連休をおうちで過ごすあなたへ。目利き3人が“偏愛映画”を全力プレゼン!
① 親に捧げたい、贈りたい、一緒に観たい3本
『空母いぶき』(’19)
『アンストッパブル』(’10)
『万引き家族』(’18)
文=横森文
捧げたい:『空母いぶき』
最も近くにいながら、実は分かっていない。それが“家族”だ。例えば年齢によっては祖父や祖母の時代になってしまうが、第二次世界大戦を体験した両親が、どんな思いをしながら青春を過ごしたか。それを少しでも理解させてくれるのが『空母いぶき』だ。
舞台は過去ではなく20XX年。国籍不明の武装集団が日本の領土の一部を占拠し海上保安庁の隊員を拘束。そのため政府は航空機搭載型護衛艦「いぶき」を中心とした護衛艦群を現場に派遣する。
この映画で描かれるのは“戦争”ではなく“戦闘”。でもその戦いの怖さを知るには十分。いや、“戦闘”でこれだけヤバいのだから、“戦争”を体験した親世代はどんな思いで暮らしていたのか。そのことを思うと胸が熱くなる。ぜひ親に捧げたい作品だ。
贈りたい:『アンストッパブル』
親の意外な一面を見るのは、特別な何かが起きたときだ。特に親は子どもを助けるためなら思わぬ力を発揮する。
『アンストッパブル』では、危険な化学物質を大量に搭載したまま無人で暴走した貨物列車を、デンゼル・ワシントン扮するベテラン機関士とクリス・パイン扮する新人車掌が止めようと奮闘する。暴走列車が向かうのは都市。もし突っ込めば大災害は免れない。都市で働く娘たちを助けるためにも、父親であるベテラン機関士は、とんでもない無茶をしでかすことになる。
鉄道のプロとしての責任感と子どもたちへの愛情が機関士をヒーローにし、娘たちもそんな父の意外な姿に驚喜するのだ。どんな親でも子どものためにはヒーローになり得るもの。そんな親への感謝を込めて贈りたいのが『アンストッパブル』なのだ。
一緒に観たい:『万引き家族』
とはいえ、親が子どもにとってのヒーローになれるほどの関係を築くのに大切なのは、何よりコミュニケーションであり、親は子の幸せを、子は親の幸せを本気で願えるかどうかということ。
『万引き家族』はタイトルに“家族”とついているが、実際は家族ではない。さまざまな事情があって今はひとつ屋根の下で暮らしているバラバラの人間たちで、そんな人々の生きざまを追ったものだ。けれども彼らの根底には“家族”と呼べる絆がある。
初めに“家族”は最も身近で最も分かっていないもの、と断言したが、『万引き家族』を観ると愛情がなければ家族は呆気ないくらいに壊れ、逆に愛情が強ければ他人同士でも家族、いや家族以上の強い関係を築けることに気付くはずだ。『万引き家族』を一緒に観れば家族の絆は深まるだろう。
ぜひ、この3本を観て家族とは何か考えてほしい。
② 『ドクター・スリープ』と併せて観たい スティーヴン・キング原作映画3本
『ドクター・スリープ』(‘19)
『IT/イットTHE END “それ”が見えたら、終わり。』(‘19)
『ドリームキャッチャー』(‘03)
文=相馬学
モダン・ホラーの巨匠、スティーヴン・キングの小説を映画化した作品は怖いだけではない。時には、ダメ人間映画でもある!? トラウマを抱えたアダルトチルドレンの葛藤もまた、キング映画の醍醐味だ。そんな作品をチョイスして全力推し!
『ドクター・スリープ』
『シャイニング』(’80)の続編……という前情報は、とりあえずどうでもいいと断言しておこう。確かにドラマ的には“続き”ではあるが、テイストはガラッと異なるのだから。同作のダニー少年がダメな大人に成長したということだけ踏まえてさえいれば、あとはキング原作作品らしい“大人になりきれない大人”のドラマを楽しむのみ。
“シャイニング(=輝き)”と呼ばれる特殊能力を生かせぬまま輝けない中年になったダニー(ユアン・マクレガー)は、同じ能力を持つ少女を謎の集団から救おうとする。過去と向き合い、その過程で彼が知る天命は、切ない後味へと昇華していく。
そう、本作はもはや『シャイニング』のようなホラーではない。命をつなぐ者たちのファンタジーなのだ!
『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』
1作目は“ルーザーズ(=負け犬たち)”と名乗る子どもたちの邪悪な何ものかとの戦いを描き、『スタンド・バイ・ミー』(’86)に負けない甘酸っぱさを残してくれたが、その27年後を描く本作でも彼らは負け犬軍団だった!?
