をつぶさに追いかけた記録を、物語調にまとめています。
タックルを受け、ハンディキャップを負うこととなった中川マサヤはもうラグビーができない体になってしまったわけですが、タックルを浴びせた田中シンヤが肺がんの宣告を受けていることを耳にし、行き場のない感情を抱くこととなります。そんな中、シンヤがマサヤの入院している病院へ見舞いに訪れるシーンは、ぜひ一度手に取って読んでもらいたいところです。
絶望の淵に立たされながらも、ひとりのラガーマンとして状況を覆そうとする彼らの血のにじむような努力と周囲の支えも読みどころですが、ラグビーという共通点を持っていたからこそつながり合えた、2人の運命的な出会いと縁に心を揺さぶられます。
4冊目:闘争の倫理 スポーツの本源を問う
大西鐵之祐(著) 鉄筆文庫
戦後ラグビー界における伝説的な指導者であり、日本のラグビー史を語る上では欠かせない大西鐵之祐さんの哲学をまとめた一冊です。早稲田大学に入学した大西さんは、ラグビー部員として1937年に優勝を経験し、大学卒業後は一般企業に入社しラグビーを続ける予定であったものの、太平洋戦争が始まったことで出兵を余儀なくされます。戦後、教員の道を志し、講師として早稲田大学へと戻り、3期延べ9年間ラグビー部の監督を務めたことで、今日まで続く「強豪」早稲田大学ラグビー部の礎をつくり上げました。
2期目の大学監督を務めた後には日本代表チームのヘッドコーチ、そして監督にも就任し、日本ラグビーの根幹を育ててきた大西さんですが、この本は彼が思いの丈を注いで練り上げた、ラグビーを通じた哲学書のような重厚感のある作品に仕上がっています。自身の戦争体験を経て、戦争における「闘争」とラグビーにおける「闘争」の共通点や相違点は何なのか、そして「闘争」の中で「倫理」はどんな役割を果たし、そもそも「倫理」はどこでどのように手に入れられるのか、ラグビーを通じて深く思考をくぐらせる様子がありありと伝わります。
大西さんが提唱する、限りなく倫理的な振る舞いの在り方を与えてくれるのがラグビーであり、人類がこれまで手なずけることのできなかった、「闘争本能と向き合う手段である」という発想は、戦争体験に対するざんげや後悔を内包しつつも、彼の監督としての、そして人間としての魂の叫びを垣間見ることのできる到達点と言えるでしょう。
「ラグビー監督の名言集」のような感覚で手に取ってしまうとやけどをしかねないような本ではあるものの、戦争や闘争について立ち止まって考えるには最適な本ではないでしょうか。
これまで紹介した本
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