思い出話に花を咲かせるのなら、未来の花の種をまいたほうが良くない?――『レミニセンス』を観てスピードワゴン・小沢さんが心を撃ち抜かれたセリフとは?
取材・文=八木賢太郎 @yagi_ken
──今回のチョイスは、ジョナサン・ノーランが兄ノーランと極めた時間軸マジックをさらに進化させた圧倒的な記憶世界で話題を集めたハリウッド大作です。記憶に隠されたトリックが斬新でした。
小沢一敬(以下、小沢)「うん。面白かったね。映像も設定も世界観も、俺の好きなタイプのやつだった。SF映画でありながら、ちょっとハードボイルドというか、今の時代のフィルム・ノワールっていう感じで」
──もっと肩肘張って観る難解なSF映画かと思ってたんですけど、意外とスマートな作品でした。
小沢「作りも凝ってたよね。どれが過去の記憶の世界なのか、わざと分からなくさせたりとか、ああいうのも好き。『自分の脳内にある過去の記憶の映像なのに、なぜ自分の視界に映ってないものも見えるのか?』というパラドックスについても、説明セリフっぽくないシャレたセリフで説明してて。言われてみれば、自分の過去の思い出、例えば俺が15歳の時に好きな女の子と海辺にいた場面なんかを思い出すと、その子を見つめてる自分の姿も思い出せるんだよね。多分、みんなもそうでしょ? そういうことも理解させた上で物語が進んでいくから、すごく丁寧に作られた作品という感じがしたよ」
──主演のヒュー・ジャックマンとレベッカ・ファーガソンのやりとりも、いちいちシャレてました。
小沢「秘密の金庫の鍵の開け方とかも、ちょっと凝ってたよね。だから、誤解を恐れずに言うなら、この映画は、大人がお酒でも飲みながら何気なく観るのにちょうどいい作品だと思った。学びがあるとか深く考えさせられるものではなく、『あ~、楽しかったな。いい映画だった』って思える作品。いい本を読んだ後とか、好きな漫画を読んだ後みたいな、そういう気分になれると思う」
──ちなみに小沢さんは、もう一度戻りたい過去の場面とかありますか?
小沢「それはね、先輩とか同期と集まって飲んでた時にも何度かその話になったんだけど。俺たち、良くも悪くも昔はめちゃくちゃだったから、みんな『昔は毎日が楽しかったような気がするよね』って。実際、毎日遊んでたからね。まあ、俺は今でも毎日遊んでるんだけどさ(笑)。他のみんなは結婚したり、仕事が忙しくなって、『昔のほうが楽しかった気がする』って言うんだ。でも、俺が『じゃあ、昔に戻れたら、戻る?』って聞くと、みんな『戻りたくない』って言うのよ。なぜかといえば、『またここにたどり着けるか分かんねえから』って」
──素敵な話ですねぇ、それは。
小沢「もちろんそれは、これまでうまくやれてこれた人たちだからそう言うのかもしれないけど。ただ、俺も基本的には過去に戻りたいと思わないよね。前にも話したけど、過去っていう漢字は『去った過ち』って書くでしょ。『過去のすべてが過ちだった』なんて言うのはニヒル過ぎるけど、誰の過去も決して100点満点ではなかったと思うの。だから俺も、過去には何も求めないよね」
──この映画の登場人物たちのように、過去の一場面を切り取って、もう一度体験したい瞬間とかはないですか?
小沢「うん。もう一度体験したいと思ったら、今またその設定を作るもん。例えば、また中学生の頃みたいに『あ~っ! うわ~!』って叫びたくなるような恋をしてみたいな、とは思うけど、そんなのは別に中学時代に戻らなくたって、いつでもできるんじゃないかなって。俺はそう思って生きてるから。過去に捕らわれるのは、あんまり好きじゃない」
──小沢さんなら、そういう答えが返ってくるとは思ってましたけど。
小沢「そういえば昔さ、友達に『オザって、ホントに昔話しないよね』って言われたことがあったのね。俺はしてるつもりだったんだけど、『みんなで思い出話に花を咲かそうってときに、オザだけは花を咲かせない』って。その時に俺が言ったのが、『思い出話に花を咲かせるのなら、未来の花の種をまいたほうが良くない?』」
──いやもう、「甘~い!」としか言いようがない。
小沢「ただ、そう言っちゃった手前、もう、そいつらの前で過去の話をできなくなっちゃったんだけどね(笑)」
──年を取れば取るほど、昔話が多くなりがちですけどね。
小沢「そうね。例えば数年に1度、地元に帰って幼なじみと会うんだけど、そこで毎回同じ話が出るんだよ。毎回、15歳のあの夏の話。10年前も20年前もその話だった。なんでかな? って考えたんだけど、結局、そいつらと俺との物語は、そこで終わっちゃってるんだよね。それに気付いたから、これからも会える友達とは、できるだけ関係性が止まらないようにしたいなって思ってるの。止まっちゃったら、もう昔話をするしかなくなっちゃうからね」
──では、そんな「過去に捕らわれない」小沢さんが、「過去に捕らわれまくる男」が主人公のこの映画の中で、一番シビれた名セリフはなんでしょう?
