ラヴソングの王様・鈴木雅之が最新アルバム『Snazzy』を引っ提げた全国ツアーで魅せたスナーズィ=粋なステージ。心の内面からあふれ出る思いを歌う彼が目指す“古稀ソウル”とは
撮影:三浦憲治
再来年9月に迎える70歳に向けて、“古稀ソウル”を目指し「ステップ1・2・3」“シーズン2”に臨んでいる鈴木雅之。かつて60歳に向けて“還暦ソウル”へと一歩ずつ階段を上っていったように、また新たな“高み”を目指している。
今年3月に最新アルバム『Snazzy』を発表した彼は、4月から8月にかけて全国25か所27公演の全国ツアーを展開。7月14日に開催されたNHKホール公演はWOWOWで生中継された。前作アルバム『SOUL NAVIGATION』がダンス、ファンクミュージックを軸としていたのに対して、今作で届けられたのはブルース。それは音楽ジャンルとしてのブルースだけを指すのではなく、「心の内面からあふれ出る思いを歌う」という本質的な姿勢を示すものだった。
アルバムと連動した今回のステージコンセプトは、ニューオーリンズのバーボンストリートにたたずむジュークジョイント“House of Snazzy”。マーチンは店のオーナーでありラヴソングを届け続ける専属ヴォーカリストという設定だ。開演時間が過ぎると観客が店と心のドアを開き、ソファに座り足を組んだ彼が迎え入れる。粋なセットと演出でコンサートの幕が開けた。
1曲目は最新アルバムのオープニングを飾る「Hey you ?, Hey sup ?」。ニューソウルのマナーに乗せて、今日という一日のはじまり、新たな人生のはじまりを祝福する。続く「Ultra Snazzy Blues」は今作の核となる骨太なブルース。B'zの松本孝弘とGReeeeN(現GRe4N BOYZ)とのコラボレーションにより生まれた奇跡のナンバーが胸を打つ。代表曲「違う、そうじゃない」をはさみ、つのだ☆ひろ提供の“王道ソウル”とも呼ぶべき「君は魔法使い」へ。新鋭バンドBillyrromをフィーチャーし新境地を開いた「Magic Hour」、自身の作詞作曲による「Psychedelic City」と最新セットリストを続けて、冒頭から新たな一面を垣間見せる。
松田優作の魂にリスペクトを捧げた「YOKOHAMA HONKY TONK BLUES」、上田正樹の代表曲「悲しい色やね」と続けた邦楽カヴァーでは音楽史に残る名曲に心を尽くし、「さよならいとしのBaby Blues」では盟友・有賀啓雄へ追悼の意を込めて歌う。誰もが彼の思いを真っ直ぐに受け止め、ホール全体が厳かな空気に包まれた。
圧巻は、初の洋楽カヴァーアルバム『Soul Legend』に収録され、今回23年ぶりにヴォーカルが再録音された「Me and Mrs. Jones (2024 Ver.)」だった。露崎春女との極上のデュエットが、聴衆を1970年代のめくるめくフィラデルフィア・サウンドの世界へと誘う。若い頃ダンス・パーティーでのチーク・タイムの定番だったというこの曲を今回改めて取り上げたのは、“魂の里帰り”をするような気持ちがあったからだという。その一方で、歌い継がれることで楽曲に新たな息吹や時代を超える普遍性が宿されるような、神聖な儀式のようにも感じられる名演だった。
レーベルメイトである石崎ひゅーい作詞作曲、トオミヨウ編曲による「ベイビー・レイニー・ブルース」も素晴らしかった。グルーヴィーかつアップテンポに思いが加速していく“疾走感あふれるブルース”は、鈴木の歌に新たな彩りと色気を加えていた。
「DUNK」「DRY・DRY」「恋人」と、“マーチン・クラシックス”とも呼ぶべき3曲を続けた後に披露されたのは、本編最後の曲となる「Beautiful」。アニメ「かぐや様は告らせたい」シリーズでのセッションも印象深い、水野良樹(いきものがかり/HIROBA)と本間昭光が手掛けた名バラードだ。人が育む愛、人が失う愛、それでも、人を信じる愛。尊さと切なさが聴き手の人生に寄り添い、胸に沁む。彼は、ひとりひとりの心の傷みを癒さんとばかりに、声の限りに歌う。スモーキーな歌声に五感を委ねたオーディエンスの陶酔した姿もとても印象的だった。
熱狂の中にも恍惚が感じられる、芳醇なアンコール。満場のエールに呼び戻されるように、“ラヴソングの王様”が再び舞台に登場する。1曲目は、初のアニメタイアップが話題となり、新しい世代の音楽リスナーを虜にした「ラブ・ドラマティック」。会場中のハートに火を点けて真骨頂をまざまざと見せつけると、いよいよステージはハイライトへ。白い手袋を取り出し「さあ、行ってみようか!」と叫ぶ“リーダー”鈴木雅之。シャネルズの「街角トワイライト」から「トゥナイト」と畳みかけて、NHKホールが一気に“あの頃”へとワープする。さらに、ラッツ&スター改名後の第一弾シングル「め組のひと」を放ち、場内をディスコ&ソウルに染め上げていく。
シャネルズ~ラッツ&スターのナンバーを続けた最後は、大瀧詠一が手掛けた吉田美奈子のマスターピースを1996年にカヴァーした「夢で逢えたら」。ロマンティックな中にも祈るような願いを込めた作品だ。リフレインが心の中で、いつまでも鳴り響いた。最後に歌ったのは、斉藤和義の「歌うたいのバラッド」と最新アルバム収録曲「Dreams Come True」。ヴォーカリストたる自分の信念を確かめるように、あふれる思いが届くように。歌に言霊を込めるような熱唱。その純度の高さに思わずため息がこぼれた。
年輪を重ねたからこそ体現することが出来る太い幹のような彼の歌は、聴く者に人生を進むための力強さを与えてくれる。かけがえのない“生”を祝福し、ときに叱咤激励し、ときに癒す。それこそが鈴木雅之が贈るリズム&ブルースであり、目指すべき“古稀ソウル”なのだろう。深い感慨と余韻を胸に帰路へと向かう観衆の笑顔がとても素敵な夜だった。
WOWOWでは、NHKホール公演の模様に加え、当日のバックステージの様子や最新アルバム『Snazzy』に関わった作家陣からのライヴの感想も織り交ぜた“スペシャル・エディション”を制作し、9月24日(火)午後9:00より放送・配信する。鈴木雅之が歌うソウルミュージックの真髄を、番組を通じて堪能していただきたい。
WOWOW番組情報
【3カ月連続特集!鈴木雅之「Snazzy」】
📌鈴木雅之 Music Video Collection
8月21日(水)午後7:00~
WOWOWライブで放送/WOWOWオンデマンドで配信
📌鈴木雅之 taste of martini tour 2024 ~Step123 season2 "Snazzy"~ Special Edition
9月24日(火)午後9:00~
WOWOWライブで放送/WOWOWオンデマンドで配信
※放送・配信終了後~3週間アーカイブ配信あり
収録日:2024年7月14日
収録場所:東京 NHKホール
▼WOWOW番組サイト
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