林遣都と小松菜奈の“濃さ”が起こす化学反応から、異色の恋愛映画『恋する寄生虫』の魅力を紐解く

映画ライターSYOさんによる連載「 #やさしい映画論 」。SYOさんならではの「優しい」目線で誰が読んでも心地よい「易しい」コラム。“濃い作品”に次々出演する俳優、林遣都小松菜奈が初共演を果たした『恋する寄生虫』('21)の魅力を紐解きます。

文=SYO @SyoCinema

 俳優とは因果なもので、作品の中で存在感を示せば示すほどイメージが染みつき、時として囚われてしまうもの。しかもこれは本人というより視聴者側に生じるものであるため、アンコントロールな領域でもある。

 例えば、映画やドラマで強烈な悪役を演じていた俳優が、別の作品で善人を演じていたときに観る側が引きずってしまったり、あるいは「この役、前の作品とかぶっていないか?」と集中できなかったりといった経験はないだろうか。いわば、作品とのピュアな対話が成立しづらい状態。このように、俳優の活動はパブリック/パーソナル・イメージから生じるノイズとの闘いともいえるかもしれない。

 極力イメージを定着させないために、バラエティ番組やSNSなど本人の素(に近いもの)を一切見せない俳優もいるが、その他にも「作品の“縦軸”で相殺する」という方法論がある。単純に言えば、“濃い作品”をどんどん重ねていくのだ。役どころも、作品のカラーも、演技のテイストも変えていけばイメージは常に更新され続けるし、幅の広さを見せられるというわけ。さらに言えば、「濃い作品に次々出演する俳優」という新たなイメージも付加される。林遣都小松菜奈は、まさにその体現者だ。演技も作品自体も、独自性が高いものに次々と出演してきた。

 そんな2人が初共演を果たした映画『恋する寄生虫』は、必然的にトガりまくった作品になったといえるだろう。本作は、林演じる潔癖症の男性・賢吾と、小松演じる視線恐怖症の女性・ひじりによるラブ・ストーリー。そこに、人を狂わせる“虫”を巡る物語が絡んでいく。演出家・映像作家・撮影監督として活躍する柿本ケンサク監督が創出したスタイリッシュな映像美だけでもくらくらとさせられるが、そこに乗る林と小松の演技も負けず劣らずエッジーだ。

 幼少期に両親の自殺を目撃し、極度の潔癖症を発症してしまった賢吾。外出する際には全身を防護し、バスの中で乗客がせき込む姿を見るだけで気分が悪くなり嘔吐してしまう。消毒は欠かせず、誰かの作った料理を食べるのは命懸けだ。他者と触れ合うことなどもってのほかで、誰ともつながることができない哀しみを抱えている。一方、他者からの視線が恐ろしく、周囲が目の肥大化したような化け物に見えてしまうひじりもまた、“ひとりでいるしかない”現実に苦しんでいる。そんな2人が、自身から最も遠い“恋”という事象と感情にどう向き合うのか――。

 『恋する寄生虫』は、ハンディキャップを超えた恋愛の衝動を描いているため、賢吾とひじりを体現する林と小松の演技には、相当の“説得力”が求められる。恐怖・痛み・苦しみといった彼らの「背負ってしまった」部分に実感がこもっていなければ(そして彼らの姿を通して観客が“生”の感覚を得られなければ)、その先にある恋愛ドラマのエモーションは“うねり”まで成長できず、さざ波で終わってしまうだろう。

 柿本監督は潔癖症の賢吾と視線恐怖症のひじりに見える世界をビジュアライズしているが、性質上ストレートな現実描写ではない。“寄生虫”の描写も含め、作り込まれた世界観と出演者の生っぽさ――フィクションとリアルが融合することによって刺さるつくりになっているのだ。

 この構造の中で、林と小松が魅せる皮膚感覚の鋭い演技が、非常に効いている。端的に言えば過敏であり神経質である、ということなのだが、その感覚が観る者にも伝播し、自意識が拡張するようなヒリヒリした気持ちにさせられる。それは2人の表情であり、全身から放つ雰囲気に呑み込まれ、共鳴させられてしまうからであろう。また、その“痛み”には、自分ではどうしようもないという哀しみも含まれており、それを感じ取れることが共感やひいては感動へとつながっていく。

 そしてここに、冒頭に述べた林遣都と小松菜奈のフィルモグラフィが見事に重なっていく。

 林は『バッテリー』('07)でデビュー後、『パレード』('10)、『悪の教典』('12)、『花芯』('16)のようにセンセーショナルな作品から『荒川アンダーザ ブリッジ THE MOVIE』('12)、「HiGH&LOW」シリーズ('15~'17)、「おっさんずラブ」シリーズ('18~'19)といったドラマ&映画と拡大した人気作品、『にがくてあまい』『しゃぼん玉』(共に'16)のように印象的な役柄を任される作品等々、的を絞らせない俳優道を歩んできた。近年では舞台にも積極的に進出し、より分厚くなった印象がある。

 小松は『渇き。』('14)、『ディストラクション・ベイビーズ』『溺れるナイフ』(共に'16)といった特濃の作品に多数出演しつつ、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』('16)、『恋は雨上がりのように』('18)といった切なくも爽やかなラブ・ストーリーにも出演し、『沈黙 -サイレンス-』('16)、『ムーンライト・シャドウ』('21)では海外のスタッフとコラボレーション。最新作『余命10年』('22)はヒットを記録中だ。

 2人の出演作の一部をざっと過去から現在に至るまでなぞってみるだけでも、個性的な作品に寄り添い、都度違った発色を見せてきたことが分かるだろう。作品ごとにがらりと見え方が変化し、だが毎度“濃さ”はしっかりと担保している――。2人に定着したイメージは、その挑戦心。初共演の化学変化も含め、『恋する寄生虫』を林遣都と小松菜奈の“縦軸”で観てみるのも一興だ。

SYOさんプロフ20220116~

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クレジット:©2021「恋する寄生虫」製作委員会

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