小沢「さっきも言ったように、いい意味でこの映画は、楽しんで観て終わる作品だと思うから、セリフの中に、この後の人生で持ち歩きたいと思うほどの言葉はあまり出てなかったんだよね」
──カッコいいセリフはたくさんありましたけどね。
小沢「そうそう。それっぽい言葉はたくさんあったのよ。ラストの方でメイがニックに言う、『あなたは私を、人と違う目で見てくれた。あなたが思う人間になりたかった』とか、『愛は、よじ登らないと手に入らない』とか、あのへんのセリフなんかは、ものすごく“っぽい”のよ(笑)。“っぽい”んだけど、実はそこまで重要な言葉じゃないから。ただ、だからこそ俺はこの映画が好きなんだと思うんだ。荷物にならない映画っていうか、どれも言葉が重過ぎない」
──「荷物にならない映画」って、すごくいい説明だと思います。
小沢「ニックが相棒のワッツ(タンディ・ニュートン)に大事なお願いをする時に言う『悪いが俺には、君しか友達がいないんだ』とか、ワッツとメイが語り合っている場面の『男って変よね。目の前を見てない』とか、いかにもフィルム・ノワールに出てきそうなセリフが、ところどころに出てきて。そういうのは観てて気持ちよかったんだけど、逆に『このセリフこそがこの映画のキモだなぁ』っていうセリフはあんまり見つけられなかった。だから、ひとつだけセリフを選ぶとするなら、完全なネタバレになっちゃうんだけど、やっぱり最後の最後の場面に出てくるセリフかな」
<※ここから先はネタバレを含みますのでご注意ください>
──そのセリフとは?
小沢「ワッツが言う、『どちらも正しかったと思いたい』」
──年老いたワッツが、彼女の孫娘に語るセリフですね。眠っているニックの姿を見た孫娘から、「おばあちゃん、この人を失って寂しいのね」と言われたワッツが、優しく語り掛ける言葉。
小沢「そう。『寂しさは世界の一部よ。悲しみがなければ幸せも味わえない。昔、私たちは結末を選んだ。彼は過去へ、私は未来へ。どちらも正しかったと思いたい』。あの言葉が、この映画のすべてを表わしてるよね」
──すごくいい場面の、すごくいいセリフです。
小沢「あと、あれも好きだな。『過去とは、ある瞬間の連続』ってやつ」
──冒頭とラストの、ニックのナレーションの中に出てくるセリフですね。
小沢「さっきの地元の幼なじみとの昔話じゃないけどさ、過去の記憶って、すべて止まってるんだよね。どれも瞬間の絵の連続でしかないというか。決して動画ではないんだよ。それはいつも思ってる」
──そうですね。どれも切り取った絵のように頭の中に残ってる。
小沢「そういう意味でこの映画は、今現在の自分が過去に生きてるのか、未来に向けて生きてるのか、それを確認するのにはちょうどいい作品かもしれないね。この映画を観た人は、必ず自分の過去の思い出を頭に浮かべると思うんだ。『あの時に好きだったあの子、どうしてるかな?』とか。その時、今の自分が、その過去の記憶とどう向き合えているかが分かると思うから」
──でも、さっきのワッツのセリフでは、そういう過去の記憶に埋もれて生きていく生き方も、ちゃんと肯定してくれてますよね。
小沢「『どちらも正しかったと思いたいわ』ってね。そうなんだよ、俺はたまたま過去に興味のない人間だけど、たとえ過去の美しい思い出とともに生きていたって、それはそれぞれの人生だから、他人がとやかく言うことじゃないもんね」
──何度でも話したいほど、楽しい思い出というのもありますから。
小沢「そもそも俺だって、『過去には興味ないね』とかカッコつけて言ってるけど、これまでのこの連載の中では、自分の過去の話ばっかりしてきたよね。言ってることとやってることが全然違うじゃん(笑)」
──でも、小沢さんはそういうお仕事ですから。
小沢「そうね。興味はないけど、口にのりするために、仕方なくしゃべってるのよ(笑)」
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