いや、脚本家や建築家、コメディアンなどなど、どうみても皆、社会的には成功している。それでも27年前の事件に縛られ、その過去に立ち向かわなければいけないのだから、前作で描かれた出来事のトラウマは相当に深かったのだ。
そもそも、成長を妨げるトラウマは若いうちに消しておくに越したことはない。しかし、それをなかなかできないのが多様性の現代を生きる大人のやるせなさ。一見立派に成長したようで、そうでもない本作の”負け犬”たちに触れると、そんな気持ちにシンクロして胸にグッとくる!
『ドリームキャッチャー』
キングならではの”大人になりきれない大人”の話といえば、なんといっても本作。グロテスクなモンスターが大暴れするホラー色、地球外生命体の存在を明らかにするSF色はキングらしいテイスト。
しかし、20年来の友人同士である青年4人組の雪山でのサバイバル・ストーリーは恐怖に彩られるというより、むしろ行き過ぎて笑える。寄生した異星生物は尻から出てくるし、これを倒そうと介入してくる軍人の行動は、かなりクレージー。4人組の中で、とりわけ大人になりきれていない者は早々に“戦死”する。何が起きても不思議ではない混沌がそこに広がっているのだが、その混沌ゆえに愛さずにいられない怪作。
ダメ男が成長するには、結局のところ、尽きることのない混沌を鎮め続けなければいけない……ということか!?
③ 衝撃ラスト! 2019-2020編~驚きっぱなしの3本立て~
『ジョーカー』(‘19)
『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(‘19)
『屍人荘の殺人』(‘19)
文=くれい響
クローズド・サークル(閉鎖的な空間)で起こる、衝撃のラストに驚かされた3作品をセレクト!
『ジョーカー』
※以下には作品の内容に関するネタバレが含まれています。
未見の方はご注意ください。
『バットマン』(‘89)でおなじみのヴィラン誕生秘話を描く一方、あえてDCユニバースから切り離すために、トッド・フィリップス監督が仕掛けたトラップが魅力的な『ジョーカー』。
“愚か者の町”ゴッサムシティが市民の暴動で混沌とするなか、主人公アーサー(ホアキン・フェニックス)が“救世主”として祭り上げられるクライマックスの直後、病院の一室で、拘束された彼は精神分析医からカウンセリングを受けている。
そこで気になるのは、ジョーカーとして緑に染まっていた“髪の色”が黒に戻ったこと。その直後に“血の足跡”を残して脱走を図ろうとしていること。現場にいなかったはずの“回想シーン”らしきもの。そして、監督が「アーサーが唯一、純粋に笑っているシーン」と解説する“笑い”。これらは全てアーサーの妄想にすぎなかったのか?
ラスト・シーンを深読みすることで、現代への社会批判も含む、衝撃と戦慄がより深まるはずだ。
『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』
※以下には作品の内容に関するネタバレが含まれています。
未見の方はご注意ください。
続いて、映画化もされた「ダ・ヴィンチ・コード」シリーズ出版の際、情報流出を恐れ、各国の翻訳家を地下室に隔離して翻訳させた実話をベースにした『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』。
その設定の面白さはもちろん、ドイツ語、イタリア語、中国語などの個性豊かな翻訳家たちのキャラが肝となる本作。それだけに、彼らが事件前に行っていた出版社オーナーからの原稿奪還作戦という『ミッション:インポッシブル』(‘96)ばりのチーム・プレイに胸が躍る。
そして、最年少である“天才”英語翻訳家の知られざる過去が際立つことに。横暴すぎる大手出版社に対する批判や、プルーストの小説「失われた時を求めて」が伏線となっている復讐のドラマなど、色んな意味で見応えのあるサスペンスに仕上がっている。
『屍人荘の殺人』
※以下には作品の内容に関するネタバレが含まれています。
未見の方はご注意ください。
3本目は、「このミステリーがすごい!」など、国内ミステリー・ランキング4冠を達成した小説の映画化『屍人荘の殺人』。
神木隆之介演じるミステリー愛好会の葉村譲と浜辺美波演じる“探偵少女” の絶妙すぎる掛け合いに爆笑! また、中村倫也演じる“自称・神紅のホームズ”こと明智恭介が早々にフェイドアウトしたかと思えば、(クローズド・サークルと、他殺体が発見される施錠された部屋という)二重密室の舞台となる合宿所「紫湛荘」がかかったタイトルにつながる、ある種掟破りと言える展開の連鎖が意外性を生み出していく。
そして、新たな敵の存在が明らかになり、続編小説へと続いていく衝撃のラスト! 10月の放送をぜひチェックしてほしい。
▼放送詳細はこちら
※『ドリームキャッチャー』『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』のWOWOWでの放送予定はありません